第9話 アイドルになって二年、疲れて倒れる

流石にスカウトの目が確かだったのだろう。私を七百万で仕入れ早くも何百倍何千倍もの利益を得ているだろう。私はそれに対して、もっと給料を上げてと言える立場にない。そういう契約なのだから。ただ私が喜べるのは歌手として世間に知られた事だ。

 やはり私は唄う人形なのか、七百万で買われた人形は着せ替え衣装を着せられてステージで唄うのだ。感情を持たない人形……いや持たせて貰えない操り人形。正直、私の歌はなぜヒットしたのか分かるはずもない。全てがプロダクションで決めて、私は言われた通りテレビに出て舞台に立って唄う。


それが二年以上も続いた。流石に私も疲労が蓄積され二度ほどステージ倒れた事がある。それでも病院で点滴を打つ夕方にはまたステージ立っていた。疲れたから休みたいなど論外。そんな事でも言おうものならこっぴどく叱られる。七百万先払いしているんだから文を句言うなと言われる。だから無理して働いた。

しかしついに私は過労で倒れてしまった。思った以上に病状は重く、半年の入院生活が続く。最初はマネージャーなど付きっきりで側に居てくれたが、三ヶ月が過ぎた頃から事務所の人は滅多に顔を出さなくなった。やっと私が退院出来たのだが事務所の対応は冷やかなものだった。半年のブランクは余りにも大きく、ポッと出のアイドルは忘れ去られていた。 事務所から見れば商品価値の無い、ただの厄介者になっていた。


つづく

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