目が覚めたら赤鬼がおりまして…

尾形未来

第1話 株式会社 九色鬼 浅草支社から 派遣!?

どんより重い雲。

湿気でむーっとする地下鉄の改札。


草苗さなえ「週末の夕方でも都会は人が多いな〜」

草苗は田舎から上京したばかりだった。


駅員「これから避難訓練を行います。」


拡声器をもって淡々と呼びかける駅員。


この日は、終末予言がネットで噂される日だった…


都市伝説の好きな草苗は

「リアルだな…」とつぶやいた


その時!

1人の青年が草苗の横を走り抜けた。


青年と草苗がすれ違う瞬間!

不思議な風が吹いた…


草苗は青年が気になった。


青年が近づくとボァーンと壁に扉が浮かび上がった!


ガチャっと扉が開く!!!


中から、中年の男性が扉を開いている。

「急げ!」と促され青年が入っていく!


扉の奥に見えた風景に草苗は驚いた!


50名を超える大勢の人達!!!

そして、目下に街が広がっていた。

しかも地下なのに明るく色鮮やかな植物が沢山!


普段見る風景より鮮明で

おとぎ話に出てくるような空気感すら醸し出していた。


「地下都市!?こんなとこに!」


草苗は自分でも驚く様な行動をとっていた!

閉まろうとする扉の取手に急いで手をかけ勢いよく引っ張った!


しかし、中から青年が引っ張っていて

3センチほどしか開かない!


草苗「ここに逃げたら多くの方が助かる!開けて!」


中年の男性「しめろ!」

中から中年の男性が扉に手をかけ青年が閉めるのを助ける。


草苗はとっさに、近くに居る駅員に

草苗「ここに避難したら多くの人が助かるの!駅員さん!何とかしてください!」


駅員「これはスゴイ!あなた達!この扉はしばらく開けておく様に。避難所として使わせて頂きます。」


駅員から言われるとさすがに扉の中の方々も了承せずにはいられない様で、扉の取手から手を離した。


青年が申し訳なさそうに中年の男性の顔を見た。

中年の男性は青年を見ながら軽くうなずいた。



その時!!!!!!


ゴゴゴォゴゴー!!!!!!!!


凄まじい音が外から聞こえた!!!!


草苗は直ぐに階段を駆け上がって

駅の構外に出た!


「なんだ?」

「何これ?」

多くの人が戸惑っていた。


震災を経験した草苗は地鳴りの音で直ぐに地震が来る事を悟った。

ほとんどの方は予期せぬ出来事が起きると

何が起きているか判断する前には動けない…


草苗「地震よ!避難して!」


何が起きているか判断が出来たら動けるのが人間だ。


草苗の声に周りの方々はハッとして

避難を開始し始めた!


その時!!!!!

大きな縦揺れ!!!!

ダンダンダンダン!!!!

誰かが地球をドリブルしている様だ!


縦揺れが収まる前に

脳が偏るほどの横揺れ!!!!

グラグラグラグラ!!!!


揺れがある程度収まると

「キャー」

「逃げろー!」

さまざまなな声が聞こえる。


草苗が経験した深度7よりも強かった。


草苗「大変な事になった…」

呟いていると…


キュルキュルシュルシュル!

聞いたことのない音と共に

草苗の目の前がぐるぐると回りながら

遠ざかっていく…


草苗1人だけが時空に取り残された様だった…


よく見ると周りの景色が巻き戻されている…


ハッと気がつくと

草苗は扉の取手を引っ張っている!


草苗「え!?私…時間が戻ってる!?」


その時!!!!


ゴゴゴゴゴー!!!

凄まじい音と共に

冷たい風が吹く!!!!


草苗「さっきと違う!」

呟きながら駅の外へ階段を駆け上がる!


「なんだ?」

「どうしたの?」

様々な方の声…


草苗「地震じゃない…」

つぶやく草苗…


男性の声で「津波だ!!!!逃げろ!!!」


草苗「逃げるって言ったって…あ!さっきの扉!!!」


走り出す草苗!

しかし、そこには泥水が!!!!!


キュルキュルシュルシュル!

時空を超えた音!?


草苗は同じ時間を何度も繰り返した

地震…

津波…

大噴火…

巨大な隕石…


1番印象に残ったのはこれだった。


ドーン!と音がして

全ての空気が止まった!!!


まるで地球が呼吸を止めた様だ…


慌てて外に出ると綺麗な夕日…

「なんだ?」

と異変に気づき空を見上げる人々…


その時!!!


音もなく目の前が左に傾く!!!!


立っていられない!!!


ハッと空を見ると…

さっきまでの綺麗な夕日から打って変わって

夜中になっている…

そして、空には白い線が沢山!!!


星の残像…


ダーン!


と音が鳴って動きが止まった!


草苗「ポールシフト…」とつぶやいた

呟く息は白かった…


悲鳴が遠くから聞こえて来る!

何かが迫る予感…


「津波だ!!!!」

誰かの声。


草苗は慌てて扉に走る!

前には小さな女の子!


数人が扉に入る!

青年「あなたも!!!」


先ほどの青年が手を差し伸べる!


水がきた!間に合わない!

この小さな女の子だけでも!


草苗は女の子を抱えて青年に向かって投げた!


