第44話 朝の風景
スマホからLINEメッセージの着信音。
私はベッド脇のテーブルに置いてあるスマホを手探りで探り当て、スマホ側面のボタンを押した。
スマホの画面に表示された時計の時刻は5:20。あと2時間も眠れるじゃんかよ・・・ったく・・・こんな朝っぱらから誰だよ・・・
マコチャン、お早う💗😃♥ 😆😚今日はお仕事カナ😜⁉️( ̄ー ̄?)❓
今日は天気が悪いネ😰こんな日は会社休んで僕とホテル🏩に行こウヨ💗(^o^)😍(笑)なんてね😃☀ 💕😘😆(^з<)❗
マコちゃんにとって素敵な1日になりますよウニ😃✋(^_^)💗
ああああああ・・・
変態脇坂だ・・・
朝からヤバいものを見てしまった。最悪の朝だ。
横のベッドでは美咲ちゃんがスヤスヤと寝息を立てて眠っている。
まるで天使のような寝顔だね・・・
こっそりと美咲ちゃんの横に入って、美少女エキスを存分に味わいながらもうひと眠りしようかと思ったが、さすがにそれは自分で考えてもキモいと思ったのでやめておいた。
あーあ、変な時間に起きちゃったなあ。今から二度寝したら絶対に起きれないような気がするし、何だか目が覚めちゃったよ。
私は眠るのを諦め、ベッドから起き上がった。
もう10月も終わる。朝晩は少し冷え込むようになってきた。クローゼットの中から高校の時から愛用しているボロボロのジャージを取り出して羽織り、リビングへ向かう。
リビングではソファーベッドに珍之助が寝ていて・・・と思ったが、珍之助の姿が見当たらない。
どこ行った?と思ったら、玄関のドアの音がして珍之助がリビングに入って来た。
「珍之助、おはよう。どこ行ってたの?こんな朝から」
「散歩」
「え?」
「散歩に行ってた」
朝5時から散歩とか、前はお爺ちゃんかよ。せめてジョギングとかにしてよ。
珍之助が朝食の準備を始めた。
もうずっと珍之助と美咲ちゃんが1日交代で朝食を作ってくれている。今朝は珍之助の当番らしい。
私はソファーに座り、キッチンで朝食を作る珍之助の後姿をボーっと眺めていた。
穏やかな朝。
例の相沢亮太の一件があった日から、もう10日が経過した。
山下新之助は沖縄へ映画の撮影に行っているので、この部屋に居るのは私と珍之助、美咲ちゃんの三人だけだ。
相沢が言っていた『護世会』とやらの事もあり、私一人で通勤するのは危険なので、会社の行き帰りは珍之助が車を運転して送り迎えしてくれている。もちろん無免だが。
そこまで心配しなくても・・・と思ったのだが、山下新之助が『坂口さんの事が心配で仕事が手につかない』と言うので、半ば渋々同意した。
ひょっとして私、愛されてる?山下新之助に愛されてる?
ンなわけねぇか。
まあ、地下鉄通勤より全然楽なのでいいんだけど・・・でも歩くことが好きな私にとって、会社からの帰宅がてらに夕暮れの多摩川沿いを歩けなくなったのがちょっと寂しい。
あれからもう10日か・・・
相沢亮太は桃栗出版にも顔を出していないらしく、優子が相沢の携帯に電話してみたが、その電話番号はもう使われていなかったそうだ。
護世会・・・
相沢が私達の前から姿を消してしまった今、私達が自力で『護世会』に関する事を探る手段は無くなってしまった。
あとはハゲとメルティーに聞くしかない。
でも、真実を知った所でどうすればいい?
もしも護世会が私に手を出そうとして来ても、珍之助や美咲ちゃんがそばに居てくれれば大丈夫なんじゃない?ってどこかで呑気に考えてる自分がいる。
そもそもこの話自体が『将来起こる事』という、何の実体も無い未来のハナシだ。それに護世会だってひょっとしたら相沢がクスリをやっている時に見ていた妄想とか、相沢自身の作り話かもしれない。
珍之助が居て、美咲ちゃんが居て、山下新之助が居て、私は普通のOLとして普通に働いて、こんな平凡で穏やかな朝があって・・・それでいいんじゃないか?
