《第一章》 第六話

旧運搬施設内部 15時15分PM


乾いた風が流れ込む深き谷…

打ち捨てられ、錆びた金属達が

切ない音色を奏でるその先で、

羽根を休めるかのように

一隻(いっせき)の飛空艇が

その淵(ふち)に泊まっている

物悲しさが漂うソコに、灯りが一つ

映る窓に、影が二つ…


ヨウェル:

「外を見るのが本当にお好きですねぇ

しかし、そこからは出られませんよ

その強化セラミックガラスは

簡単に割れたりしませんので…」


後に居たヨウェルが話しかける


メル:

「…」


無言で外を見続けるメル


ヨウェル:

「快(こころよ)く思わないのは解ります

ですが…」


ヨウェルがそう言いながら

メルの隣まで近づく


ヨウェル:

「御覧なさい…この世界を

荒廃(こうはい)した大地

荒(すさ)みきった空気

荒れ果てた人々の心

かつての美しさなど何処にもない…

こんな醜い世界を、”蘇らせたい”

そうは思いませんか?」


メルの肩に手を置くヨウェル


メル:

「ッ―――」


ヨウェル:

「私に身を委(ゆだ)ねて下されば、

結果として多くの人々が救われるのです…」


ヨウェルから離れるメル


メル:

「アナタに手を貸す気なんて、無い…」


ヨウェル:

「やれやれ…

いつまでもそんな態度で居ると

あの二人がどうなる事やら…」


メル:

「…ぇ?」


ヨウェル:

「先程訪れた街…なんと言いましたか

ああ、そうそう…ベレヌス…

とても綺麗でしたねぇ

あの街も、帝國の軍事力にかかれば

一晩で瓦礫(がれき)の山となるでしょう…

今のうちに良く考える事です

二人を救うチャンスかもしれませんよ?」


メル:

「そんな…」


ヨウェル:

「さて、私はこれから地下へ行きます

古い友人との再会です…

喜んで下さい?

”彼”を運び出すのに帝國艦隊が

こちらへ向かっているのですから」


メル:

「―――彼?」


ヨウェル:

「…いずれ、わかりますよ」


その場を後にするヨウェル

メルは不安そうに、

見ている事しかできなかった



【場面転換】旧運搬施設外部 同時刻

岩陰からマスク越しに辺りを見渡す二つの影

ゼファとシュナイザーである


シュナイザー:

「見つけた!やっぱりメルちゃんだ」


ゼファ:

「ホントか!何処だ?シュナイザー」


シュナイザー:

「飛空艇の正面、窓の近くだよ」


ゼファ:

「さすがだぜ…

後はどうやって侵入するかだな…」


シュナイザー:

「らしくないね?」


ゼファ:

「ぁん?」


シュナイザー:

「君がしたいように、すればいいんだよ」


ゼファ:

「コイツで、か…?」


コラプサーを取り出すゼファ


ゼファ:

「でもいいのか?いきなり使って」


シュナイザー:

「出し惜しみはしない、じゃなかった?」


ゼファ:

「そりゃそうだけどよ」


シュナイザー:

「撃ちたいんだろ、今回は僕も居る

それにほら、コレ」


ポケットから取り出したのは

銃の側面に収まる程小さな装置


ゼファ:

「何だコレ?」


シュナイザー:

「試作型のクイックチャージャーさ

本当はもっと精度を上げたかったけど、

四の五の言ってられない状況だからね

いざって時の為に、渡しとく」


ゼファ:

「シュナイザー…ありがとな」


シュナイザー:

「お礼は、メルちゃんを助けた後でね

だから勝とう…ゼファ」


ゼファ:

「…おぅよ」


コラプサーを構えるゼファ



【場面転換】旧運搬施設内部 15時20分PM

窓に背を向け、立ち尽くすメル

その表情はこれまでにない程

暗く、沈んでいる


メル:

「私がいけないの…?

何もできない…私が…」


落ち込み、ローブの裾を強く握る

突然の轟音

外を見れば、施設唯一の出入り口

封鎖された門に黒煙が立ち登っていた


メル:

「爆発…?もしかして―――」


門が破壊されると共に

投げ込まれた小さなボンベから

大量の蒸気が噴出し、

軍服達の視界を奪う

警報が鳴り響き、慌ただしい足音に紛れ

煙の中を突き進むゼファとシュナイザー


シュナイザー:

「いいよゼファ!」


ゼファ:

「さすが、シュナイザーお手製の

​"スチーム・ボム"だな…

この煙の中なら先に進める!」


シュナイザー:

「内部まで侵入できたは良いけど、

数に限りがあるから余裕は無いよ?

開けた場所だと効果も薄いし…

どうする?」


”ある物”に目をつけるゼファ


ゼファ:

「ッ!シュナイザー!

”アレ”に乗り込め!」


シュナイザー:

「わ、わかった!

レバーは僕がやるよ!

ゼファはバルブを回して!」


大型の”貨物トロッコ”に

急いで乗り込む二人

固く閉まったバルブを回そうと

力を入れるゼファ


ゼファ:

「ぬぐぅう…!

