第29話 扉の先へ…


 帝国兵の包囲がジリジリと狭められてきた。ハープーン国防大臣がニヤニヤしながら言った。


「むふふ。いっそこのまま…私が王になるのも悪くないですな。」


「見て、ユキにゃん。なんて悪い顔!」


「ほんとニャ! 鼻毛もですぎニャ!」


「ほ、ほっとけ!」


 キーチン・カレタンドリ帝王がタマとユキをかばうように大軍の前に立ち塞がった。


「余の首をとるなら勝手にせい。ただし、この者らは見逃してやってくれ。」


「意外といい人なんだ! テイコクさん。」


「でも、この人も鼻毛でてるニャ。」


「意外とは余計だ! ほっとけ!」


 帝王が連続ツッコミをいれた時、尻に矢が刺さった伝令兵があたふたと走ってきた。


「ハープーン様! 大変です! 敵襲です!」


「な、なんだと! 敵は何者だ!」


「わかりません! 全員が黒ずくめの集団です!」


 タマとユキは顔を見合わせた。


「タマちゃん! 結社の連中ニャ!」


「チャーンス! ユキにゃん!」


 タマとユキは油断したハープーンに、二人がかりでタックルして押し倒した。


(バッターン!)


「うわわっ! 何をする!」


「うるさいニャ! この鼻毛オヤジニャ! バクダンマの行き先を言えニャ!」


「むふふふ。それを聞いてどうする。あとも追えないだろうに。」


 ユキが手から鋭い爪をシャキーン!と出した。


「あわわわ、わかった! 確か、一番重要な攻撃目標、『すべてが決まるところ』とか言うておった!」


「ありがとニャ!」


「ムギュッ。フギャッ!」


 二人はハープーンを踏みつけて乗り越え、仲間が転がされている部屋の隅へ向けて突進した。

 寝っ転がったままジタバタしてハープーンが叫んだ。


「何をしておる! そやつらを取り押さえろ!」


 兵士が慌ててタマとユキを捕まえようと次々と飛びかかったが、タマは警棒を振り回して追い払った。

 ユキはひるんだ兵士にユキヘッドバットをくらわし、さらに両手を床について高速で回転して連続ユキキックを繰り出した。


 次々と吹き飛ぶ帝国兵を見ながらキーチン帝王はつぶやいた。


「うーむ、あの二人、できるな。逸材だ…。」


 また尻に矢が刺さった伝令兵がヨロヨロと入ってきた。


「ハープーン様! また敵襲です!」


 部下に助け起こされながら国防大臣が叫んだ。


「ま、またか! 今度は何者だ!?」


「か、海洋連邦軍の残党です! 仮面の大男が指揮を…。」


 タマとユキはまた顔を見合わせて笑った。


「ウマイカイさんだ!」


「さすが筋肉仮面ニャ!」


 動揺する帝国兵を押しのけて、二人は仲間たちのもとに駆けつけた。拘束を解かれた王子が礼を言った。


「タマ殿にユキ殿! かたじけない。そなたらには助けられてばかりだな…。」


「そんなことより、今のうちにみんな逃げて!」


 いきなり、リョートラッテがタマに抱きついた。


「なにを言ってるの! このアタシが大切な伴侶を置いてにげるわけないっての! さあ、充電完了! タップリとお返ししてやるわ~。」


 邪悪な笑み?を浮かべた白銀の女王は名残惜しそうにタマから離れると、身に吹雪をまといながらかわいそうな帝国兵に嬉々として襲いかかった。


「は、伴侶?」


 首をひねるタマにベーリンダが近づいた。


「タマ、ありがとよ。俺もひと暴れしてくるぜ!」


「気をつけて!」


 フンガムンガを両手に走っていった彼女はすぐに戻ってきて言った。


「あ、タマ。全部かたづいたらさ、大事な話があるからな。」


 顔を赤くしながら、青い髪の少女はまた敵兵の群れに突撃していった。ハムナンがおかしら~と叫びながら後に続いた。


 入口からは次々と、黒ずくめの戦闘員や、セーラー帽の水兵服姿の者が乱入して来ていた。


 周囲は三者乱戦の様相で激しい剣戟の音や怒号で騒然としていた。


「タマ殿! 皆も無事か!」


 仮面の大男が鉄製の櫂を振り回しながら走ってきた。


「ウマイカイさん!」


「遅くなりすまぬ。水兵をかき集めるのに手間どってしまった。」


「ううん! ありがとう! 助かったよ!」


 カンフェクシャネリ老王が伸びをしながら立ち上がった。


「やれやれ、きつく縛りおってからに。助かったわい。すまんな、タマにユキ君。」


「おじいちゃん王さまも無事でよかったよ!」


