第2話 お昼は外に出てみましょうか

「おはようございます、ご主人。よく眠れましたか?」


「よく眠れたようで何よりです。お顔の硬さもほぐれましたね。……しかも驚くべきことに……顔色が良いですね。ご主人のそんなすっきりとした顔を見るのは何年ぶりでしょうか?」


「そうですね、ねんというのは冗談です。……でも久しぶりなことには間違いないです」


「私の膝枕、そんなに良かったですか?」


「……ふふ♪ そうですか。それは良かったです」


「ご主人、では私は朝ご飯を作ってきますね。何も食べないでいるとお腹が空いてしまいますから。……もうお昼ですので、お昼ご飯と言うべきかもしれませんけど」


「もちろん、昨日のうちに食材は用意しています。街から持ってきたものと、ここに残っているもの」


「ここにある物はできれば処分してくれると嬉しいとのことでしたので、ありがたくいただいてしまいましょう」


「その間にご主人は顔を洗って、お着換えをしていてください。お洋服はベッドの横に用意しておきました。はい、私はもう着替えています」


「それから一緒にご飯を食べて、外に出てみませんか? 幸い、今日は晴れています。気温も少しだけ涼しいような、心地いいものです。とても空気も綺麗ですし」


「はい。一緒に、二人で森の中をお散歩しましょう」



//SE ドアを開ける音

//SE 木々の音や、風の音や、鳥の声。

//SE 落ち葉を踏んで歩いている音。



「んーっ! お外ですよ! ご主人!」


「空気が美味しいですね。どうして森の中での空気は美味しいんでしょう?」


「なんですかご主人、私の顔をじっと見て。スライムなのに呼吸をするのか、という顔ですね。……あ、正解ですか」


「私はスライムなので、呼吸するような機能は本来ありません。でも今はこうして人の形になっているわけですから、呼吸もできるんですよ?」


「ではその証拠に……ご主人、耳を寄せてください」


「ふー……っ」


「ふふ。ほら。なのでこういう風にご主人に息を吹きかけることもできます。あとは体温だって調節できます。さっきだって、私の膝枕、冷たくなかったですよね」


「もちろん、元はスライムです。スライムの形状に戻れば、青くてちょっと冷たいねばねばに覆われた感じの、皆様が知ってるスライムになります」


「……昔、まだ人間に変化するのが下手くそだったころ、それでご主人に助けられましたね。人間になりきれてない、中途半端な私が襲われているのを見て、ご主人がやめろと声をかけてくれました」


「あ、いえ、これは辛い過去というわけじゃないんですよ。むしろ、とても良い記憶なんです。ちょうど、ご主人と会えた日なんですから」


「生まれたばかりの私は、人間に憧れていました。それも、家族とか恋人みたいな関係に。どうにかああいう風になりたいと、たまたま近くに暮らしていた街の女の子を真似ました。はじめは下手くそでしたけど、長い時間、訓練しました」


「そして今、こういう風にご主人と過ごすことができています」


「それがとても嬉しいんです。私の努力は今こうして報われています」


「……あの、ご主人、さっき言った私の体温についてですが」


「人肌くらいの温度かどうか、確認してもらってもいいでしょうか……」


「えっと……その、つまり……よければ……手を繋いでも、いいですか……?」


「あ……ふふ、ありがとうございます」


「またこうして、努力が報われてしまいましたね……♪」

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