第8話 Tシャツは全てを語る

俺は考えていた。


俺は一体何をやっているんだ、と。


「サンドイッチ屋なのに、作ってねぇじゃねぇか!!」


パンはある。


通販サイトの品揃えは悪くない。


だが、美味くないんだ。


野菜が。


俺がフードトラックでサンドイッチ屋を始めたのだって、自前で美味い野菜を作れるからだ。


それを忘れていた……。


最近の俺はどうかしていたんだ。


……。


そう思ったのにはきっかけがあったんだ。


それは運転席にある謎の画面だ。


ピコピコと光るボタンがあった。


『機能拡張』の文字だった。


その下に異世界10日目記念と書かれていたが……。


意味が分からない。


とはいえ、拡張することは悪いことではないはず。


すぐにボタンを押すと……。


『追加する項目を選んで下さい』


と出て……。


『農業屋』

『家具屋』

『釣具屋』


……と並んでいた。


俺に迷いはない。


すぐに押したのは『農業屋』だ。


当然だろ?


俺は農家だ。


『商品注文』『設備』と並んで、『農業屋』が追加された。


どれどれ……。


すごいじゃないか。


肥料、種、それに農具か。


いいねぇ。


機械は……ないか。


正直、農業をやりたくてもクワで土を耕すなんてやりたくないぞ。


せめて、耕運機でもあればなぁ……。


だが、ないものは仕方がない。


「よし、野菜を作ってみよう!」


……。


俺はやる気に満ちていた。


ズドン!!


といつもの衝撃がやってきた。


「おっ! ドラゴンさんが来たか。ちょうどいい」


「お好み焼きを頼む」

「あいよ!!」


ジューッと香ばしい香りを漂わせながら、今日の二品目を作っていく。


牛の角煮だ。


ソラに食べさせたステーキの残りを角煮にしたものだ。


ステーキでも十分に柔らかいものだから、角煮としてはどうかと思ったんだが……。


存外、牛肉は煮ると固くなる。


それに醤油砂糖でゆっくりと煮詰め、生姜で少し香りを付けていく。


そうすると、しっかりとした角煮が完成する。


あまり聞こえが良くない?


それがお好み焼きの横で一緒に焼くと……。


とろーっと溶けるような食感になった角煮が現れるんだ。


角煮自体にしっかりと味が付いているから、お好み焼きに決して負けない味となる。


「お待ちどう様!! お飲み焼きと牛の角煮だ」

「ほお。初めて食べるな……どれ……ん!? このとろける食感はなんだ!? 噛む必要がないぞ。それに脂がぎゅっとにじみ出て……美味い! 黒い汁とは違った塩気のある味。これは何だ!?」


醤油も気に入ってくれたみたいだな。


「醤油と言って、俺の故郷の一番ポピュラーな調味料だ」

「醤油……奥が深いな。これをもう一つ貰おうか」


ああ……。


「済まないな。これで終わりなんだ。そんなに気に入ってくれると思わなくてな」

「ふむ……次は食べれるか?」


どうかな?


角煮はそれなりに時間がかかるからな。


朝に肉が届いて、下拵えから調味、煮るまで考えると……。


「夕方くらいなら、大丈夫かな?」

「ふむ……夕方は難しいな」


随分と忙しいことで。


「だったら、明後日だったらいつでも大丈夫だ」

「ならば、そうしよう」


それからもお好み焼きを数枚食べてから、ドラゴンの姿に戻っていった。


「さらばだ」


そういえば、畑作りの許可って貰っておいたほうがいいよな?


一応、ここって竜王の棲家、だそうだからな。


「おーい!! ちょっと、いいか?」

「なんだ?」


おっ?


随分と口の臭いが減ってきたな。


やっぱり、ハーブの効果は凄いな。


じゃなかった。


「ここに畑を作りたいんだが、いいか?」

「むう? まぁ、好きにするがいい」


簡単に許可が下りたな。


「ありがとうよ!! 明日も待っているからなぁ!!」

「ふむ……」


大きな翼を羽ばたかせながら、山の方に帰っていった。


さてと……。


運転席に戻って、『農業屋』を起動する。


種を調べると……。


「あまり種類はないな。まぁ、変わり種は作るつもりはないから……」


サンドイッチに使えそうな野菜……きゅうり、レタス、トマト、オクラ、とうもろこし、人参、玉葱あたりか。


だが、最初はキャベツだけにしておくか。


どうせ、畑なんてすぐに出来るわけがないし……。


ドラゴンさんが大量にキャベツを消費していくからな。


それとクワとジョレンを購入する。


一揃えしようと思ったら、結構な額になっちまったな。


でも、長く使うなら、いいものは買っておきたいしな。


『100万円』を請求され、すぐに決済をした。


ちょっと、高すぎたか?


……クイクイ。


「ん? ソラ、起きたのか?」

「うん。お腹空いた」


そうだよな。


炎ブレスを漏らしてから、どれくらい寝ていたんだ?


「すぐに用意するけど……その前に服を買おうか」

「うん」


いくら竜の子供でも裸は恥ずかしいんだな。


えっと……『商品注文』から検索バーに……


『幼竜 服 女の子』


『条件に合致した商品は10000点ありました』


やっぱり商品のバランスがおかしいよな……。


まぁいいや。


ズラッと並ぶ服から良さげなものを選んだ。


「これでいいか?」

「イヤ」


そうか……。


「これは?」

「イヤ」


全然、趣味が合わないな。


「これならどうだ?」

「イヤ!! 絶対にイヤ!!」


そんなに拒絶しなくても……。


「だったら、自分で選ぶか?」

「うん」


簡単に注文方法を教えた。


「ここを押せば、注文できるからな。いいか? 三着までにするんだぞ」

「うん」


まぁ、大丈夫だろう。


難しくもないし、最悪、竜神に返品すればいい話だ。


俺は厨房エリアに戻り、ソラのためにご飯を作ることにした。


毎日、ビーフシチューばかりだと飽きるだろうな。


冷蔵庫を開けると、あるのは……鶏肉か。


「唐揚げでも作るかな」


本当は下味をしっかりと付けたほうがいいけど……。


ソラが耐えられないだろうな。


醤油とにんにく、それに鶏エキスを濃縮した出汁を入れた物を作る。


これに唐辛子を入れたい所だが、ソラはまだ子供だ。


ニンニクも少なめにして、砂糖を少し足しておく。


袋に鶏肉と一緒に少しの時間、冷蔵庫で寝かせる


その間に油を温める。


……。


衣は小麦粉と片栗粉を混ぜたもので……。


ジューッ……パチパチパチ……。


揚げる音が音が次第に高くなっていく。


「そろそろいいかな?」


一つ取り出し、包丁で切ってみる。


肉汁がだらっと流れ出て、しっかりと芯まで火が通っていることを確認する。


「どれ……美味い! 肉汁とニンニクがいいなぁ。ビールが飲みたくなる」


「注文終わった」

「よし!! 唐揚げをどんどん揚げるから、食べてていいぞ」


「うん!」


翌日、届いた服を見て俺は愕然とした。


無地のTシャツにデカデカと文字がプリントされたものだった。


そこには……


『働いたら負け』


と書かれていた。


意味、分かっているのか?

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