⑫集落の住人達


 細工屋に招かれた俺とサキは、彼が住んでいる集落に行ってみる事にした。とは言え、ただ行くのもつまらないので、狩りをしながら行く事に決まった。


 その為の材料だが…集めるのに結構な手間が必要なんだよな。



 「ううぅ~んしょっ!!」


 顔を真っ赤にしながらサキが木を掴み、声を出しながらぶら下がる。その木は弾力性に富んで大きくたわみはするが、折れずにサキの重さに耐えている。細工屋に【雪の重みでも折れない丈夫な木】は無いかと聞いておいたが、なかなか良さそうだ。


 「じゃあ、そのままでいてくれよ…?」

 「ふんぬぅ~っ! …えっ!?」


 俺はサキに言いながら石斧を掴み、思いっきり勢い良く幹に叩き付けた。


 「きゃ~っ!!」


 勿論、木の幹は叩かれた所に亀裂が入り、ボキリと折れると、さっきまで景気良く曲げていたサキと共にガサガサいいながら倒れていった。


 「バカ―っ! 折るなら折るって言わなきゃ落ちちゃうじゃん!!」

 「あー、悪かった悪かった…」


 木に抱き付きながら喚くサキの頭に着いた木の葉を取ってやり、取り敢えず謝っておいたが…後は手に入れた木の樹皮を剥き、乾かしてから弦を張り…



 「…あっ! 弓でしょーそれ!!」


 勘を働かせたサキが叫ぶ前で、俺は出来上がった弓を引いて構えてみる。


 …矢はまだ無いが、引き絞った弦を離しビュンッ、と弓鳴りの音を響かせた。まあ、こんな感じなのかな。



 「うーん、結構力が要るなぁ…」


 手渡された弓に出来たばかりの矢をつがえ、木の幹に狙いを定めながらサキが呟く。そして一呼吸空けてから、


 「…っ!! あ、当たった!!」


 ビュンッ、と小気味良く音を鳴らしながら矢が放たれ、幹のやや左側に突き刺さった。何だよ、俺より上手じゃないか?


 「すごいっ!! …でも、これって戦う道具だよね…」


 狩りの道具ではなく、武器だと言ってサキが口ごもる。まあ、ゲームの中とは言えど、人に向けて放てば殺傷力はともかく、怪我位するだろう。


 「確かにそうだが、石斧だって同じだよ。要は使い方次第じゃないか?」

 「…そうだよね、使い方次第…うん」


 まだモヤモヤしているのか、サキは歯切れの悪い返事で答えながら、矢をつがえて木を狙う。


 …ビュンッ、と再び矢が走り、幹の真ん中に突き立った。




 細工屋の話だと、今居る拠点から歩いて半日位で集落に着くらしい。途中に危険な動物が居る事も無いようで、サキと2人で矢の練習をしながらのんびり進む。


 「それ、持ってきたの?」

 「…ああ、何となく気になってね」


 俺が掌の中で例の矢じりを転がしているのに気付き、サキが覗き込んでくる。仲間としてゲーム内で結構な時間を過ごして来たが、彼女のリアルは全く知らない。だから、こんな風に近寄って来る時の距離感が…少しだけ近過ぎる気がするのは、俺が自意識過剰なだけなのか?


 「…でも、良く見ると叩いて削ったんじゃなくて、研いで鋭くしたみたいなんだよな」


 その矢じりは黒曜石ではなく、若干黄色がかった半透明の物で出来ていた。まあ、何かの骨か…だとしたら俺の知っている動物の骨じゃないだろう。もしかしたら、牙かもしれない。


 「それもさ、集落に行ったら聞いてみれば? きっと誰か知ってるかも」

 「そうだな、そうするか…」


 2人でそんな話に終始しつつ、気付けば日の高さも昼頃を示していた。まだ見えてこないかと思ったその時、


 「…あれ、煙じゃない?」

 「湯気…じゃないな。下に火は見えないから、人が暮らしている場所だな」


 サキの言葉に答えながら、俺はようやく集落が見えてきてホッとした。やれやれ、本当に半日掛かるとはな…。




 腰の高さより若干高い獣避けの囲い、そして物見櫓ものみやぐらが見えてくると、集落から様々な匂いや音が感じられ、人が複数暮らす場所なんだと実感する。名前らしい名も無い集落だが、結構な人数が暮らしているようだ。


 囲いは人が歩いて出来た道を仕切るように立っていたが、近寄ってみると板を互い違いに差し込んである。イノシシのように前が見えなくなると立ち止まる性質の動物なら、無理に追い払わなくても退散する仕組みらしい。


 「うわあぁ…ヒゲさんが沢山居る!」

 「いや、只のヒゲ面ってだけで俺はここにしか居ないぞ…」


 サキの軽口に応じながら集落の中を歩いてみると、地面を掘り下げて柱を立てて造られた縦穴式住居が並ぶ通りに面した所には、店のように様々な物を作って並べて物々交換に応じている。つまり、ここは例えるなら商店街のメインストリートって訳だ。


 並べてある物は実に多彩で、木の実を積めたカゴや土器が有ったり、木を削って作った食器、また違う場所では釣り針や槍の穂先、そして何に使うか見当も付かない物まで沢山並べられている。


 「あっ! あれコハクじゃない? 綺麗だなぁ~」

 「良く見てみろよ、虫が入ってるぞ」

 「うそっ!? うわぁ、ホントだぁ…」


 まるで博物館の民芸品コーナーのような品々に、俺とサキは興味を惹かれながら歩き続けていたが、俺達に気付いて近寄る細工屋の顔を見ると急に安心するのは不思議なもんだ。


 「おっ、2人とも今着いたのか? 疲れてないかい?」


 細工屋は親しげにそう言うと、立ち話も何だから中に入りな、と言って自分の住まいの入り口に掛けてあった編みわらをめくって中に促した。


 「お邪魔しまーす! うわっ、ここも沢山有るね!」


 細工屋と言うだけに、室内には様々な素材や作りかけの物がそこかしこに有る。そんな場所だが人が座るだけの空間はちゃんと確保されていて、俺とサキは焚き火が燃やせるかまどを間に細工屋の前に腰掛けた。


 

 

 

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