第49話 クソビッチ
ハゲはひと通り話すと、美咲ちゃんが出してくれたコーヒーを一口啜り、「さぁ~てと、これからどうすっかなあ?」と、まるで他人事のようにつぶやいてその場にゴロンと横になってしまった。
私はまだ頭の中が混乱していた。
幾重にも重なった世界、そこを行き来する事の出来る人達、女神と人間との間に生まれた女児が持つ負の力、母の事、私が負の力を持つ女神だと言う事…
ん?
でもこれって、ハゲやメルティーはこうなる事を知ってたの?
なぜ珍之助を私の所に寄越したんだ?
「ねえ、ちょっと!そんなとこに寝転んでないでさ、まだ聞きたい事があるの!ちょっと!おいハゲ!起きてよ!」
「ん?ええ?何だよ?さっき話した通りだよ、嘘なんか言ってねぇよ!ったく…貧乳のクセにガタガタうるせぇなあ」
「貧乳は関係ねぇだろ!そうじゃなくてさ、そもそも何で珍之助を私の元に寄越したのさ?ひょっとして、こうなる事が最初から分かってたの?アンタもメルティーも、最初から知ってたの?」
「ああ、その話か……あのな、俺やメルティーはこの世界で起こる事を予測出来る。でもな、それはあくまでも予測だ。絶対に起こるワケじゃねぇんだよ、未来は変化するんだ。最初はな、『この世界で将来紛争が起きてヤベェ事になる。そしてその紛争を止める人物を凛子ちゃんが生むことになる』って未来が見えてたんだよ、それは嘘じゃねえ。でもな、凛子ちゃんの出生とかを調べて行く内にな、凛子ちゃんが女神の子供だって事が分かったんだよ、この時は俺らの居る天上界でも大騒ぎになってよ…だってよ、凛子ちゃんとメルティーの母ちゃんって、今俺達の世界でちょっと有名人なんだわ」
「有名人?私のお母さんって、生きてるの?」
「ああ、生きてるよ」
「マジ?有名人って、何やってるの?私のお母さん」
「セクシー女優」
「ハァ?」
「凛子ちゃんの母ちゃんはよ、俺らの世界で『風間ジュン子』って名前の熟女セクシー女優だぞ。超売れっ子だぜ!ムッチムチのボインボインだ!ちょっとパイオツ垂れてきてるけどな、そこがまたエエんよ、うひょひょひょ」
「マジかよ…アタマ痛くなってきた」
「それでよ、そんな有名人に人間との間に出来た子供が居て、しかもそれが女の子だって分かったもんだからまた大騒ぎよ。『負の力を持った女神』が下の世界に居る!ってな。だから直接凛子ちゃんの母ちゃんに聞いたんだよ、一体何があったんスか?って。そしたら孕石の事とか分かってな、そこから調べて行くうちに、どうやら孕石が何か良からぬ事を考えてるらしいって事が判明したんだ。それでこのままじゃ凛子ちゃんの身が危ない!って思ってよ、凛子ちゃんのボディーガードっつーかさ、護衛役として珍之助を送ったんだわ」
「え?だってアンタ、最初は『凛子ちゃんはこのまま自堕落な生活をしてたら結婚も出来ない。そしたら未来を救う救世主が誕生しない。だから珍之助との間に子供を作って、それが未来の救世主になる』って言ってたじゃん」
「あ?ああ、そうだっけかな?ああ、それは最初の設定だしー。まぁ結局その設定はウソって事になるな。ゴメン、大嘘。真っ赤な嘘。私、ウソをついておりましたっ!」
「ちぇっ、やっぱりウソついてたんじゃんか、ハゲのクセに」
「ハゲは関係ねぇだろ!まあいいや…だからよ、珍之助は最初から凛子ちゃんを孕石の悪だくみから守るための護衛役として送り込んだんだな。だってよ、『将来のボディーガードだ』って言ったって、凛子ちゃん興味湧かねぇだろ?それよりも『将来のパートナーです、イケメンです、床上手です』って言ったら、凛子ちゃん絶対に食いつくと思ったんよ」
「なんだよ・・・それじゃ私が『男に飢えた行き遅れババア』みたいじゃんか…まぁ、実際そうだけどさ、ってほっとけ!じゃあさ、美咲ちゃんは?美咲ちゃんは何なのさ?」
「ああ、美咲ちゃんも凛子ちゃんの護衛だに。珍之助だけじゃちょっと心許無いしよ、それに凛子ちゃん、山下新之助の事、好きだろ?美咲ちゃんが山下新之助のトコに居れば、なんだかんだ言って山下新之助とお近づきになれるやんけ!ま、実際そうなったしな!だろ?だろ?感謝しろよ!貧乳!」
「貧乳は関係ねぇだろ!…ま、まあ、確かにそうなったけど」
そう言えば、意識が戻って来てからまだ珍之助の様子を見に行っていない。ハゲは『珍之助はもう大丈夫』って言ってたけど、私を守ろうとしてあんな大怪我をしたんだ、今どうなっているのか気になる。
私は寝ていたソファーベッドから起き上がろうとしたのだが…
「あっ!いててて、クゥ~~~、痛っ…」
腰のあたりにピキッと激痛が走り、どうにもこうにも起き上がれない。
「おねーさん、ダメだよ無理しちゃ!さっきおねーさんの身体拭いてたらさ、腰のあたりにでっけぇ青アザがあったよ。まだ起きない方がいいって!寝てろよ!」
メルティーがそう言いながら、私の腰の辺りに両手をかざして目を閉じ、小声で何かブツブツ言いだした。
すると……なぜか腰の痛みがす~っと和らいでいく。
あ、これが『世界A』から来た女神の能力なのね。
まるでゲームの治癒魔法みたいだな。
「おねーさん、ちょっとはラクになった?」
「うん、だんだん痛みが引いてきたよ。ありがとう、メルティー」
「いいよ、お礼なんて。おねーさんはおねーさんだもん」
「ん?何よ?おねーさんはおねーさんって」
「あのさ…もうこの際だから隠さずに言っちゃうけどさ、おねーさんのお母さん、私の母ちゃんでもあるんだよね」
「えっ!?な、何?どーゆーコト?私のお母さんがメルティーのお母さん?なにそれ?意味わかんない」
私とメルティーの横で、ハゲが床に寝っ転がってこっちを見ながらハナクソほじってニヤニヤしている。汚ったねーなぁ。
この野郎、まだ私に何か隠し事してやがるな!ハゲのクセに!
