第10話 プロダクションを首になる。

 ここは私の所属する大手の芸能プロダクション。退院した私は事務所に顔を出した。 大勢の人が電話で話している。またパソコンの画面と格闘している者、商談中の人達など、だが誰もが私に無関心を装う。以前には無かった待遇に違和感が漂う。今まで宝石を扱うように接してくれたのに、いったいこの様変わりはなんなのだ。それから一週間過ぎても仕事がない。


 「どうして私に仕事を与えてくれないのですか」

 「仕事したくても、オファーが来ないんだから仕方がないだろう」

 「そんな! 半年前はあんなに忙しかったのに私の歌を聴きたい人が沢山いるでしょ」

 「自惚れるんじゃないよ!! お前は本当に歌が上手いと思っていたのか? あれは我々スタッフが必死で作りあげたアイドル人形だったんだよ。一度人気が落ちたらアイドルは お仕舞なんだよ。それが芸能界だ」

 「じゃあ私は歌が上手くて、人気が出たんじゃないと言うのですか」

 するとマネージャーは雑誌をポンと事務机に置いた。そこには私の記事が載っていた。


 (消えたアイドル矢羽美咲。作られたアイドル矢羽美咲は、元々歌は下手というのがもっぱらの噂になっていたが、長い入院生活で彼女は忘れ去られた。同事務所では矢羽美咲に代わり、今売り出し中の斉藤リナに期待を掛けている)

 私には衝撃が大きすぎた。歌が下手な元アイドル歌手の成れの果て。それが今の自分なのだと悟った。二ヵ月後、私はこの芸能プロダクションから放り出された。

 この芸能プロダクションも元は取ったからだと言う事だろう。確かに七百万もの契約金を貰ったが数十億円以上の利益をもたらした筈だ。しかし私はただの商品、何も言えない。


つづく

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