 老王はタマの頭を優しくなでながら言った。


「ははは、本当にお前さんはワシの孫に思えてきたわい。さあ、今のうちじゃ、第三の扉はワシらが守る。お前さんの世界を救いに行きなされ!」


「はい!」


 タマは老王に敬礼すると、回れ右をして四角く光る空間を目指して全速力で走った。


「ボクも行くニャ!」


「いいの? ユキにゃん、戻れなくなるかも…。」


「タマちゃんとなら平気ニャ!」


「ありがとう、ユキにゃん! いくよ!」


 タマとユキはしっかりと手をつなぐと、光り輝く第三の扉に飛び込んだ。




「じゃあ次は…五段梯子!」


「あらあら、糸玉さん、あやとりが上手ねえ。」


「大福もういっこ食べていいです?」


「実はみたらし団子もあるの。」


「タミエさんサイコーです!」


 タミエと糸玉巡査が交番で和やかにすごしているところに、タマとユキが飛び込んできた。


(ガッシャーン!!)


「あいたたたた…。」


「あいたたたニャ。異世界って意外と狭いニャ~。」


「おやおや、タマ、おかえり。大福かみたらし団子でも食べるかい?」


「ただいま! おばあちゃん…? あれ? なんでここにいるの?」


 目をまん丸にして固まっている糸玉巡査を差し置いて、ごく普通にタマとタミエは会話していた。


「それ、ボクが食べていいかニャ?」


「あらまあ、可愛い猫さんだこと。ゆっくりお食べ。」


「モグモグ…ウ、ウウウ~、…ウマイニャ!!」


「お約束ねえ。」


 大福とみたらし団子にパクつくユキを凝視している糸玉巡査に、タマが飛びついた。


「ああーっ! 同期の糸っち! 久しぶり!」


「タマっち~!? タマっち!! 無事だったんだ! おかえりですう!」


 固く抱き合い、喜ぶ二人の間にユキがねじ込んで威嚇した。


「タマちゃんから離れるニャ! なれなれしいニャ! フーッ!」


「うわッ。なにこのコかわいい! 実家の猫みたいです!」


 タマが糸玉巡査に再びすがりついた。


「ユキにゃん! みたらし団子は後で! 糸っち、緊急で本部に連絡して! 一斉爆弾テロが起きそうなの!」


 タマの珍しく真剣な表情に、糸玉巡査はただならぬ事態の深刻さを感じとった。


「わかったです! 犯人の特徴は…危ない場所は…?」


「拳のマークがある、ナンバープレートが無い蒸気エンジンのトラックが数えきれないくらいたくさん、たぶん発電所とか…役所とか基地とか、政府の施設とかを襲うはずなの!」


「わかった!」


 糸玉巡査は無線で連絡をとり始めた。しばらくするとサイレンの音がして、パトカーが交番の前に停まった。


「香箱! おまえ、戻ったのか!」


 血相を変えた田村巡査長が室内に飛び込んで来た。


「田村巡査長殿! 香箱巡査、ただいま帰還いたしました!」


「おまえ、だからそれはやめろって…。グスン。」


「あれ~? 田村巡査長、ひょっとして泣いてる~?」


「バカやろう! 調子にのるな! 長期無断欠勤しやがって!」


「タマちゃん! それよりバクダンマを追うニャ!」


「そうだ! 田村巡査長、パトカー借りるね!」


「えっ!? 香箱! どこへ行くんだ! その人は猫のコスプレか!?」


 タマとユキは交番から飛び出すとパトカーに乗り込んだ。後部座席には糸玉巡査となぜかタミエも乗った。


「おばあちゃん、あぶないよ。」


「奴を追うなら行かないわけにはいかないね。」


 タマは頷くと、アクセル全開で発進した。けたたましくサイレンを鳴らしながらパトカーは疾走した。


「タマちゃん、奴の行き先はわかるかニャ? 『すべてが決まるところ』って…どこニャ?」


「う~ん…? おばあちゃん、糸っち、わかる?」


 タミエはのんきに編み物を始めていた。


「さて、どこだろうねえ。」


「…タマっち、たぶん…国会議事堂かな? 法律とか決まるところですし…。」


「それだ!」


 タマは更にアクセルを踏み込んだ。警察無線から音声が聞こえてきた。


『本部より各移動へ! 不審な大型トラックが多数、各地で目撃情報あり! 大量の爆発物を積載している模様! 全車、重要施設の警戒にあたれ! 発砲を許可する。繰り返す、発砲を許可する…』

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