第47話 記憶の暴走
瞼が重い。
頭が痛い。
口の中が砂利臭い。
砂でも食ったのか?
舌がジャリジャリする・・・
右腕が痛い、腰のあたりも痛い。
あれ?
ここ、どこだ?
あ、リビングだ・・・
と思った瞬間、あの初老の男性が日本刀を持って薄気味悪い笑みをうかべている顔が、フラッシュバックのように脳裏に浮かんだ。
「うわぁぁぁぁぁ!いやだいやだいやだ!」
私は思わず叫んで目を開けた。
「あっ!凛子ちゃん気が付いたの?大丈夫?どうしたのっ!」
心配そうな顔で私を覗き込んでいる優子と岡島激斗。
と言う事は、私は無事なんだ、あそこから脱出できたんだ!
殺されなかったんだ!
一気に感情がグダグダになり、目から涙が溢れ出る。
「怖かったよね、もう大丈夫だよ、もう大丈夫だから」
優子が私を抱きしめてくれた。私は更に感極まって、優子の胸で思いっきり声を上げて泣いてしまった。
良かった・・・あそこから逃げられたんだ・・・でも、珍之助は?
そうだ!珍之助・・・あの男に手首を切られて・・・そして・・・日本刀が珍之助の首に当てられて・・・
次々と色々な過去の情景が溢れるように頭の中に湧いて来る、止まらない、止まらない!
私の記憶が暴走し始めた。
あの光景を思い出した途端、私の心臓の動悸が激しくなった。
そしてブーンという低い音が頭のどこかで鳴り始める。
身体がカーっと熱くなる、頭の中の音がだんだん高い音に変化し、不快なキーンと言う音に変わっていく。
全身がガタガタ震える。
意識が遠くなる。
あれ?
キーンと言う音の向こう、優子の声が聞こえる。
必死に私の名前を呼ぶ優子の声・・・
それはだんだんと大きく、ハッキリと聞こえるようになって来て・・・
「凛子ちゃんっ!しっかりしてっ!凛子ちゃんっ!」
目の前には不安げにのぞき込む優子の顔。
「ゆ、優子・・・アタシ、どうしちゃったのかな」
「凛子ちゃん、いきなり歯を食いしばって白目を剥いてガタガタ震えだしちゃって・・・大丈夫?汗びっしょりだよ」
「う、うん・・・」
優子の後ろで、岡島激斗がほうきと塵取りを持って何かを片付けている。
その横にある細長いテレビ台の上に置かれていた液晶テレビが倒れて床に転がっており、ソファーの前のテーブルの天板が真っ二つに割れていた。
どうしたんだろう?
何かこの部屋の中でトラブルでもあったのか?誰かが喧嘩でもしたのか?
「優子、何か部屋の中が荒れてるけど・・・何かあったの?」
「そ、それがね、さっき凛子ちゃんの様子が変になっちゃったと思ったら、いきなり電球が割れてテレビが倒れて・・・食器棚のガラスも割れちゃって、すごくビックリしたんだよ!地震でもないのにいきなりだよ・・・でもそれより身体の具合はどう?大丈夫?」
「うん・・・身体中の色んなとこが痛いけど、大丈夫みたい・・・ねえ、優子、珍之助は?珍之助はどこ?」
「珍之助君はね、今メルティーさんともう一人、あの・・・おじさんが来てくれて治療してもらってるよ。かなりの大怪我みたいだけど生きてるって」
「そう・・・」
良かった・・・
珍之助も何とか無事らしい。それにしても私、どうしちゃったんだろう?
あの時、あの目出し帽の男達に拉致されて病院みたいな建物の部屋に連れ込まれて・・・さっきみたいに頭の中で変な音が聞こえて視界が真っ白になって、意識が途切れて・・・気が付いたらこの部屋に居たんだ。
私、意識が無かったの?
気を失ってたの?
その間、何があったんだろう?
リビングのドアが開く音がしたので視線を向けると、ハゲとメルティーが部屋に入って来た。
二人とも服に赤い血がべっとりと付いている。
「あ、凛子ちゃん、気が付いたか?どうだ?身体の具合は?」
「おねーさん!大丈夫?動ける?」
ハゲとメルティーが私が寝ているソファーベッドの傍らに来て、心配そうな表情で問いかけてきた。
「うん、大丈夫・・・みたい。それよりも珍之助はどう?」
「ああ、もうちょっと遅かったらマジやばかったけどな、何とか持ち直してくれたよ。でもな、その・・・両手がな・・・ねぇんだ。無くなっちまってるんだよな。ヤツはもう完全体になっちまってるから手の再生は無理なんだ。だから今後は義手になっちまうなあ。でもまあ、義手でも生活に支障は無いからな。それよりも死ななかっただけでもラッキーだよ」
「そう・・・珍之助、生きてるんだね」
良かった。本当に良かった。
最後に見た珍之助は、手首を切り落とされて血だらけでピクリとも動かなかった。
生きてたんだ、良かった・・・
「それにしてもこの部屋、何があったんだに?さっきガッシャンガッシャン音がしたけどよ、誰か暴れたのか?ひょっとして、優子ちゃん、あのガタイのいい兄ちゃんと喧嘩でもしたんかい?」
「それが、どうしてこうなったか、全然分からないんです。凛子ちゃんが震え出したらいきなり電灯が割れて、テレビが倒れて、テーブルが割れて・・・」
優子がそう言うと、ハゲとメルティーが顔を見合わせて驚いたような表情をしている。そしてハゲが真剣な目つきで私を見つめて言った。
「凛子ちゃん、今日起こった事を憶えてる範囲で構わんから話してもらえんか?」
「え?今日あった事?えーっと・・・今日は・・・会社に行くのに珍之助が運転するバイクの後ろに乗っていて、青山辺りで襲われて・・・」
私は今日起こった出来事を、記憶を遡りながら順に思い出して話した。
「・・・で、気が付いたらこのソファーベッドに寝てて・・・」
話し終えた私を、ハゲとメルティーはそれまで見たことも無いような険しい表情で見つめている。
な、なに、これ?
なにこの空気?
私、なにかマズイ事言った?
「そ、そうか・・・凛子ちゃん、アンタとうとう覚醒しちまったか・・・」
「え?なに?覚醒?」
「そうだ、覚醒だ。凛子ちゃんよ、アンタはな、普通の人間じゃねぇんだ、特別な人間なんだよ。今からな、凛子ちゃんに関わるすべての事をよ、真実を話すからな。これは本当は言っちゃイケねえ事なんだけどよ、凛子ちゃんが覚醒しちまったからな、話しておかなきゃならんな」
「私の事?・・・・・」
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