第24話 夕張故郷公演コンサート 矢羽美咲

 夕張の会場も超満員となった。母は車椅子に乗って介護人と一緒に特別席に座っている。いまこの街は夕張と云えば夕張メロン、その次が矢羽美咲だと街の人は言っているそうだ。有難い事だ。兄が亡くなった時、葬儀会場に私は喪主として立っていた。この時は落ちぶれたアイドルのなれの果てと影口を叩かれたのだ。それがどうだ。百八十度変わって英雄扱いだ。改めて世の中の怖さも知った。過去はもういい、私はプロの歌手として生きて行く。

幕が開くと今までにない温かく熱い拍手で迎えられた。大勢の友人も駆けつけてくれている。だが最愛の兄と父の写真を持った母、黒い帯に包まれ笑顔で写真に収まっている。母の膝の上で私を見ている。思わず私は涙が零れそうになった。

 しかし私はプロ歌手、感情を押さえ込み静かに唄いだした。誰もが感動してくれた。

 私はアイドルではない。歌を聴かせてお金を取るプロの歌手だ。最後の曲を歌え終わると誰が計画したのか司会者が、母の名前を読み上げ介護人と共に車椅子に乗り舞台に上がった。更に司会者は続けた。

「皆さん、我が夕張が生んだ大スター矢羽美咲さんのお母さんです。盛大な拍手をお贈りください。そしてコンサートの売上げは総て市に寄付される事になりました。その目録がいまお母さんの手から市役所関係者に手渡されます」

 会場は割れるような拍手に変わった。こうして私は夢の夕張公演を終えた。

 公演を終えて楽屋に居る私の元へ係員に案内されて母がてくれた。

 「美咲おめでとう。沢山のお客さんが美咲の歌を聴きにくれたよ。良かったね」

 「本当に有難い事です。私も報われた気がます。でもね、私だけの力じゃなく作曲家

佐原先生と息子さん事務所のおかげだよ。先生が居なかった今の私いないのよ」

「そうか良い方に恵まれたね。その先生とお会いして励まされたよ。本当に優しく良い先生と思うよ」

「母さん体調どう。それと紅白歌合戦を見に来てくれる」

「行きたいけど、多分無理だと思うテレビで応援しているよ」


つづく


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