第11話 キーホルダー
今日はあけぼの飲料の広告撮影だ。
あの”山下新之助に”会える!
私はいつもより早く起きてシャワーを浴び、ドライヤーで念入りに髪をセットする。と言ってもショートヘアーなので乾かして終了なのだが。
でもメイクくらいはちゃんとしておこう!
今日ばかりはドラッグストアで買った激安コスメではなく、カード分割払いで買ったブランド物の化粧品を使ってやる!
メイクを終えてピアスを着けていると、机の端に置いてある小さな袋が目に留まった。
何だこれ?・・・ああ、あのハゲが『初回モニターキャンペーンのプレミアムグッズ』とか言ってたヤツだ。中身は何だろう?
袋を開けると中から複雑な幾何学模様をした金属が組み合わさったキーホルダーが出てきた。
キラキラしていてカワイイ。こいつはちょっと気に入った。
私はそのキーホルダーをカバンの持ち手に付け、姿見に全身を映してみる。
「よし、決まったぜ!」
珍之助はまだ床に寝っ転がって爆睡している。
「いってきまーす」
もちろん珍之助は返事をしないが、部屋に誰か居るってのもいいかもしれないな。
独りじゃないって感じがする。
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----都内 撮影スタジオ----
「はーい、山下新之助さん、入りまーす」
山下新之助がマネージャーと共に穏やかな笑みをたたえて撮影ブースに入って来た。
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いします」
「じゃあ予定通り、普段着編の1カット目から行きまーす」
撮影が始まった。
ポーズなどの指示はデザイナーの優子とカメラマンさんの仕事なので、撮影中は私の出る幕はない。
私は椅子に腰かけ、ただただ撮影の様子を見ているだけだ。もう完全に”ただの山下新之助ファン”と化す。
それにしてもイケメンだなあ・・・
やっぱり彼女とか居るんだろうな。
山下新之助に釣り合う人って、どれほどの美人なんだろう。
ま、アタシにゃ縁のないハナシっすけどねー。ゲロゲロ。
途中に休憩を挟んでまた撮影開始。
見とれるワタシ。
こんなに近くで山下新之助を見ることが出来るなんて、あたしゃこの仕事やってて良かったよ。
「はーい、全カット終了でーす。お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でーす」
撮影が終わった。
最後にマネージャーさんに確認用データを送る日にちを確認して本日の撮影業務はすべて終了。
撮影当日はデザイナーの優子は色々大変だけど、営業の私は楽ちんだ。トラブルが無ければ特にやることも無い。
優子はまだカメラマンさんと何か話し込んでいる。
そうだ、念のため、今日のスタジオ使用料の確認をしておこう。
事務所へ行くためにスタジオを出て廊下を歩いていると、向こうから山下新之助が歩いて来るのが見えた。
ああああ、どうしよう!私、メイク落ちてないか?髪とかボサボサじゃない?
お昼に食べた天ぷらそばのネギとか前歯に挟まってないか?
山下新之助がだんだん近づいて来る。
彼は私に気が付くと、ニッコリ笑いながら
「あ、今日はお疲れ様でした」
と挨拶してくれた。
キャー!何て礼儀正しいイケメンなの!鼻血出そう。
「こちらこそ、ありがとうございましたー」
私はドキドキする胸の内を悟られないよう、精一杯の笑顔で挨拶する。
「あれ?そのキーホルダー、どこで買ったんですか?」
すれ違いざま、私のカバンに着けてある、あのハゲから貰ったキーホルダーを見て山下新之助が尋ねてきた。
えっ?なになになに?キーホルダー?え?これ?
「えっ、こ、このキーホルダーですか?」
「うん、そのキーホルダー、キラキラしてきれいですね!」
「あ、あ~、これ、えーと、知り合いからいただいたんです」
「そうなんですかー、あ、スイマセン、いきなり変な事聞いちゃって。じゃ、今後もよろしくお願いします」
「ハ、ハイ!よ、よ、よろしくです!」
うわぁ~、山下新之助に褒められちゃった!
ありがとう、ハゲ!
感謝するよ、ハゲ!
ブラボー、ハゲ!
優子はこの後、カメラマンさんの事務所へ行って今日撮影したデータの確認作業をするため、私は一人で会社に戻る事になった。
思ったよりもかなり早く撮影が終わったため、少し時間が出来た。
そうだ、珍之助の服、何とかせんとな・・・
さすがに白ソックスに半ズボンじゃバカ丸出しだ。
そろそろ運動もさせなきゃならないし、となると外へ出しても恥ずかしくない恰好にしなきゃ。
私は途中にある大型スーパーの衣料品コーナーに行き、珍之助用の服を探した、が・・・
サイズに悩む。
どうせすぐにデカくなるはずだし、となると子供用の服を買ってもあっという間に着れなくなっちゃうかもなあ。
あの子、成長早そうだし。
って、あたしゃアイツの母ちゃんか。
これじゃ”彼氏”じゃなくて”息子”みたいじゃん。
まあいい。
とりあえず、コレとコレと・・・
適当に大人用のSサイズの下着やジャージ、Tシャツなどを買ってみた。
案外お金かかるなあ。
子供を育てるって大変なんだな。子供じゃないけど。
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