「おいハゲ!何ニヤニヤしてんだよ!こりゃどーゆーコトだ!?私のお母さんがメルティーのお母さん?何だよそれ!ちゃんと説明しろ!」
「あ~、凛子ちゃん、それはプライベートな問題だから~、別に俺から説明しなくてもいいんじゃね?じゃね?じゃね?」
「うるせえ!ハゲのクセにゴタゴタ言ってんじゃねえよ!ちゃんと説明しろって言ってんだろ!このクソハゲ!」
「ハゲハゲうるせぇなあ・・・まあいいや。じゃあ説明してやるよ。凛子ちゃんの母ちゃんな、凛子ちゃんの父ちゃんと別れて俺らの居る『世界A』に戻って来てな、また違う男とくっついたんだわ、そんで生まれたのがこのメルティーだ。だからよ、凛子ちゃんとメルティーは父親の違う姉妹って事になるべ!同じ穴から出てきたぴょ~ん、うひゃひゃひゃ」
ええええ~、そうだったの!?
だからメルティーは『女神』だったんだ。
じゃあ私とメルティーって、一応血が繋がってるのか!?
でもさ…全然似てないじゃん。
メルティーはこんなに美人でスタイル良くってGカップなのに、私は…
フランス人形と電動こけしくらい似てないじゃん!
アーロンチェアーとスケベ椅子くらい似てないじゃん!
不公平だ!
母親が同じなのに、製造ラインが同じなのに、何でこんなに違う製品が出来上がるのだ!
QC担当出てこい!ちゃんと検品したのかよ!
まあいいや、良くないけど。
それにしても、私のお母さんて何モノ?
最初に孕石ってヤツと恋人同士で、次にこっちの世界へ来て私のお父さんを好きになったから孕石を捨ててお父さんとナニして私が生まれて・・・でもって元の世界へ帰ってまた違う男とくっついてメルティーが生まれて・・・すげービッチじゃん、やりまくりじゃん。でもって女神でセクシー女優?
「メ、メルティー、私の、あ、いや、私達のお母さんってどんな人?」
「えー?母ちゃん?うーん、そうだなあ……まあまあ美人で…」
「まあまあ美人?」
「優しくて…」
「優しくて?」
「頭の回転が早くて…」
「うんうん」
「誰からも好かれる…」
「うん!」
「ヤリマン」
「やっぱり!」
「だってよ、父ちゃんが仕事に行ったとたんに違う男を家に連れ込んでさ、真っ昼間っからパッコンパッコンやってたもん。私が子供の頃からそうだったからね。もうヤりまくり」
「そ、そうなんだ…」
「ったくよぉ、あの女、S●Xモンスターだよ!あんなのが自分の母親だと思うと情けなくなるよ。母ちゃんがそんなだったから私はグレてヤンキーになっちまったんだよ。ちょームカつく!あのクソビッチ!エロ年増!変態肉便器!」
うわぁ…
お母さんて、そんなヒトだったのね。
私はお母さんとの思い出がまったく無いけど、これならむしろ無くて良かったのかもしれない。
たった一枚だけ残っているお母さんの写真は、どこかの公園で水色のワンピースを着て、眩しそうに微笑むお母さんが写っていた。
あの写真だって、最後に見たのはもう何年前だったか思い出せない。
「バタンッ!」
ふいに玄関のドアが閉まる音がした。
そしてドカドカと速足でこちらに向かって来る足音。
私達がリビングの入口の方を振り返ると、そこには切羽詰まった表情の山下新之助がハァハァと息を切らしながら立っていた。
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