青年「あなたも!」

草苗「もう間に合わない!私はいい!」


草苗はそう言って水に飲み込まれながら

「人生の最後にいい事できてよかった」


と思うと草苗は苦しまずに亡くなった…



*・゜゚・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


カーテンの隙間から差し込む朝の光…


小鳥のさえずり…


冬の朝の匂い…


草苗さなえは強い視線を感じ寝返りをうつ


九州の田舎から出てきて、

東京で一人暮らし始めて3日目、


この部屋には1人のはずなのに…

「視線?気配???」


重い目を少し開けた…


眩しい朝日に当たった赤黒い何かがあった…


「え!?なに???眩しくてよく見えない…」


「だけど、眠たい…」

目をつぶる草苗。


うとうとしながら

「今のシルエットは…

 なんか見たことあるな…

 えっと…

 赤黒い肌に、黒いもじゃもじゃの髪…

 黒い棍棒みたいなの持ってたな…」


二度寝しながら考える…

 

「これって!!!!

 赤鬼!?????」


草津に温泉旅行に行った時に

草津の赤鬼伝説の話を聞いていた。


きっと昔の作り話だろうと思っていたが

赤鬼の存在が気になっていた。


草苗は恐る恐る目を開いた…


やはり!


赤鬼肌にもじゃもじゃの髪!!!


「赤鬼ぃぃぃぃ〜!!!!!」


赤鬼「はっはっは!やっと起きたか!!!」


赤鬼が草苗の顔を覗き込む様に言う。


草苗「ええええ!本当に居るの???」


赤鬼「はっはっは!もう起きる時間だぞ!」


赤鬼がサイズの合わないカーテンを開きながら体育の先生風に言う。


草苗の家のカーテンはまだサイズがあっていない…


田舎からリモートで家探しした為、カーテンのサイズを測れなかった…


草苗「え!?どういう事!?」


赤鬼「どういう事も何もないよ!起きる時間!いつまでも寝ない!ダラダラしてると棍棒で叩くぞ〜」


草苗「起きます!起きます!」


赤鬼「起きるとは、布団から出ることを言う」


と言いながら棍棒を肩にのせている。


草苗「分かりました。」


赤鬼の圧に負けた草苗は布団から出て動き出した。


赤鬼「よし!それでいいぞ!今度から容赦なく叩くからな〜」


ニコニコしながら赤鬼は外を眺める。


草苗は身支度をして朝食の準備をした。


草苗「あの〜どうしてこちらに?」


恐る恐る尋ねる草苗。


赤鬼「田舎から出てきた怠け者が居ると聞いてね〜株式会社 九色鬼 浅草支社から派遣で来たのさ。俺も新人だ!よろしく!」


草苗(意外とノリ軽い〜!って怠け者って私の事?っていうか株式会社!?九色!?鬼?派遣!?どう言う事????)


草苗「よ、よろしくお願い致します。」


赤鬼「はっはっは!戸惑うのも無理はない怠け者!鬼は知ってるか?」


草苗「存じております。草津にいらっしゃるとか…」


赤鬼「おおおお!そうそう!草津の赤鬼はエリートだよ!俺はそこまでないが赤鬼だ!」


草苗「あの〜九色っておっしゃってたと思いますが…赤鬼さん以外にも色んな色の鬼がいらっしゃるということですか?」


赤鬼「おおおお!怠け者!察しがイイな!まぁ、沢山居るって事だよ!俺も新入りだからな〜よくはわかんねー」


頭を掻きながら話す赤鬼。


草苗「そ、そうですか。でも!その、怠け者って言うの辞めてくれません?私は草苗という名前があるんです!」


赤鬼「おぉ、すまん!すまん!草苗か〜よろしくな!」


赤鬼(鬼に口ごたえするヤツって聞いた事ないな〜。マニュアルに書いてあるかな???)


いかにも古そうなマニュアルを開いてブツブツ呟く赤鬼。


草苗「どうかされました?」


赤鬼がマニュアルから草苗を見た瞬間!

一瞬だけ、草苗が鬼に見えた!


赤鬼「えっ!あ、いや…」


赤鬼(俺の母ちゃんに似てる…)


草苗「赤鬼さん?少し赤さが増したような…」


赤鬼「ええええ!ああ!そっ、そうさ。俺らだっって、元々赤いが更に赤くなることもあるさ。」


草苗にはなぜ赤くなったか分からなかったが気にしない事にして朝食の準備をした。


草苗「いただきまーす」


一人で朝食を食べ出す草苗。


赤鬼「普通、『赤鬼さんも食べます?』とか一言いわないのか?」


草苗「だって、この世の人ではなさそうだし、食事はいらないんでしょ?」


赤鬼「それはそうだけど…配慮ってあるじゃないか!」


草苗「赤鬼さんも食べます?1日700円生活でやっとで買ったウインナーいかがですか?」


脚本家を目指す草苗には1日700円が限度だった。


赤鬼「もう遅いし、700円か〜辛いな〜グスン」


草苗「え!?やだ〜泣かないで〜!意外と涙もろいのね〜」


テッシュを差し出す草苗。


赤鬼「ありがとうぅぅぅ」

ビォブブブブー

激しく鼻を噛む赤鬼…


草苗「ちょっとー食事中なんだけど!」


赤鬼「あ!ゴメンゴメン!」


赤鬼(これじゃ〜どっちが鬼かわからんな〜)


草苗(赤鬼さんって意外と優しいんだ〜ほっこりする〜)


朝日がサンサンと降り注ぐ部屋に

ウインナーと目玉焼きの香り…


お互いに心が馴染む時間がすぎた…


赤鬼「それで!今日は何をする???」


意外と子供の様に澄んで綺麗な瞳が

ワクワクしながら草苗を覗き込む!



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目が覚めたら赤鬼がおりまして… 尾形未来 @miku-miku

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