神生活の始まり
第一話 怪しい神様
恐らく、ラピスの目の前に物凄い数存在している人間の様な生き物は皆、神だろう。そしてまた、自分自身も先刻、神になったばかりであった。
周りには神の他に、異世界でお馴染みの中世ヨーロッパ風の町並みが広がっていた。
遠くには巨大な城の様な建物が確認でき、ラピスがいる場所にある表通りの両端には、露店が城の方までずらりと並んでいた。
「王都の商店街、か」
そう呟いたが、ラピスは疑問が浮かんだ。まずは通貨についてだ。
商店街と言うことは、当然売買が発生する。普通の人間なら金を払い、自分が求める商品を買うのだが、神にとって金と言うものは、それ程価値のあるものなのだろうか。
スミレの説明によると、神には特殊な能力があるらしい。無論、ラピスにもだ。
その能力は多種多様らしく、特定の物を増殖させたり、造り出したりする能力が既存している可能性も十分にある。そんな能力を行使された場合、金など正に塵同然となり得るだろう。
そんな中、ラピスは商店街を観察していてあることに気付いた。
――商店街で商売をしている神は皆、客に無償で物品を提供しているのだ。
何故、物品を無償で提供しているのかラピスは直接聞きたくなった。
そしてラピスが人混みならぬ、神混みの中に入ろうとしたその時――、
「お兄さん――ちょっといいかい?」
肩を掴まれるのと同時に、後方から声を掛けられる。
ラピスが恐る恐る振り返ると、其処には薄茶色のフードを深々と被った、#聊__いささ__#か背の高い謎の神がいた。
「どうしましたか……?」
「いやぁ、お兄さんの神気量が余りにも多くて、つい声を掛けてしまったよ」
神気とは、魂の疑似肉体を形成するのに必要なもの――と言う知識しか、ラピスは頭に入れていない。
その為、神気の量が多いとどうなる、少ないとどうなるのかは全く知らないのだ。
「俺、さっき神になったばっかりで、神気に関しては疑似肉体を造るってことしか分かんないんすよね。……神気量が多かったら、何かヤバイんすか?」
「そんなことはないよ。――寧ろ、凄いことだ」
“凄いこと”と言われても、余り理解できない。
疑似肉体を形成する他に、神気で何かできることがあるのだろうか。――そして、この神は神気をどうやって見ているのだろうか。
ラピス自身、他の神を見ても神気の様なものは一切見えない。そもそも神気は、目で見えるものなのだろうか。
「――とりあえず、ちょっと付いてきてもらえるかな?」
フードを被った神はそう言うと、ラピスの手を掴んだ。そしてそのまま、ラピスを無理やり引っ張るように歩き始めた。
「え、ちょっ……え?」
ラピスの戸惑う声がまるで聞こえないかの様に、歩くスピードは徐々に上がっていく。
その後、非常に入り組んでいる路地に入るが、スピードを落とさず素早く走って行った。
路地を駆け抜けると、ラピスが元いた様な商店街に出たが、神と神の間をすり抜け、またすぐに次の路地へと入っていった。
「あの、これ何処に連れてかれてんすか!?」
「――」
路地を抜け、また次の路地に――。
そんなことを何度か繰り返すと、何やら酒場の様な建物の前に到着した。そして、ラピスはその酒場の中へと連れていかれた。
酒場には何人もの神がいた。皆、ラピスのことを凝視している。
その内の数名はラピスを見て驚愕していた。――訳が分からない。
そんな中、ラピスを連れ込んだ張本人が声を上げた。
「もう何人かは分かってると思うが、こいつはとんでもねぇ量の神気を持っている! ――こいつがいたら間違いなく、『神政』をぶっ潰せると俺は確信した!」
フードを被った神がそう叫ぶと、酒場にいる神がざわざわし始めた。
――何が、どうなっているのだ。
『神政』というのは、スミレが勤めている『魂決所』の運営元だったはずだ。しかし、実際に『神政』が何なのかは分からない。
“魂を管理する”と言う重要な役目を持つ機関を運営している点から、国の様なものが関わってくることは分かる。その国こそが『神政』なのだろうか。
そんなことを考えていると、フードを被った神がラピスに向かって言った。
「お兄さん――あんたに、二つの選択肢を用意した」
「選択肢……? ていうか、本当にお前誰だよ!!」
そうラピスが叫ぶと、フードの被った神はと笑い、自分の頭に手を置いた。
そのままフードを掴み、後方へと一気に下げる。
――翠色の目が、ラピスを見つめた。
フードを被っていた神は、茶髪で翠色の双眼を持っている、整った顔立ちの神だった。 それから茶髪の神は、静かに言った。
「俺は――『王権強奪団』団長のシラーだ」
「王権、強奪?」
その名前から、余りいい団体ではなさそうなのは確かだ。そんな組織がなぜ、ラピスを連れ込んだのか。
様々な疑問がラピスの頭を駆ける中、シラーは薄い笑みを浮かべた。
「色々思うことはあるだろう。……だが、お兄さんの選択次第では、その全てを話すことも可能だ」
「俺の選択次第……」
それからシラーは左手に拳を作り、強く握り締めた。そして体制を低くし、ラピスの方へと構えを取った。
ラピスは悟った。
この拳が自分に当たれば、命はない――と。
「一つ目の選択肢は、この『王権強奪団』に入団すること。二つ目の選択肢は――俺にぶち殺されることだ」
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