私は、写真サークルに入会した。そして、初めて部室に入った時私は、目を疑った。そこに居たのは、あの時のオタク男。


「あ!君!」


(やっぱり覚えられてたか…)


少々、覚えられてるのが迷惑に感じた。これから4年間、この人と同じサークルなのか…と、憂鬱さえ覚えた。


「本当にこの前はごめんなさい!大丈夫でしか?」


「うん。平気」


「でも、あの後あんなに早くいなくなっちゃって…お詫びに何かご馳走しようと思ってたんだよ?」


羅賀が、笑って言った。


「良いよ。あの人混みだったし、私、あなたみたいなタイプの苦手なの」


そう。いつもこうだ。私は、何とも思ってない人には、本当にストレートに傷つけるような言い方をしてしまう傾向にある。この時も、私は、羅賀にとっても酷い事を言ってしまう。


「僕みたいなタイプ?」


羅賀は、首を傾げた。


「…だから…フィギュアとか…そう言う、オタクって言うの?なんか、視野狭いって言うか、気持ち悪い…」


(あ…!)


言ってすぐやばいと思った。曲りなりも、私の髪の毛を救ってくれた人だ。そんな人に気持ち悪いはない。失礼すぎる。


「ご!ごめん!あ…あの…だから…」


さっきまでの落ち着いた大人びた私が、冷や汗をかいて、弁明を試みる事にした。しかし、その必要はなかった。


「良いよ。僕本当にオタクだし。女の子と付き合った事も無いし…もし、君が迷惑なら、僕は入会するのを辞めるけど…」


「う…ううん!そんな事ない!一緒に入ろう!」


思わず、泣きそうになっている羅賀に、サークルに一緒に入ろうと誘った。それからだ。私と羅賀が急に親しくなったのは。まず、私たちは自己紹介を済ませ、私は、もう一度、羅賀に謝罪をした。すると…、


「川口さんて、優しいんだね。気持ち悪くてもちゃんと話してくれるんだから…」


「う~ん…それってまだ、根に持ってる感じに聴こえるんだけど…」


「解っちゃった?」


「何それ!」


私は、第一印象とはまったく違う印象を羅賀に抱くようになった。何だか、涙もろいし、弱々しいし、頼りがいがあるとは、嘘でも言えない。それなのに、私は、羅賀の写真を見て、雷に打たれたとでも言うのだろうか…びっくりするくらい、羅賀の写真は美しかった。



大学生活が、一か月が過ぎた頃、私は、頻繁にサークルに顔を出した。しかし、羅賀は幽霊部員で、本当に時たましか顔を出さなかった。そんなある日、久々に羅賀が部室に入って来た。


「あ、羅賀、おはよ」


「おはよう、菟萌ちゃん」


「もう…そのは要らない。小学生無いんだから…」


「でも、菟萌ちゃん、可愛いんだもん。いいじゃん」


(もう…19にもなってちゃんだなんて呼ばれるなんて…恥ずかしいとしか言いようがないよ…)


「ねぇ、菟萌ちゃん、僕の写真、見てくれない?昨日、富士山に登って来たんだ!」


「へー…こういう写真撮るんだ…羅賀…なんか意外。追っかけしてるアイドルとか、フィギュアとかそう言うの撮るんだと思ってた」


「えー…僕は確かにオタクだけど、こういう写真を撮る事が好きだから、このサークルに入ったんだよ。でも、つい幽霊部員になっちゃうんだ。山登りが好きだから、中々サークルにこれないのは、そのせいなんだよ?」


「そうか…、アイドル追っかけるのに必死なのかと思ってた…」


「相変わらず僕をオタクと言う偏見で菟萌ちゃんは見るね」


そう言う羅賀に、私はもう言い訳を言うことは無い。そんな偏見も色眼鏡も、承知して、羅賀は私を受け入れたようだ。変に話かけてこない方が、羅賀には厄介らしい。


それから、しばらくして、夏休みに入る前日、私は、羅賀に、思わぬことを言われる。


「菟萌ちゃん、僕と付き合ってください!」


「え…?」


一瞬、耳を疑った。羅賀が私を好き?嘘でしょ?私は羅賀の事恋愛対象として見たことは無いのに…と、私は戸惑った。そして、その次の瞬間には、





目を、逸らしている自分がいた――――…。

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