動けぇええ!!」


バルブは錆び付いていて動かない


シュナイザー:

「よし…

”アクセルレバー”はなんとか使えそう…

ッ!?ゼファ!後ろに追っ手が!!」


煙を抜けてきた一人の軍服が

目と鼻の先まで迫っていた


ゼファ:

「わかってる!

コレでも…喰らえッ!」


”何か”を投げつけるゼファ

軍服の顔面にヒットし、昏倒させる


シュナイザー:

「や、やるじゃん」


ゼファ:

「任せとけって!

いつでも良いぜ?シュナイザー!」


シュナイザー:

「飛ばすよ!?掴まって!」


レバーを倒し、アクセルを全開にすると

トロッコがレールの上を豪快に走り出した


ゼファ:

「ふぃ~間一髪だったな」


シュナイザー:

「なんとか、撒けたみたいだね…」


後ろを見るシュナイザー

追っ手はまだ見えない


ゼファ:

「運が良かったな!

偶然、トロッコが転がってるなんて」


シュナイザー:

「運搬用に使ってた物なんだろうね

結構錆び付いちゃってるけど…あれ?

”ブレーキバルブ”は?」


見ると、先端にあったはずのバルブが

丸ごと無くなっている


ゼファ:

「あ~…アレか!

うまく当たったろ!」


シュナイザー:

「…まさか、さっきの?」


ゼファ:

「おぅ、ついさっきな!」


シュナイザー:

「ブレーキ…どうするの」


ゼファ:

「さぁ?」


シュナイザー:

「さぁ?じゃないだろ!?」


ゼファ:

「良いだろ別に

取れちまったんだしさ?」


シュナイザー:

「良い訳あるかぁあ!」


ゼファ:

「落ち着けって、しゃーねーだろ?

逃げるのに必死だったんだから」


シュナイザー:

「まったくもー!」


ゼファ:

「ところでシュナイザー…

右と左だったら、どっちが良い」


シュナイザー:

「なっなに…こんな時に―――」


ゼファ:

「分かれてんだよ、”道”が」


シュナイザー:

「まさか!分岐点!?」


左右に分かれた道

その中央に置かれた装置


シュナイザー:

「どうしよう!どうしたら!?

さっきの道はほぼ直線、

だけど反時計回りだったような…

でもでも、この施設の構造は広くないし

ここは左を!それとも…右?

いやいやそれとも―――」


ゼファ:

「決めて良いか?」


自信に満ちた顔のゼファ


ゼファ:

「俺を信じろ、シュナイザー」


シュナイザー:

「…うん」


装置に弾丸が撃ち込まれ、

トロッコの進路が変わる

選ばれたのは…”右”の道


ゼファ:

「大丈夫だ」


シュナイザー:

「…ゼファ?」


ゼファ:

「”風”が、そう言ってる」


トロッコが速度を上げ、

火花を散らしながら突き進む

そして―――


シュナイザー:

「ッ!出口だ!」


ゼファ:

「伏せろ!シュナイザー!!」


レールに仕掛けられた爆弾が炸裂

ブレーキの利かないトロッコが

横転し、勢いのまま投げ出される


シュナイザー:

「うゎあ!」


ゼファ:

「どゎあ!」


転がって受け身を取るも、

そのトロッコに銃弾を撃ち込まれ

慌てて煙幕で身を隠す二人


シュナイザー:

「ゼファ!大丈夫?」


ゼファ:

「ああ、なんとかな…

それより道、違ったか?」


シュナイザー:

「ううん、正解だったみたい

飛空艇は目の前だよ…でも」


ゼファ:

「これ以上先に進むのは無理か…」


シュナイザー:

「囲まれちゃったみたい…だね」


煙幕から数人の軍服が抜け出し、

二人に銃口を向ける


ゼファ:

「こんな所で諦めてたまっかよ」


シュナイザー:

「そうだね…ちょっとキツイけど、

僕達でやるしか―――」


ゼファ:

「(どうする…コイツまで使うか…?)」


クイックチャージャーに手を伸ばそうとする


シュナイザー:

「待ってゼファ、様子が変だよ」


ゼファ:

「ん…なんだ…?」


軍服達が煙の中から出て来た

何者かの”手”に

一人、また一人と

つまみ上げられ、放り出される…

その手の正体は―――


シュナイザー:

「ッ!ルーツ!?」


ゼファ:

「お前どうやって!?」


シュナイザー:

「そうか…

ゼファ、今のうちだよ

メルちゃんの所へ行って!」


ゼファ:

「な…シュナイザー…?」


シュナイザー:

「大丈夫だよ!ルーツも居る」


ゼファ:

「けど!置いて行くなんて―――」


シュナイザー:

「しっかりしてよ!僕達…仲間だろ?」


強い眼差しを向け、そして


シュナイザー:

「僕を、信じて」


伝わる、”意志”


ゼファ:

「…わかった

頼んだぜ、相棒」


煙に消えるゼファの背中を

優しく見守るシュナイザー


シュナイザー:

「…ありがとう、ゼファ…

僕のたった一人の…親友…

さぁ、行くよルーツ!」


青年達は前に進む

互いが信じた”別の道”を…

己の誇りと、希望を胸に―――

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