第2話 お好み焼きって何枚食べられる?

覚悟を決め、飯の準備に取り掛かる。


折角だ。開店の準備をしよう。


フードトラックはお客さんと対面で商品の受け渡しが出来る。


扉を開け、顔を出した。


「何か、食いたい物はありますか?」


と言ったものの、頭の中で在庫の計算をしていた。


昨晩に詰め込んだものは……。


まぁ、何でも作れるな。


「ふむ。本当にいいのか?」

「もちろん。大抵のものは作れると思いますよ」


鉄板を温めるためにスイッチを入れる。


鈍い音が聞こえ、仄かな温かみが下から伝わってくる。


「……」


早く言ってほしいな。


鉄板があたたまる前に仕込みをしたんだよな。


こんな場所だ。


ガソリンだって手に入るかわからない。


なるべく燃料は節約しないとな。


「任せる……」

「……あいよ」


俺は手際よく、卵を割る。


小麦粉……それに魚介のだしを入れる。


……。


「お客さん。豚肉って大丈夫か?」


ここは異世界だし、宗教的な理由だってあるからな。


動物性の材料は極力気をつけないと。


「豚肉が何なのか分からない」


そう来たか。


「肉は食えるか?」

「好物だ」


そりゃ、いい。


だったら、ふんだんに入れてやるか。


特別サービスだ。


生地に豚肉をたっぷりと、紅しょうが……それに大量の千切りキャベツだ。


これを熱々にした鉄板に油を引いて……一気に流し込む。


軽く成形をして……蓋を閉じる。


「いい匂いだ」

「だろ? だが、ここからがいいところなんだぜ」


ドラゴンが近づいてきて、じっと鉄板を見つめていた。


タイマーの音が焼きあがりを告げる。


「いい感じだ」


焼きあがった生地からはいい匂いが漂う。


冷蔵庫から自家製ソースがたっぷりと入った器を取り出す。


刷毛にしっかりと染み込ませ、焼きあがった生地の上にたっぷりと載せていく。


生地からこぼれたソースが鉄板の上でジューッと音を立て、香ばしい匂いを辺りに充満させる。


「トッピングは?」

「……」


どうやら、夢中みたいだな。


「勝手にやるぞ」


頷くだけか。


悪くないな、その反応。


マヨネーズ、そして鰹節を乗せる。


ゆっくりと暴れる鰹節からも仄かな魚介の香りが沸き立つ。


「お待たせ。豚のお好み焼きだ。青のりもあるからな。好きに使ってくれ」


ヘラで食べやすいサイズに切り分け……。


ドラゴンさんの前に差し出す。


「皿は勘弁してくれ。このまま、食べてくれ」


割り箸は……。


あれ?


「旨そうだ」


おいおい、手で掴んじゃったよ。


熱くないのかね?


「ほっほっほっ……熱いな……んっ!! これは……なんて、旨さなんだ!!」

「ほら、どんどん食ってくれ」


切り分けながら、次々とお好み焼きをドラゴンさんの前に差し出していく。


「美味い!! 美味いぞ!!」


いい食いっぷりだね。


「どうだ? もう一枚、食べるかい?」

「ああ、頼む!!」


折角だ。


次はシーフードにしてみるか。


といっても、すぐには無理か。


「あと、どれくらい食べられそうだ?」

「いくらでも」


そうこなくっちゃな。


冷凍庫からシーフードミックスを取り出し、鉄板の上で軽く解凍していく。


その間に豚のお好み焼きを作っていく。


次は辛子マヨネーズだ。


ちょっと辛いが、これが癖になるんだ。


「美味い!! 少し辛いが……いくらでも食べられるぞ!!」


おいおい、一枚を数秒で食べちまった。


解凍していたシーフードから少しずつ、魚介の香りが立ち始めていた。


「そろそろ、いいかな」


生地に多めに用意したシーフードを入れ、豪快にかき混ぜる。


ちょいと水分を少なめに生地を作るのがコツだ。


「ほらよ。シーフードのお好み焼きだ。変わっているかも知れないが、梅のソースなんて、どうだい?」


これは俺のオリジナルのソースだ。


自家製の梅から梅干しを作って、それをソースにしたものだ。


「もらおう!! だが、その黒い汁も捨てがたい」


「じゃあ、半分半分にするか」

「頼む!!」


梅ソースをたっぷりと付けたお好み焼きを差し出した。


「おおっ!! さっぱりとした味だ。赤い汁が酸味を与え、なんとも魚介の旨味と相まって、心地の良い味ではないか」


随分と舌が回るようになってきたな。


「だが、私はやっぱり黒い汁を付けたほうが好きだな」


……そうかい。


オリジナルソース……もうちょっと改良の余地がありそうだな。


「うむ……美味かった。まさか、このような場所でこんなに美味いものに巡り会えるとは意外だった」


それはこっちのセリフだがな。


生きているうちにドラゴンにお目にかかれるなんて夢にも思っていなかった。


「何か、飲むか?」


随分とまったりとした雰囲気が流れている。


俺もここがどこか忘れて、まるで旧友に出会ったような気分になっていた。


「うむ。では、頼む」


そういえば……。


「あいよ」

「うむ。済まぬな……これはいい香りだ。スッキリとした匂いがなんとも堪らぬ」


この人はちょっと口が臭いからな。


ハーブティーは口臭を減らす効果がある。


「これはいいな!! いつもの紅茶とは違った、フレッシュな感じだ。爽やかな喉越しで、さっき食べていた物をキレイに洗い流してくれる。うぅむ……また、食べたくなってきたな」


……。


「いいぜ。好きなだけ、食べなよ」


どうせ、客なんていない場所だ。


材料を腐らせるくらいなら……。


「だが、さすがにこれ以上長居するのはまずい」

「ん? 何か、あるんですか?」


「ん? まぁ、な。だが、馳走になった。また寄らせてもらう」


お、おい!!


行っちまった。


ドラゴンに姿を戻したと思ったら、まるで逃げるように消えてしまった。


……一体、なんだったんだ?


ていうか、食い散らかすだけして、食って……完全な食い逃げだな。


今度、来た時に金をもらうか……。

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