3
私は、写真サークルに入会した。そして、初めて部室に入った時私は、目を疑った。そこに居たのは、あの時のオタク男。
「あ!君!」
(やっぱり覚えられてたか…)
少々、覚えられてるのが迷惑に感じた。これから4年間、この人と同じサークルなのか…と、憂鬱さえ覚えた。
「本当にこの前はごめんなさい!大丈夫でしか?」
「うん。平気」
「でも、あの後あんなに早くいなくなっちゃって…お詫びに何かご馳走しようと思ってたんだよ?」
羅賀が、笑って言った。
「良いよ。あの人混みだったし、私、あなたみたいなタイプの苦手なの」
そう。いつもこうだ。私は、何とも思ってない人には、本当にストレートに傷つけるような言い方をしてしまう傾向にある。この時も、私は、羅賀にとっても酷い事を言ってしまう。
「僕みたいなタイプ?」
羅賀は、首を傾げた。
「…だから…フィギュアとか…そう言う、オタクって言うの?なんか、視野狭いって言うか、気持ち悪い…」
(あ…!)
言ってすぐやばいと思った。曲りなりも、私の髪の毛を救ってくれた人だ。そんな人に気持ち悪いはない。失礼すぎる。
「ご!ごめん!あ…あの…だから…」
さっきまでの落ち着いた大人びた私が、冷や汗をかいて、弁明を試みる事にした。しかし、その必要はなかった。
「良いよ。僕本当にオタクだし。女の子と付き合った事も無いし…もし、君が迷惑なら、僕は入会するのを辞めるけど…」
「う…ううん!そんな事ない!一緒に入ろう!」
思わず、泣きそうになっている羅賀に、サークルに一緒に入ろうと誘った。それからだ。私と羅賀が急に親しくなったのは。まず、私たちは自己紹介を済ませ、私は、もう一度、羅賀に謝罪をした。すると…、
「川口さんて、優しいんだね。気持ち悪くてもちゃんと話してくれるんだから…」
「う~ん…それってまだ、根に持ってる感じに聴こえるんだけど…」
「解っちゃった?」
「何それ!」
私は、第一印象とはまったく違う印象を羅賀に抱くようになった。何だか、涙もろいし、弱々しいし、頼りがいがあるとは、嘘でも言えない。それなのに、私は、羅賀の写真を見て、雷に打たれたとでも言うのだろうか…びっくりするくらい、羅賀の写真は美しかった。
大学生活が、一か月が過ぎた頃、私は、頻繁にサークルに顔を出した。しかし、羅賀は幽霊部員で、本当に時たましか顔を出さなかった。そんなある日、久々に羅賀が部室に入って来た。
「あ、羅賀、おはよ」
「おはよう、菟萌ちゃん」
「もう…そのちゃんは要らない。小学生無いんだから…」
「でも、菟萌ちゃん、可愛いんだもん。いいじゃん」
(もう…19にもなってちゃんだなんて呼ばれるなんて…恥ずかしいとしか言いようがないよ…)
「ねぇ、菟萌ちゃん、僕の写真、見てくれない?昨日、富士山に登って来たんだ!」
「へー…こういう写真撮るんだ…羅賀…なんか意外。追っかけしてるアイドルとか、フィギュアとかそう言うの撮るんだと思ってた」
「えー…僕は確かにオタクだけど、こういう写真を撮る事が好きだから、このサークルに入ったんだよ。でも、つい幽霊部員になっちゃうんだ。山登りが好きだから、中々サークルにこれないのは、そのせいなんだよ?」
「そうか…、アイドル追っかけるのに必死なのかと思ってた…」
「相変わらず僕をオタクと言う偏見で菟萌ちゃんは見るね」
そう言う羅賀に、私はもう言い訳を言うことは無い。そんな偏見も色眼鏡も、承知して、羅賀は私を受け入れたようだ。変に話かけてこない方が、羅賀には厄介らしい。
それから、しばらくして、夏休みに入る前日、私は、羅賀に、思わぬことを言われる。
「菟萌ちゃん、僕と付き合ってください!」
「え…?」
一瞬、耳を疑った。羅賀が私を好き?嘘でしょ?私は羅賀の事恋愛対象として見たことは無いのに…と、私は戸惑った。そして、その次の瞬間には、
目を、逸らしている自分がいた――――…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます