第23話 高層マンションに住居を移した

 此処まで上り詰めれば名実共に一流歌手としての仲間入りが出来た。それと共に収入も桁違いに入るようになった。その金で母を高級老人ホームに入れられた。そして私は高層マンションに住居を移した。以前は狭いワンルームで三万円の安アパート。それがどうだ。都会のど真ん中の高層マンション、ここから見る夜景は美しい。こんな風景を毎日見られるのだから心から癒される。改めて思う苦労は報われたと。

 女性マネージャーの理沙が車で送り迎えをしてくれる。この専属マネージャーは私より若いが機転が利くし、私の心まで癒してくれる。親友のような存在となった。出来れば母を呼んで一緒に暮らしたいが、故郷から離れたくないという。


 あのアイドルの頃と同じように忙しくなった。しかしまた体調を崩して入院では元も子もなくなる。長期入院して出てきた頃には忘れ去られる、あの恐怖がトラウマとして甦る。

 そこは佐原先生の息子だ。キチンと健康管理を考えたスケジュールを考えてくれる。更に月一回の健康診断を行う徹底ぶりだ。

 夢の舞台、紅白歌合戦。母をその席に座らせたかった。出来るなら父と兄の遺影を持って私の歌を聴いて欲しかった。だが最近は母も年のせいか体調が悪いらしい。

 母に逢いに行きたいが芸能人の宿命、ギッシリ詰まったスケジュールに穴を空ける訳には行かない。今や大物歌手と言われる存在までに這い上がった。これも総て佐原先生とその息子さんが経営するプロダクションのお蔭だ。感謝しても感謝し切れない。

 今や父のような存在の佐原先生であった。こうして私は念願の故郷公演が実現される事になった。

 矢羽美咲夕張チャリティーコンサートと題して、その収益金を市へ寄付する為のものだ。これで少しは故郷に恩返しが出来ただろうか。夕張頑張れ、私も頑張るから。夕張市は最大十一万人以上の街だった。そして夕張炭鉱が閉山してから人口は減る一方、ついに平成十九年の市の経済破綻、市の人口が一万人を割った。町でさえ一万人以上あるのに。それでも夕張市となっているのが不思議だ。でも私も家族も夕張で生まれ育った。こんな私でも少しでも役に立ちたい。その夕張も間もなく冬を迎える十一月末のことだ。そして一ヵ月後、夢にも思わなかった紅白歌合戦の出場が控えている。

 

つづく

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