第3話 ドラゴンは代金を払ってくれるのでしょうか?

どうしたものかな……。


「ドラゴンさん、毎日来てくれるのは嬉しんだけどさ」


足繁く通ってもらえるのは、料理人としては感激だ。


だが、いつまで経ってもお金を払ってくれる気配がない。


まぁ、俺も悪いよ。


気前よく料理をしてやっているんだ。


向こうも無料でくれていると勘違いしているかも知れない。


だけど、これは商売だ。


さすがにずっと無銭飲食されては困る。


「そろそろ、代金を払ってくれないかな?」

「むう? 代金とは何だ?」


……そこからかよ。


「いいか? 俺はドラゴンさんのために料理をしている。それは分かっていますよね?」

「無論だ。お前の作るお好み焼きは最高だ!!」


分かっていてくれて良かった。


「この材料はお金がかかっているんです。もちろん、俺の労働力にも」

「うむ。それはそうだな。こんなに美味いものだからな」


……本当に分かっているのかな?


「その代金を頂きたいのです」

「何故だ?」


……。


「それはドラゴンさんが食べているからですよ」

「むう? これは我への供物ではないのか?」


そういう解釈か……ちょっと、面倒だな。


この世界でドラゴンさんの立場がいまいち分からない。


だけど、恐怖の対象であることは間違いないだろう。


あれだけの巨体だ。


なるほど、供物をもらえるような立場なのかも知れない。


だが……。


「悪いが、これは商品だ。ただで恵んでやるわけにはいかない」

「そうか……」


もうひと押ししておこう。


「言っておいくが、脅してもダメだぜ。それに金を払わないなら、今後は絶対に作らない。いいな?」

「それは困る!! いくらだ? いくら払えばいいのだ?」


……困ったな。


いくらと言われても、この世界の通過が分からない。


「今までの量からすれば……3万円ってとこかな」

「3万……円? それはどこの金だ?」


「日本だけど……わかりますか?」

「分からぬ」


そうだよな。


ちょっと、期待しちゃったけど……。


「じゃあ、ここでは何で支払いをするんですか?」

「金貨……だな」


金貨か……。


「ここは金貨以外の通貨はないんですか?」

「我に聞かれてもな。だが、支払いをすることは吝かではない。次にはしっかり、持ってこよう」


……信じていいものなのかね?


「分かりました。だけど、次に支払いがなかったら……」

「分かっている! 我に二言はない!」


その日はいつも以上にお好み焼きを注文してきた。


なんだか……不安だな。


食べ納めと思っているんじゃないだろうな……。


……。


「また、来たぞ」

「ドラゴンさん……なんです、その大きな袋は」


ドラゴンの体からすれば小さな袋だが、俺から見れば、人がすっぽりと入るほどの大きさだ。


「金貨だ。受け取れ」


……受け取れって言われても……。


そんな大袋、受け取れるか!


「そこに置いておいて下さい。あとで確認しますから」

「よいのか?」


この中身がどんなものであれ、お金を支払う意思がある者は客だ。


客の前で金を数えるような真似は出来ない。


「今日もお好み焼きで?」

「ああ、頼む」


……。


いつものように大量に食べてから、ドラゴンさんは姿を消した。


片付けを済まし、いつものように一服する。


仕事終わりのコーヒーはいつも美味い……。


しかし、ここに来て、どれくらいの時間が経っただろうか。


客はドラゴンさんだけ。


食材もそろそろ心許なくなってきた。


一応、百人分の食材を用意したつもりなんだけどな……。


「そろそろ、買い出しにいかないといけないよな」


といっても、フードトラックは木に挟まれて動けそうもない。


切り返しを繰り返しても……無理だよな。


木にぶつかれば、傷つくのは間違いなくトラックの方だ。


信じられなくらいの木の太さだからな。


そうなると、歩いてか……。


ナビで見ても……(信じられれば、だけど)……


近くの街まではここから百km以上は離れている。


とても歩いてはいけないよな。


それにお金だって……。


そういえば、ドラゴンさんから代金を貰っていたな。


……大きな袋の口を開けてみた。


「マジかよ……」


金貨がぎっちりと詰まっている。


色々な模様が描かれてはいたが、どれもが金色に輝くコインだ。


「全部……金貨なのか?」


日本だったら、これだけで一生でも使い切れないほどの額だろう。


……だが、冷静になったほうがいい。


この世界の常識は分からない。


金貨だって、ものすごく価値が低いことだってある。


とりあえず、食材の調達の方法を考えないとな……。


……。


一人の時間は退屈だ。


フードトラックに乗り込み、タブレットPCをずっと眺めている。


「そろそろ寝るか……」


いつものように、運転席で睡眠を取ろうとした。


……しばらく寝た、と思う……


薄っすらと目を開けると、ダッシュボードの上で点滅するボタンが目に止まった。


……こんなボタン、あったか?


俺は特に迷いなく、そのボタンを押した。


するとスクリーンがすっと立ち上がった。


「なんだよ、これ。すごいな」


画面には『商品注文』と『設備』と言う文字が並んでいた。


……まさか、な。


『商品注文』を押すと、画面が切り替わった。


そこには無数の商品が一覧のように並び、上には検索バーが置かれていた。


……まるで日本で使っていた通販サイトと同じようだな。


慣れた手つきで、検索バーに入力する。


『エログッツ オススメ』


……『検索した条件に合う商品はありません』


んだよ!! 


仕方ねぇな……。


今、不足気味の材料を頭に思い浮かべる。


『小麦粉』と。


すると……『検索した条件に合う商品は1件です』


と書かれた画面が現れ、商品が表示されていた。


これって……。


俺は商品を押すと、画面が決算画面と変わる。


『150円』


という良心的な値段だ。


だが、現金はない。


支払い方法を見ていくと、現地払いとあった。


現地払い?


ちょっと、聞いたことのない単語だな。


『?』マークを押すと、その意味が表示される。


そこには現地通貨による支払いが可能だと書かれていた。


つまり、ここの通貨……金貨で支払えるってことか?


俺はいそいそとドラゴンさんから貰った金貨を何枚か持ち出し、運転席に戻ってきた。


「あとはどうするんだ? なになに……ダッシュボードに入れろって?」


本当に大丈夫なのか?


金貨をダッシュボードに入れると……。


「消えちまった」


ダッシュボードに何度も手を突っ込むが、金貨の姿は消えていた。


その代わり……


『現地通貨:金貨10枚がチャージされました』


そう表示されたかと思ったら、日本円が横に表記された。


『10万円』


……金貨一枚で一万円相当ってことか?


凄いな……。


俺は『注文確定』ボタンを押すと……


『ご注文ありがとうございました』


の文字だけが画面に映し出されていた。


……。


特に何の変化もなかった。


「馬鹿らしいな」


明日、買い出しに行くことをドラゴンさんに相談してみようかな……。


そのまま、眠りの続きをした。


朝、目が覚めると……。


フードトラックの扉の前にダンボールが置かれていた。


中身は……小麦粉1キログラムだった……。


「うそ、だろ。本当に届いちまった……」

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