第22話 最優秀歌唱賞と紅白歌合戦出場も決まる

  アイドル時代になかった私個人のリサイタルショーも実現した。マネージャーの理沙は何処の公演にさえしても、細かい事も気遣ってくれる。大きなバックの中には冷たい飲み物や小腹が空いた時のおやつまで用意してある。服装にも気を使う、彼女の選ぶものは私に良く似合う。本当に頼もしいマネージャーだ。

 短いスカートと可愛さだけで売れた頃とは違い、ファンは私の歌を聴きに来てくれた。新しい歌謡曲をイメージする為に。私はドレスで通した。これで四曲目の新曲も、まずまずの売れ行きとなった。歌が上手い。それこそプロ歌手だ。私は近づきつつある。その二年後、私は二十八歳にして日本レコード大賞、最優秀歌唱賞に輝いた。

 思えば歌の下手なアイドル歌手として、世間から嘲笑われるように消された歌手。今ここに実力でのし上った。誰もが認める歌の上手い歌手と評された。

 「美咲さん本当におめでとうございます。マネージャーを務めてこれ以上の幸せはありません」

 「理沙ちゃん、貴女がいるからよ。どれだけ私は貴女に癒されたか、私こそありがとう」

 二人は美咲さんと、理沙ちゃんと言う風に呼ばれるようになった。


 しかし未だに(微笑むだけ)以上ヒット曲がない。いくら売れているとは言えこれでは一発屋と言われても仕方がない。それは佐原先生も同じ事だ。たまたま売れだけでは信用がなくなる。佐原先生も私以上に必死である。これでこそ本物のプロ歌手。そして今年の紅白歌合戦に出場が決まった。

 佐原先生は紅白歌合戦の前に新曲決めたいと連日寝るも惜しんで作曲に励んだ。

 それから半年後ついに完成した。それは(母のメロディー)と決めた。連日のようにテレビ出演が続くが、そこでついに新曲を唄う事になった。

「こんばんは皆様、本日我が局で最初に新曲発表してくれることになりました。これは本当に素晴らしい曲ですよ。では皆様お聞きください。日本全国の母に届ける歌。新曲母のメロディーです」

 放送されると、いきなり話題にった。これなら紅白歌合戦でも勝負出来る。 

 紅白歌合戦、日本で一番注目を浴びる歴史と格式の高い番組だ。私は真っ先に母に電話をした。母は電話の向こうで嗚咽を漏らして泣いていた。今度こそ私は名実共に歌手として認められる。プロ歌手として最高の勲章だ。テレビ番組出演が増えると、矢羽美咲リサイタルショーも超満員となった。

 

つづく

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