《第一章》 第七話

飛空艇内部 15時50分PM

窓の外、黒煙に包まれた施設を見つめ

思い詰めるメル


メル:

「どうしたらいいの…

私は…どうするべきなの…」


小さな胸に不安を抱き

閉ざされようとしていた心…その時、

施錠された扉が乱暴に開け放たれ

そこから手を付いて

一人の影が現れる―――


ゼファ:

「よぉ…待ったか…?」


メル:

「ゼファ!」


ゼファ:

「…助けに来たぜ?

お姫様」


歓喜し、

駆け出そうとして


メル:

「ぁ…」


立ち止まるメル


ゼファ:

「ん…どうした?」


メル:

「…来ないで…」


ゼファ:

「…え?」


メル:

「来ちゃダメ…

ダメなの…」


顔を横に振り、

半歩下がるメル


ゼファ:

「メル…?」


メル:

「私は、いけないの…」


ゼファ:

「…どうしてだ?」


メル:

「逃げてもこの先…またきっと…」


ゼファ:

「俺がなんとかするさ」


一歩距離を詰めるゼファ


メル:

「でも…あの人達は武器を持ってて…」


ゼファ:

「俺も持ってる」


また一歩


メル:

「子供の…私達じゃ…」


ゼファ:

「ソレの何がいけねぇんだ」


また、一歩と距離が縮まる


メル:

「一緒にいちゃいけないの…!

いられないの…!」


ゼファ:

「…誰が、決めたんだ?」


メル:

「ぇ…」


ゼファ:

「お前か?」


メル:

「それは…だって…」


ゼファ:

「俺は、嫌だね

お前とじゃなきゃ…

メルとじゃなきゃ、嫌だ」


メル:

「ゼファ…」


ゼファ:

「言っただろ?

一緒に、行こうって」


メル:

「私…私は…」


目を伏せ、否定しようとするが


ゼファ:

「いつまでも、一緒だ

そうだろ?」


いつの間にか傍まで近づき、

同じ目線となって話すゼファ

その眼に宿るのは

揺るがない”意志”―――


メル:

「ゼファぁ…」


ゼファ:

「ッ…メル?」


ゼファに抱き着き

顔をうずめるメル

嗚咽はこらえても、

感情が零れる


メル:

「ごめん…なさい…

ほんとは…助けて欲しかったの…」


ゼファ:

「ああ、わかってる…

よく、頑張ったな」


メル:

「うん…ごめんなさい…」


ゆっくりと顔を上げるメル


メル:

「…ありがと…」


その優しい笑顔に、

そっと微笑むゼファ


ゼファ:

「さぁ、こっから―――」


ヨウェル:

「やれやれ…

騒がしいですねぇ」


それを断ち切るかのような

聞き覚えのある”声”


ヨウェル:

「侵入者が居ると聞いて来てみれば…

また貴方でしたか…懲りませんねぇ?」


ゼファ:

「そのきなくせぇ喋り方…

やっぱりテメェか…ゲス野郎!」


ヨウェル:

「…私の名前はヨウェルです、ゼファ君…

今ならまだ”ごめんなさい”で

許して差し上げますよ?」


ゼファの握る拳に力が加わり、

ギリギリと骨が軋む


ゼファ:

「何様のつもりだ…!

ムカつくんだよ!!

テメェの事は最初っから

気に入らなかった!

大体なぁ!メルの事を、

アレだのソレだの

物みてぇに言いやがって―――」


ヨウェル:

「”物”ですよ」



一瞬の静寂



ゼファ:

「なん…だと…?」


ヨウェル:

「その”玩具”はとある発明家が

古代戦争の技術を用いて生み出した

戦闘兵器…”メアトゥエル”

有り体(てい)に言えば

”鋼鉄の人形”(スチール・ドール)…

つまりは、アンドロイドなのですよ」


メル:

「ッ…」


顔を背けるメル


ゼファ:

「メルが…機械…?」


ヨウェル:

「もっとも…

彼の愛娘(まなむすめ)をモデルとした為か

戦闘能力はオマケ程度の

出来損ないですが…

だ い じ ょ う ぶ

私がちゃんと”使える”ようにしますので

どうか、ご安心を―――」


メルに手を伸ばすヨウェル


ゼファ:

「ッ!メルに触るんじゃねぇ!!」


それを遮るゼファ


ヨウェル:

「ソレはアナタに扱えない”代物”です

大人しく、我々に渡して下さい?」


ゼファ:

「メルは、大切な”仲間”だ!」


メル:

「ゼファ…」


ヨウェル:

「おイタが過ぎますねぇ」


ゼファ:

「絶対に渡さねぇ…特に、

テメェみてぇなゴミクズ野郎にはな!」


怒りの表情で睨みつけるゼファ

首を横に振り、飽きれるヨウェル


ヨウェル:

「…仕方がありませんねぇ?

