第56話 未来への選択
「ただいまぁー」
私が夕食の支度をしていると、妹の凛花が帰って来た。
「おかえり…えっ!?凛花どうしたのっ?ちょ、ちょっと!アンタ大丈夫?」
学校から帰って来た凛花は、左腕にギプスを付けて包帯を巻いていた。
「あー、大丈夫大丈夫、電車の中で転んじゃってさ、骨折しちゃった~!あはは」
「え~っ!こ、骨折?」
「うん、でも左腕だから字とか書くのは問題無いし、お医者さんが三ヶ月くらいで治るってさ」
「いや、アンタ何でそんなに余裕ぶっこいてんの!そもそも何で電車で転んだのよ?」
「あのね、帰りの電車の中で痴漢に遭ってさ、すっげームカついてキレそうになった途端に頭がボーっとしちゃってね、気が付いたら転んでたの」
「え…?今何て言ったの?頭がボーっとしたって?」
「うん、一緒に居た友達が言うにはね、いきなり電車の電灯が割れてガラスにもヒビとか入ってね、電車が緊急停止したんだって。そんで私、転んじゃったの、エヘヘ」
電灯が割れてガラスにひびが入ったって…
凛花…それって…アンタとうとう覚醒しちゃったんじゃないの!?
とうとう…
私と凛花の横で話を聞いていた山下新之助が腕を組んで深刻な表情をしている。
彼も私と同じ事を考えているのだろう。
「たっだいま~、あー喉渇いた!母さん、冷蔵庫の中に麦茶ある?…って凛花!お前どうしたんだよっ!大丈夫か?」
帰って来た新太郎が凛花の腕を見て驚いている。
そして夕食。
今日は山下新之助がオフなので久々に家族全員揃っての夕食なのだが、私と山下新之助は今朝のニュースの事や凛花の事が頭から離れず、どうしても無口になってしまっていた。
「ねえ、パパもママもどうしたの?何かあったの?喧嘩でもしたの?何か変だよォ~、ねえ、お兄ちゃん」
「ああ、俺もそう思う。何かノリが悪いっつーかさ、二人とも全然話さないじゃん。飯も全然食べてねーし。どしたの?」
凛花と新太郎が心配そうな表情で私と山下新之助を交互に見ている。
ごめんね、心配させちゃって。
でもね、今日起こった事があまりにも突然過ぎて、お母さんもお父さんもどうしたらいいか分からないんだ。
いつかこの日が来る事は分かってたのに、それなのに、どうしたらいいか分からないんだ。
その時、今まで黙っていた山下新之助が口を開いた。
「新太郎、凛花、今から大事な事をお前達に話す。すぐには信じられないかもしれないが…」
「えっ!?ちょっと、しんちゃん!話すって…何を?」
「20年前の事、すべてだよ。新太郎も凛花ももう子供じゃない。いつか話す時が来ると思っていたんだ。それが多分今日だと思う」
そして山下新之助は、新太郎と凛花にすべてを話した。
珍之助や美咲ちゃんの事、ハゲの事、メルティーの事、私と凛花が持つ”負の力”の事、そして世界の未来の事。
二人の子供は、真剣な面持ちで話を聞いている。
「そんな事あるワケねーじゃん!」とか言って笑い飛ばすかと思っていたのだが、二人とも何も言わずに黙って話を聞いていた。
「二人ともちゃんと聞いてくれてありがとうな、信じられんかもしれないが…これは真実なんだよ」
「父さん、母さん、正直言って、俺…その話を信じろって言われたって…どうすりゃいいのか分かんないんだけどさ…その…俺が救世主っつーのになるかもって話…俺、俺の未来って決まってるってコト?」
「いや、そうじゃない。お前の未来はお前のものだ。誰が決める事でもない。お前の未来は自分で選ぶんだ。『未来は変わる』んだよ。新太郎と凛花の好きにすればいい」
私はクローゼットの中にしまっておいた小箱を持って来て、凛花の目の前に置いた。
「ママ、これ何?」
「開けてごらん」
凛花が神妙な顔つきでその箱を開けると、中に入っていたのはローズピンクの腕時計。20年前、私の誕生日に山下新之助がプレゼントしてくれた時計だ。
「ママ、この時計、壊れちゃってるよ」
「うん、その時計ね、パパがママの誕生日にプレゼントしてくれたんだけどね、ママすっごく嬉しくってワーっ!てなっちゃたの。そしたらね、周りにある物が壊れちゃって、この時計も壊れちゃったんだ。貰ったばかりなのに」
「ふーん…」
「今日、凛花が電車で痴漢に遭った時、電車の電灯が割れたりガラスにヒビが入ったりしたでしょ?それもその時計が壊れた時のママと同じように、凛花の中から出た力のせいなのよ」
「それってさっきパパが話してくれた”女神の力”ってヤツ?」
「うん、そう。この力はね、女神が女の子を産むと、その子に受け継がれていくも物なの。だからママの力を受け継いだ凛花もこの力があるの。この先、近い将来、世界がどうなっちゃうかは分からないけど、恐らくあまりいい方向には向かっていないような気がするんだ。新太郎、凛花、あなたたちにそれをどうこうしろって言うつもりはないけれど、ひょっとしたら重大な決断をしなければならない時が来るかもしれない。大事な人と別れなければならない時が来るかもしれない。ツラくて悲しくて死にたくなる時が来るかもしれない。でもね、どんな時でも自分を信じていて欲しい。後悔したっていいよ、逃げ出したかったら逃げてもいいよ。でも自分にだけは嘘をつかないでね」
「「うん…」」
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