第7話 幼竜のブレスは超一流

本を読んだ後に、ソラに聞いてみた。


「ソラって世界を滅ぼすのか?」


暴竜王とはそう言う存在らしい。


幾度も世界を混沌に導いた恐ろしいドラゴン。


ドラゴンさんが怖がるのも無理はないよな。


「分からない」


まぁ、子供に聞くような話ではないか。


どちらにしろ、子供にはしっかりと栄養をとって、大きくなってもらわないとな。


「朝飯、食うか?」

「うん!!」


しばらく、暇な日が続いた。


唯一の客であるドラゴンさんが姿を見せなくなってしまったのだ。


……。


「ソラ?」


ソラの様子が少しおかしい。


ビーフシチューを十杯しか食べないなんて……。


いつもの半分じゃないか。


「なんか、気持ち悪いの」


どうしよう……。


ここには子供の医者なんていないし……。


そうだ!!


『商品注文』画面の検索バーに……。


『暴竜王 子供 気持ち悪い 薬』


これでどうだ……。


『条件に該当する商品は1件です』


よし、きた!!


『暴竜王のエチケット袋』


いるか!! こんなもの!!


くそっ! どうすればいい?


とりあえず、ソラのもとに戻るか……。


だが、俺は信じられない光景を目にしていた……。


ド、ドラゴンだぁ。


ドラゴンさんとは違う小さい姿だけど……。


まさか、ソラ?


「ソラなのか?」

「きもぢわるぃぃぃぃ」


ソラが口から何かを吐き出し始めた。


炎?


炎の息だ。


森が……森が燃えていく!


「ソラ!! やめるんだ!!」


くっ……なんて、熱さだ。


「おろろろろろろろ」


ダメだ!!


止まる様子がない。


このままでは、森が全部燃えてしまう……。


はっ!!


あれはドラゴンさん……。


ドラゴンさんの周囲から強烈な風が吹き荒れ、燃え広がっていた火が徐々に消えていった。


「ソラ!」

「すっきり……」


良かった。


いつものソラの姿に戻った。


真っ裸だけど……。


「派手にやったな」

「ドラゴンさん。助かりました」


「ふむ。気にするな。子供はブレスのコントロールが難しいからな」


あれを気にするなレベルか……。


まるで違う世界の住人……あっ、違う世界か。


「今日はどうします? 食べていきます?」

「うむ。頼む」


ソラはすやすやと気持ちよさそうに寝ている。


また、炎なんて吐かれたら困るよな。


「あれは定期的にあるものなんですか?」

「ブレスか? まぁ、子供はな。我も、それでよく一つの山を消したものだ」


そんな軽い調子で言うようなことでもないだろ。


困ったなぁ……。


「おい、ちょっと焦げていないか?」


おっと……。


考え事をしていたら、手が動いていなかったな。


ん?


ちょっ……。


「ドラゴンさん、口から何か出ていますよ」

「ああ、ブレスがちょっと出てたか。感情が高ぶると、な」


たった焦げたくらいで?


これからは考え事も危険だな。


まぁ、プロとしてはドラゴンさんに一理あるんだよな。


「あいよ」

「ずっと食べられなかったからな。ふむ。やはり美味い」


ソラから逃げてたもんな。


「ソラって世界を滅ぼすんですか?」

「ブーッ!! ゴホッゴホッ。なぜ、お前が……」


『暴竜王大全集』の本を見せた。


「どうして、これを……龍神ライブラリーの秘蔵書ではないか」


いや、普通に買えちゃったけど?


値段も1500円と結構安いし。


「これが全てだ」


やはり、そうなのか。


「……あの娘はどうするつもりなのだ? 殺すのも一つの方法だが?」


何、言ってやがる。


「子供に罪はない。育ててやるのが大人の責任ってやつだろ。世界のことは後で考えればいいんじゃないか?」

「そうか……。本来は我の仕事だったのだからな」


……ん?


今、なんて言った?


「どう言うことだ?」

「あの幼竜は我の番になるはずだったということだ。我の結界のせいで、お前のところに間違って来たのだろう……」


どういう、ことだ?


ちょっと、待て。


「どうして、俺のところに?」

「ここは昔、我が巣にしていた場所だ。その残り香にひかれてやってきたのだろうな。愚かな娘だ」


まだだ。


それでは情報が足りない。


「俺は注文したんだ。幼竜が勝手に来たわけじゃない」

「それは分からないが……竜神という言葉に覚えがないか?」


……覚えどころの騒ぎじゃない。


返品を断ってきたやつじゃないか。


「そいつが何の関係が?」

「……面倒だ。それにこれ以上は結界が心配になってくる。さらばだ」


ちょっ……!


「どうしても、気になるなら……『幼竜の育て方』を調べるがいい」


なんだよ、それ。


……行っちまった。


俺は厨房の片付けをしてから、運転席に戻った。


当然、『商品注文』からさっき、言われた単語を入力する。


『幼竜の育て方』と。


『条件にあう商品は一件です』


本当にあったな。


すぐに注文をする。


俺はソラが起きたときに備えて、ビーフシチューの下準備だけしておいた。


「ソラぁ……って起きていないか」


寸胴鍋の蓋を閉じて、俺は寝床についた。


翌日、大量の食材とともに、一冊の本が届けられていた。


『幼竜の育て方』


本当にこんな本があるんだな。


食材を冷蔵庫にしまい込み、本を熟読した。


……。


ドラゴンのメスはオスのところに幼竜として竜神に届けられる。


……まるでコウノトリだな。


ちょっと、違うけど。


オスは番として、幼竜を育て、子を為す……なるほどね。


ドラゴンさんが言っていた話はこの事か。


ソラは本来はドラゴンさんの番になるために来たんだよな。


じゃあ、今からでも……。


だって、俺、ドラゴンじゃないし……。


注意?


なになに……幼竜が初めて目にしたものを番の相手と認識するので巣は誰もいない場所に設置して下さい……。


ダメじゃん!!


なに?


俺はソラの番なの?


育てないといけないの?


……そんなつもり、全然なかったのに……。


とりあえず、続きを読もう。


幼竜には餌を与えましょう。


それはそうだな。


与えるのは主にモンスターの肉がオススメです。


魔素を多く含む食材でも構いません。


……どっちも与えていないけど?


注意。


……魔素の少ない食材は幼竜には悪影響があります。凶暴凶悪なドラゴンに育たなくなる恐れがあります。


……ん?


別にいいんじゃないか?


あれ?


もしかして、問題解決?


世界を滅ぼすドラゴンは、今の食事を続けていたら、いなくなるんじゃないか?


でも、モンスターの肉か……ちょっと興味があるな。


ドラゴンが食べられるんだから、俺にだって食べられるよな?


……あとはあまり必要ないかな。


排泄だって自分で出来るし……。


ブレスの管理……。


これだ、これ。


……ブレスを抑えることは出来ません……。


……吐きたい時はすっきりと吐かせましょう……。


使えない情報だ。


……どうしても、吐かせたくない場所なら、こんな商品がオススメです……。


なんだ、これ。


『エチケット袋』


……これがあれば、スッキリ解決!! ……。


やっぱり、あの商品が必要だったのか!!

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