少しの間だけ、お相手しましょう…」


ゼファに向き、静かな戦闘態勢

漂う威圧感と…強者のオーラ


ゼファ:

「舐めてんじゃねぇええ!

オラァッ!ダァアッ!(二連撃)」


ヨウェル:

「やれやれ…危ないですねぇ」


ゼファの拳は届かない

既の所で全て、躱される


ゼファ:

「チィッ…ハァアアッ!」


すかさず弾丸を撃ち込む

が、その腕に容易く防がれる


ヨウェル:

「野蛮ですねぇ?」


ゼファ:

「クッ…銃弾が効かない…!?」


ヨウェル:

「その程度ですか?

では次は、此方から―――」


ゼファ:

「コレならどうだ…!

バースト・ブリット!!」


ヨウェル:

「…”反逆の火(レーヴァテイン)”」


ヨウェルの右腕に装着された機械から

光のような炎が噴出

弾丸は空中で斬られ、誘爆し

激しい爆風で辺りが煙に包まれる

至近距離での爆発

普通ならひとたまりも無い…

しかし―――


ゼファ:

「ッ馬鹿な!無傷!?」


ヨウェル:

「油断は、いけませんねぇ…」


ゼファ:

「ガハッ…」


鋭い掌底打ちを喰らい堪らず悶絶


ヨウェル:

「少し、強めにいきますよ?」


そのまま後方に吹き飛ばされるゼファ


ゼファ:

「ぐぅッぁあああ!」


壁に叩き付けられ、野垂打つ


ゼファ:

「ガッ…ァ…な、なんだ…

コイツのチカラは…!」


メル:

「ゼファ!」


ゼファに駆け寄り肩を支えるメル

ヨウェルがゆっくりと近づいて来る


ゼファ:

「ッグ…!」


ヨウェル:

「やれやれ…もう御仕舞いですか?

存外、あっけないものですねぇ…おっと」


突然けたたましい音と共に

ヨウェルの左腕の機械が赤く点滅する


ヨウェル:

「…名残惜しいですが

そろそろ、時間のようですねぇ

”あの子”も退屈でしょう…

こちらに招待しませんと」


ゼファ:

「一体なんの話だ…」


その時、飛空艇の天井が破壊され

何者かが”コチラ”を覗く

煙の中に薄っすらと浮かぶソレは

およそ数十メートルはあろうかという

機械の…”巨人”


ゼファ:

「なっ…なんだ?コイツは…」


メル:

「ゼファ…私…怖い…」


ヨウェル:

「御紹介しましょう…

古代兵器”ブリンガー”

またの名を…地を踏み砕くモノ…

こちらに来る前に制圧させた

西の大陸から頂戴しましてねぇ?

ちょっとしたサプライズですよ」


巨人と目が合う二人

その拳が振り下ろされる


メル:

「きゃあ!」


ゼファ:

「メル!!」


とっさに庇い、転がる二人

先程までいた場所に、巨大な跡が残る


ゼファ:

「俺達を攻撃してきた?!

…いや、まさかメルを狙って…?」


ヨウェル:

「共鳴しているのですよ…

お姫様の”声”に

正確にはその中の

”チカラ”に―――でしょうか」


ゼファ:

「なに…?」


ヨウェル:

「さて…私は少し休むとしましょう

何分、激しい運動は久しぶりなもので…

潰されるのもご勘弁願いたいですしねぇ」


空いた穴へ左腕を上げ、

アンカーを射出して逃げるヨウェル


ヨウェル:

「この子も私に似て

珍しいモノが大好きなんですよ?

沢山、遊んであげて下さいねぇ…」


ゼファ:

「逃げるぞ!メル!」


メル:

「う、うん…」


崩れ、落ちてくる瓦礫を避けつつ、

巨人が破壊した窓からアンカーを打ち出し

施設裏手に降りる二人

一息つくも突如として影に飲まれ、

見上げれば黒い飛空艇が三隻

中でも特に大型の側面には

厳然と座した帝国紋章が刻まれていた

背を向け、走り出す

闇が広がる施設の内部へと…

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