第2章

俺と義妹、デジャヴ?






「起きて、御主人様? 起きてください」

「ん、涼香……?」




 ――翌朝。

 俺の身体を優しく揺する義妹の声で、穏やかな目覚めを迎えた。と、思ったのだけど。ちょっと待ってほしい。いま、義妹はなんと言った?



「ちょっと待て、涼香。……ちょっと待って」

「あ、起きましたね。でも、どうして目を瞑ったままなのですか?」

「なんていうか、朝に見るには刺激が強い光景がありそうだから」

「そう、なのですか?」



 俺は最大限の警戒をもって、壁際に逃げる。

 義妹はさすがに追いかけてこないのか、気配はベッドの前あたりで止まっていた。俺はその間に深呼吸を繰り返して、衝撃に備える。

 そしてゆっくり目を開くと、そこには――。




「御主人様。……大丈夫ですか?」

「ごふ……!」




 清楚なメイド衣装を身にまとった義妹の姿が、そこにあった。

 俺は思わず、潰れた声を発して倒れる。

 すると、慌てたのは涼香だった。



「御主人様、大丈夫……って、あう!?」

「おうふ!?」



 彼女はベッドの端に足をぶつけて、俺の上に倒れ込んできた!

 なんだ、この状況は! 目の前に可愛らしい義妹の姿が転がっているんですが!?



「ご、ごごご、ごめんなさい!」

「落ち着け涼香! ちょっと、この体勢は危ないって!!」

「……あう!?」



 そんな中で、涼香が慌てて立ち上がろうとする。

 すると俺の足と絡んで、何がなにやら分からない状況になった。そして、




「はう、御主人様……?」

「だから、言っただろ」




 俺は若干メイド服がはだけた義妹の上に、馬乗りになってしまう。

 彼女もどこか興奮しているらしく、呼吸が熱を持ち荒くなっていた。身体を密着させているわけでもないのに、互いの心臓の音が聞こえるような感覚。

 だが、ここで理性を働かせるのが『良い兄』というやつだ。

 そんな鋼の意思が、俺を踏み止まらせる。



「よいしょ、ほら。……大丈夫か?」

「え、う……うん」



 ベッドに腰かけ直して、俺は義妹に手を差し伸べた。

 すると彼女は、ほんの少しうつむき加減にこちらの手を取る。



「むぅ……」

「どうした、涼香?」



 だが、なにやら涼香の表情が優れなかった。

 どうしたのかと思い、訊ねる。すると義妹は、唇を尖らせて……。





「義兄さん、甲斐性なしです」

「……えぇ?」





 ……なぜか、そんな一言。

 俺は訳も分からず、首を傾げる。



 休日の朝は、そんな風に始まったのだった。




 

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