まずはその幻想をぶっ壊す!

 さてさて皆様、中には都会の喧騒を離れ、田舎でのんびり農業ライフを、などと考えておられる方もいるかもしれません。


 あるいは、忙しない都会を離れ、悠々自適にゆっくりとした時間を目指して、田舎暮らしをしてみたい。こういう方もおられるでしょう。


 そういう事に関しては、“個人的には”おすすめいたします。事実、私も現在田舎で暮らしております。


 元は大阪京都で調理師をしていた身分でありまして、まあ色々と疲れてしまったわけでございますよ。人間関係にも、仕事にも。


 ゆえに、今の農業ライフを楽しみ、満喫しております。齢40にして、ようやく身の置き所を見つけた。そう申しておきましょうか。


 都会に比べて人は少なく、買い物にも不自由しておりません。最悪、ネット通販もありますし、今のご時世、店頭購入に拘らなければ、なんでも買えます。


 公共交通機関が貧弱であるため、足となる車は必須ですが、それさえ持っていれば、移動は苦になりません。むしろ、コロナ禍の情勢下においては、人の少なさや移動は常にマイカーという状態は、感染リスクを抑えるのに役立っていることでしょう。


 通勤通学で満員電車に揺られ、感染のリスクに怯える日々は、精神衛生上にもよろしくない。その恐怖やわずらわしさを考えるだけでも、“個人的には”大成功とも考えております。


 田舎に引っ越してよかったと思ったのは、ニュースで都市部のコロナ禍を見聞きする度に思うわけでございますよ。大阪京都にいて調理師なんぞやっていたら、モロに影響を受けていたでしょうし。


 強いて言えば、各種イベント事が何もないくらいでしょうか。店の種類も数も貧弱で、エンターテイメント成分は控えめになってございます。


 もっとも、自分の趣味は料理であり、あるいは創作活動であるため、特にイベント事に出掛けることはあまりないので、それほど気にはなりませんが。


 引っ越して困ったことはと言えば、冬場の積雪くらい、というのが正直なところです。


 今の生活を一言で例えるなら、“晴耕雨読”です。日が差す時には畑に出て、雨の日には家で静かに書を嗜む。ある種の理想的な生活ではないかと考えております。


 ここだけ聞けば、田舎暮らしも悪くはないんじゃないかと思いますが、はっきりと言わせていただきます。断言します。



『田舎暮らし、農業ライフをなめるな!』と。



 はい。半端な覚悟で挑むものではありません。新天地で新たな生活基盤を築く、それも雇われ人としてではなく、経営者として暮らす、ということの意味を理解していただきたい。


 農家は生産者と思われています。それは間違いありません。“消費者”である都会の住人の視点であればそうです。しかし、自分がその立場になると、“生産者”であると同時に、“経営者”にもなるということです。


 雇われ人であるならば、上司の指示に従って職務を遂行すればお給金を貰えますが、自身が経営者になるということは、どう稼ぐのかを自分で差配しなくてはならないことです。


 最悪、収入無し。どころか、経費でマイナスすらあります。


 それが全力で襲い掛かってきます。しかも、失敗しても、すべて自分にかかってくるため、金銭的には誰も助けてくれません。


 そう、農業とは一種の“博打”、あるいは“投資”なのです。種や肥料を先買いして、収穫物として回収する。その差額が懐に入るというわけです。


 また、人付き合いが面倒だから、人の少ない田舎がいいな。こう考える人もいるでしょうが、これも間違いです。


 人が少ない分、付き合いが濃厚になって、人によっては余計にきつくなります。


 仮に想像していただければ、現在ご自身のお住まいから半径50m以内にどれだけの人が住み、どこのどちらさんか、すべて把握している人はいるでしょうか? 


 数が多いと把握できませんし、ましてマンション暮らしならなおのことでしょう。


 しかし、田舎は人が少ない分、こっちもあっちも把握しています。まして、田舎のコミュニティーに余所者という異物が入り込めば、どうあがいても悪目立ちします。


 はっきり言えば、コミュ力最優先。これがないと、まず潰れるか、潰されます。


 ゆえに、“覚悟”と“体力”と“コミュ力”と“資本力”、これらが揃っていない方は、田舎暮らし農業ライフは絶対にやらないこと。これは断言できます。


 しかし、これらをクリアしたときの、恩恵はありますよ。


 先程も言いましたが、自分の金を自分のために投資して、最終的に回収するわけですから、金も自分の懐から出ていく半面、入ってくる金も自分の物にできるというわけです。


 軌道に乗るまでは大変ですし、自分も散々苦労しました。


 しかし、自分の場合は開始から3年目で自身のスタイルをおおよそ確立し、5年目に突入した現在は安定軌道に入りました。


 そして、調理師をしていたころの給料の倍額が、“毎週”営農口座に振り込まれてきています。


 投資である以上、リスクを負いますが、その分のリターンが大きいのもまた、投資の魅力でもあるのです。安月給であったというのもありますが、もうこの味を知ったからには抜け出せません。


 とある作家は言いました。「人生で最も影響力のある本はなにか? それは“預金通帳”である」と。


 はい、まったくもってその通りでございます。増え続ける預金通帳の残高に、ずっとニヤニヤしておりますとも。


 農業開始直後の資金繰りのヤバさを考えますと、今の肉体的精神的な安定感は別人のようです。


 貧すれば鈍するとは、まさにこのことでしょう。貧乏人はバカな考えを起こし、ゆとりある者は思考の幅が広がる。これを今現在、噛み締めております。


 以上のことを踏まえ、田舎暮らしを考えている方に、今一度申し上げます。



『田舎暮らし、農業ライフをなめるな! “覚悟”と“体力”と“コミュ力”と“資本力”、これが揃ってなければ踏みとどまれ!』



 はい、田舎暮らしへの幻想をぶっ潰したところで、次回からは自分の味わった苦労や、あるいは報われた話を、具体的にはなしていこうかと思います。


 ではでは!



           ~ 次話に続く ~  

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