護世会とやらのハナシに頭を突っ込んで、人生にわざわざ波風を立てるような事をしなくても、今この日常があれば、それでいいんじゃないか?
人類を救う救世主の母親?私が?
知らんがな。
このままずーっと、一生涯その護世会とやらから狙われながらビクビクして暮らすのか?
何で私がこんなワケわかんない事に巻き込まれなきゃならないんだ。
思い起こせば約半年前、いきなりハゲが目の前に現れて珍之助が来て、山下新之助が関わり、そこに美咲ちゃんが居て優子や岡島激斗が絡んで相沢亮太の事件があって・・・
荻窪のアパートでグダグダな生活をしていた私の生活は一変した。
珍之助の面倒を見るようになって生活習慣もマトモになり、そのおかげで仕事もバリバリこなすようになった。
成り行きで山下新之助の豪華マンションに住み、衣食住は何の不自由も無くなって・・・
あれ?
イイ事づくめじゃん!?
いやいやいや、でも護世会とやらの云々が・・・
とまあ、こんな事をグルグルとループ再生するように考えていたら、珍之助に呼ばれた。
もう朝食が出来たようだ。
いつのまにか美咲ちゃんも起きて着替えて来ていて、キッチンカウンターに座っている。
今日の朝食は・・・
ご飯、味噌汁、ポテトサラダ、餃子。
朝っぱらから餃子かよ。
そう言えば、さっき何だか香ばしい匂いがしてたんだよなあ、餃子焼いてたのかよ。
まあいい。
今日は客先に行く予定も無いし、社内ミーティングも無いから、ニンニク臭くても構わん。
あ~、ここら辺が”女子力低っ!”って事になるのよね、きっと。
知らんがな。
いや、分かってるよ、分かってますとも。
でもね、もう27歳なのよ、新年早々には28歳になるのよ、ワタシ。
今更キラキラ系女子を目指す歳でもないし、珍之助が来てからは”お母さん思考”になっちゃって、何だかこう、”ギラギラ”した女としての欲求みたいなモンが薄れてきちゃってるように感じるのよね。
って、それも変だよな。
まだ結婚したわけでも無いし、もちろん子供だって居ない。
つーか、彼氏さえ居ないのに。
結婚か・・・
別にこれと言って好きな男の人が居るわけでも無いし、周囲に意識する男性が居るわけでも無い。ましてや誰かに好意を寄せられている気配も感じない。
山下新之助?
いやいやいや、むしろ全然ピンとこない。
確かに今現在、私にとってプライベートで一番身近な男性ではあるけど、だって一流芸能人だぜ?人気俳優だぜ?
いくら身近だからと言って、その状況に流されて惚れちゃうってのは安直すぎる気がする。
そりゃ山下新之助の事は好きだけどさ、それはあくまでもファンとして好きなのであって、彼女にして欲しいとか、結婚したいとか、考えたことも無い。
いや、ある。
正直言うと毎日考える。わはは。
そりゃ考えるよ。曲がりなりにも山下新之助とこんな関係になって、部屋に住まわせてもらってるんだからさ、『私って特別?スペシャル?』って思っちゃうよ。
思うくらいイイでしょ?タダだし。
でも私がこの状況を勘違いして『山下さん、好きです!』なんて言ったら、今のこの生活、私と珍之助、美咲ちゃんと山下新之助の四人のバランスが崩れてしまうかもしれない。
それはイヤだ。
近い将来、いつか山下新之助にも彼女が出来て結婚するんだろう。
そうなったら私の立場は?
美咲ちゃんは?
あ~、メンドクセェ!
考えるのがチョーめんどくせぇ!
だからこれでいいのだ。
取り合えずこのままでいいのだ。
面倒くさい事には目を瞑る。
今までそうやって生きて来たし。
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