第3話 隣り合わせで森林浴

//SE 落ち葉を踏んで歩いている音。



「あ……ご主人、見てください。あそこ、少し木々がばらけて、ひらけていますよね」


「実は私、床に敷くシートを持ってきてるんです」


「あそこにシートを敷いて座りませんか? くっついて、二人でゆっくりしたいなと」


「ふふ、ありがとうございます。ゆっくりしましょうか」



//SE 落ち葉を踏んで歩いている音→ゆっくり歩いて、立ち止まる。

//SE シートを敷く音。



「ここに生えている木がちょうど、良い感じに背もたれになりますね」


「寒くないように、ブランケットもありますからね」


「……ご主人? どうしました?」


「大きな欠伸……。もしかしてご主人、まだ眠り足りないんでしょうか?」


「いえ、でも、わかります。ただでさえご主人の睡眠時間は足りていないですからね」


「休暇の間は朝から夜まで、ずーっと寝ているくらいでようやく採算がとれるのかもしれません」


「……もしかして、散歩も大変でした……? おうちにいた方がよかったでしょうか?」


「……え、私の楽しそうな顔が見れたからいい……ですか……ふ、ふぅん……」


「あ、ご、ご主人! でもやっぱり少しお疲れではありますよね!」


「そうでもない? ……いえ、私の目は誤魔化せないですよ」


「顔色の悪いご主人を私がどれだけ心配して見てきたと思ってます?」


「毎日ご主人の顔色を見て『ああ、悪いけど、今日はまだ平気な方の顔色だな……』とか、『ああっ、今日はちょっとまずいかも……』とか」


「まあこの休暇前に帰って来た時が一番ひどかったですけど」


「……そう考えると、休暇を取ってきたのは我ながら良い判断でした」


「謝らなくていいですよ。ご主人は頑張っていただけですから」


「ですから、普段頑張った分、今日は私が色々と甘やかしてあげますからね」


「ご主人、何か私にしてほしいことはありますか?」


「風でちょっと冷えてきたかも? ブランケットをお貸ししましょうか?」


「……それだと私が寒い? いえ、私はスライムだから平気……」


「あ……なるほど」


「ふふ……そうですね♪」


「一緒にかければいいんですよね」


「ではご主人にくっつきますね。ぎゅー……って」


「ふふ、ご主人、あったかいですね」


「ブランケットもかけて……」


「逆に暑くなったら取ってくださいね」


「私は離れないですけど。ふふ♪」


「ご主人にぎゅーっとして過ごします。スライムなので。傍にいたいので」


「…………」(ゆっくり目の呼吸音)


「ここは外ですけど……静かで、穏やかになりますね」


「いつもの街は賑やかですから」


「ここにいると、なおさら静かに感じます」


「静かなところに身を浸すと……なんだか頭がすっきりとしてきますね……」


「…………」(ゆっくり目の呼吸音)


「あ……今気づいたんですけど」


「誰もこない所で、二人きりですね……?」


「今更……と言われたらそうですけど」


「ご主人はどうですか? 今ので私のこと……意識、しましたか?」


「……ごしゅじーん? 質問にはイエスかノーですよ」


「顔を逸らすのは反則です」


「……ちなみに」


「私はずーーっと、意識してますからね……?」


「……あ、耳が赤くなりました」


「え、えっと。はい」


「わ、私も恥ずかしくなってきちゃいました」


「……も、もうちょっとしたら帰りましょうか! 日も落ちてきましたし!」


「……ではそれまで、ぎゅーっとしてますね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る