第1話 おはようございます。二度寝しますか?

「おはようございます。ご主人」


「……はい。ミュールです。ご主人の寝顔をたっぷり堪能しています」


「どこ?  って……ふふ、寝ぼけているんですね」


「ここは先日お話した森の奥の別荘ですよ。お隣のご夫婦が貸してくれたんです」


「奥様は、いずれここは特別な時にだけ貸し出すゲストハウスのようにしたいとおっしゃっていました。ですから、まだ人は来ていなくてもちゃんと綺麗に保たれています。シーツも洗濯されていましたし、埃も積もっていません。掃除もされていて、綺麗です」


「私たちはお試し客ということになっているようです。お隣さんには感謝しないといけませんね」


「……はい。そうですね。ベッド、ふかふかでとても気持ちいいです。私もすごく寝心地が良かったです。ゲストハウス、きっと繁盛しますとお伝えしましょう」


「ご主人。まだ眠いですか? 目がとろんとしていますね」


「いいんですよ。今日はずーっとお休みですから。いつまでだって寝ていていいんです。なんなら、私が膝枕をしてあげましょうか?」


「……ふふ。寝起きのご主人は甘えん坊なんですね。わかりました」


「私が優しい……ってなんですか。普段は優しくないみたいな言いかたですね」


「……ちょっとは自覚あるんですよ? でも、いつもはご主人が頑張りすぎるからです。私が心配するのに頑張るから……無理を言ってでも止めたくなるんです」


「でも今日は違います。ちゃんとお休みを取れましたから」


「だから今までの分も含めて……今日はいっぱい甘やかしてあげますね」



//SE 椅子が引かれる音

//SE ベッドに腰を下ろす音



「では、お膝に頭、乗せていいですよ」


「ふふ。ご主人の頭、重たいんですね。今までこんなことしてこなかったですから、初めてで……」


「これからはしてほしい時にいつでもしてあげますから……ご主人も無理はせず、ちゃんとお休みを取るんですよ」


「……んー、じゃなくて。……はい♪ よく言えました。困ったらわたしがまた職場に行きますからね」


「額に、私の手を乗せますね。冷たくしたら気持ちいいかなと思いまして」


「ご存じの通り、私はスライムですので。しかも特別なスライムですから、手の先だけスライム、という芸当ができるのです」


「では額に、片方の手で、ちょっとだけ冷たいのを当てますね……。ぺとー……。どうでしょうか……涼しいでしょうか?」


「普段考えごとをしていると、頭が熱くなっちゃいますよね。ですから、少し冷やした方がいいと思うのです」


「ふふ……気持ちよさそうですね。良かったです」



//SE 小鳥の音や、木々の葉の擦れ合う音



「……こうして静かにしていると、外の音が小さく聞こえてきますね」


「小鳥の鳴き声とか……葉の擦れ合う音とか……」


「ご主人、そのまま力を抜いていてくださいね。気を楽にしてください。とろんとした頭のまま……ゆっくりと全身の力を抜いて……」


「髪を触りますね。いつも頑張っているご主人を、労わせてください」


「よし……よし……いい子ですね……えらいです……」


「ゆっくり二度寝しましょうね。今日はお仕事もありません。……ここにご主人の二度寝を邪魔する人も、物も、何もありませんから」


「ふふ……頭を撫でると、ご主人は力が抜けますね」


「冷たくて気持ちいいですか? 頑張った頭を冷やしましょうね。……はい」


「その調子で、力を抜いてください。髪はゆっくり撫でていますね。梳くように、ゆっくり……。よし……よし……」


「好きな時に寝てくださいね。私はずっとこうしています。ご主人が目覚めるまでお傍にいますから……」


「目覚めたら、お外に出てみましょうか……。きっとお外も気持ちいいはずです。だってこんなに空気が澄んでいますから」


「……では、ご主人。おやすみなさい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る