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直史は、呆然とした。その言葉で、自分はフラれるのだ…と感じたのかも知れない。



「ねぇ…おが…直史君、わたし、直史君にお願いがあるの」


「…」


まだ呆然とする直史に、菟萌は震えるくちびると、テーブルの下で震える手をグーにして続けた。


「直史君に、私を…好きなって欲しい。あの人以上に。あなたを…好きなりたい。あの人以上に。安心したい。嫌いにならないで欲しい。だから…」


菟萌の声がだんだん震えだす。もう、言葉を紡ぐのは無理らしい。これ以上続けたら、どんどん直史には重荷になって行く。解ってる。でも、伝えないわけにはいかない。


「愛して…欲しい…」


とうとう、我慢ならず、菟萌の頬には透明な雫がポトリポトリと零れ始めた。これでフラれたら、きっともう2度と人を好きなる事は無い。だから、もしも直史がこの想いを受け止めてくれるなら、菟萌は、羅賀を2番にしようと、この人を愛していこうと、心に誓っていた。



「先輩…僕部屋に来ませんか?」


「え?」


直史は、突如立ち上がり、伝票を持つと、レジに向かった。そして、菟萌の手を握ると、電車に乗り、直史の家に向かった。


直史のアパートに着くと、菟萌は緊張してきた。起こりうる事は、何となく想像がついたからだ。


ガチャリ…と鍵を開けると、廊下を通り、リビングに通された。すると…、思わず菟萌は驚いた。部屋中、アイドルや、アニメ、ミュージシャンなどのフィギュアやポスター、大量のDVDが所狭しと並んでいた。と言っても意外に片付いている。


「こんなんですよ?俺。先輩の元カレみたいに、写真とか撮れないっすよ?でも、言えます。これだけは…」


見た事がないくらい、真面目な顔で、菟萌を見つめた。菟萌は、思わず視線を逸らした。あんなに一生懸命克服して、何とか直史に助けてほしくて、本当は、もう心臓が飛び出るくらいの緊張を抱え、直史に話しかけていた。


逸らされた視線も、構わず、直史は、そっと菟萌の手を握りしめた。



「俺、幸せにします。菟萌さんの事。大事にします。嫌いになんてなりません。一生一緒にいます。愛してます!!」



菟萌は、震える手をそっと解き、直史の顔を手で包んだ。


「もう…一人にしないで…。大好きよ…直史…」


「俺もです…」


そのまま、2人は、ベッドに倒れ込み、セックスをした。菟萌は久しぶりに高揚感を覚えながら、羅賀に比べると、気持ちよくさせるセックスをする、直史に何度もキスをねだった。


強く強く、愛し合う2人。



やっと言えそうだ。



『羅賀…愛してる…。さようなら…』

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部屋にフィギュアと寝癖 @m-amiya

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