第9話 彼氏覚醒
「うわっ!昨日の夜よりも成長してる!」
朝起きて粘土彼氏の様子を見ると、昨日よりいくぶん身長が伸びて髪は目に掛るくらいになっており、顔のパーツもほぼ出来上がっていた。
私が言うのもナンだが、コイツって結構イケメンかも。
そして下の方も・・・でかくなってる!あわわわ・・・・
スゲェな、コレ。
ずっと半信半疑だったけど、こうして目の前にいる人型の物体を見ると、あのハゲやメルティーが”神”だって事は本当なのか?
そう言えばコイツが覚醒するのは今日だ。
何とか早く帰ることが出来ればいいんだけど、仕事溜まってるしなあ。
この日も仕事がてんこ盛りだった。
エクセルでネット広告の集計をしつつ弁当を食べ、雑誌広告の色校チェックをして進行管理表作って村上ペイントの広告撮影の段取りをして・・・あれよあれよと時間は過ぎて行く。
その合間に駅ビルの子供服屋で粘土彼氏の服を買って・・・
久しぶりに出社した優子と話す時間も無い。
気が付けばもう19時。
ひょっとしてヤツはもう覚醒しちゃったか!?
何かヤバい事になってなければいいけど・・・やっぱり心配だ!帰る!
今日もダッシュでアパートに帰った。
電気をつけて居間のドアを開けると・・・
「わわっ!!!」
もうすっかり人間の形になったヤツが・・・すっぽんぽんの彼氏がベッドに座って雑誌を読んでいる!メチャメチャ正しい姿勢で!
そして彼氏は私の顔を見てつぶやいた
「ちんこ・・・・・」
あわわわ・・・
もう覚醒しちゃったんだ。
全裸の彼氏はさらに続ける
「ちんこ、本日のコーデはなかなか決まってるですね。初夏のお出かけにピッタリ。さわやか半袖ニットとスリムシルエットのロングスカート。軽めのジャケットを合わせれば、大人のオフィスカジュアルに大変身、ブッブー」
な、何だ、その取って付けたようなセリフは。
全裸彼氏が持っている雑誌は・・・先週買ってその辺に放っておいたファッション雑誌だ。
コイツは覚醒してすぐにこの雑誌を読んだと思われる。
「あ、あのさ、えっと、あなたの服買ってきたから、これに着替えて」
私は子供服屋で買った服をカバンから出して全裸彼氏の前に置いた。
「これはわたしの服ですのでしょうか?もうすぐ夏本番!今年の夏はちょっとクールな下町コーデでライバルに差をつけちゃお!と言う感じでよろしいですのでしょうか、ブッブー」
こ、こいつ・・・覚醒してこのファッション雑誌しか読んでないから、すっかりおバカな三流雑誌のファッション企画担当者みたいになってる・・・
それにその必ず最後に付ける”ブッブー”って何だよ?こだわりか?
「まあいいから、取り合えず早く着て!」
早く服を着てもらわないと・・・その・・・下半身にあるアレが気になって気になって・・・
が、全裸彼氏は子供服を手に取って珍しそうに眺めている。
あ、そうか、服の着方が分からないのか。
仕方ないのでベッドに横になってもらい、服を着せてあげた。
これじゃまるで寝たきり老人だよ・・・
買ってきた服を着せると、顔は涼しげな眼をしたイケメンだが背は130cmちょっとの小学生用の服を着た父っちゃん坊やが出来上がった。何だこれ。
「おしゃれな大人のOLなら、夏の通勤スタイルにも流行の要素を忘れたくないものですよね。でも、OLにとって・・・」
「もういいもういい!そんな雑誌読んでないで、取り合えずコレでも見てなさい!」
辞書とかがあればいいんだけど、あいにくそんな物は私の部屋には存在しない。
取り合えず本棚にあった『スーパーの食材が高級レストランの味になる 三國シェフのすご技絶品レシピ 永久保存版』を読ませることにした。
ファッション雑誌よりマシだろう。
彼氏に料理本を渡すと食い入るように読んでいる。
しかし、どこから見ても”父っちゃん坊や”だよ・・・トホホ。
そう言えば、コイツの名前って”珍之助”だったな。
「ねぇ、ちんのすけ・・・」
呼んでみた。
「はい、何だ?ちんこ」
アンタさぁ、やっぱり・・・やっぱり私の事、”ちんこ(珍子)”って呼ぶんだね。
私が入力ミスしたのが原因だから仕方ないけどさ。
「あのね、私の名前は”凛子”だよ、”珍子”じゃないよ」
「珍子の名前はちんこですのでしょうか?」
「ちんこじゃなくて凛子、り・ん・こ!」
「ち・ん・こ」
ダメだこりゃ・・・
まあいい。
根気よく教えれば、いつか凛子って呼んでくれるだろう。知らんけど。
「ねぇ、珍之助、今どんな気分?」
「ツータックの半ズボンは着こなしにリラックス感を足して初夏らしいお出かけスタイルですのでしょうが、鯖缶は旨味がたっぷりある人気の缶詰だから作る女子は時短ができて家事に大助かりな気分は最高ですから、ブッブー」
ファッション雑誌と料理本の内容がごっちゃになってる・・・
つーか、何言ってんのかわかんない。
コンビニで働いてる外国人留学生の方がもっとマシな日本語を話すぞ。
こりゃ日本語文法の本とか読ませなきゃだな。
子供服を着た身長約130cmのイケメンがベッドに座って熱心に料理本を読んでいる。
実にシュールな光景だ。
安かったからと言う理由だけで半ズボンと白ソックスを買ってきたのもマズかった。
あれ?
さっきまで雑誌を読んでいると思ってたけど、よく見ると珍之助はそのままの恰好で目を閉じている。
あ、こいつ、眠ったな。
アプリに一日20時間の睡眠が必要って書いてあったなしあ。
今眠ったとすると、次に起きるのは明日の16時頃か?
まあ、まだ動き回る事は出来そうも無いからこのまま大人しく部屋の中に居てくれるよね。
ベッドの上で料理本を持ったまま爆睡する珍之助。
このままでは私がベッドを使えない。
眠ったままの珍之助を抱えて床に寝かせたが、そのままじゃまるで死体みたいで不気味なので薄い毛布を掛けておいた。
はぁ~・・・今日も疲れた。
お腹空いたなあ・・・
でも今からコンビニに行くのも面倒くさいし、何か作るのはもっと面倒くさい。
私は冷凍庫にある冷凍チャーハンをチンして食べ、シャワーを浴びてベッドへ倒れ込んだ。
時間はまだ23時。
そう言えば珍之助がこの部屋に来てからゲームもやってない。
まあ、それはそれで良いのかも・・・
床には本を読んでいた時のままの姿勢で眠る珍之助。
「おやすみ、珍之助」
私はすぐに眠りに落ちた。
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