第十五話 ふたりの関係とは?

「で、どうだったの?」


 僕が席に座ると田中さんが僕の隣の席に座って来た。


「冬月さんと一緒に登校したんだろ。本人に直接聞けばいいじゃん」


「それが有紗、何にも話してくれないの」


「へえ、冬月さんと田中さん仲がいいのに。なぜだろう」


 後ろに座る慎吾が話に割り込んでくる。


「知らないわよ。佐藤。昨日何か聞いてないの」


 僕は有紗の方に目を向けると心配そうに僕の方を見ていた。


「そうだなぁ、正門前まで来たら巻かれたらしくて、見つからなかったんだよ」


 今の状況を田中さんに説明することは簡単だが、僕がふたりの関係を公にすることは良いことではないと思った。


「無能だねえ、まっ期待はしてなかったけどもね」


 田中さんはそれだけ言うと有紗の方に行ってしまう。


「有紗、部活休む理由ちゃんと説明してよね」


「ちょっと、駄目だって、あはははっ」


 田中さんは有紗に抱きつき、くすぐる。有紗は堪らなくなって逃げ出した。いいなぁ、あんな風に有紗とイチャイチャできたらなぁ、と思ってると後ろから声がした。


「いいよなぁ」


「お前も冬月さんの可愛さに気づいたのか?」


「いやぁ、冬月さんじゃなくて田中さん」


「えっ?」


「俺もくすぐられてみてえよなぁ」


 思い出したが、こいつは真性のマゾだった。こいつの感覚は、理解が及ばないと今更ながら気づいた。


 太一の方を見ると昨日の不満がありありと顔に出ていた。怒りの矛先はきっと僕に来てるのだろうが……。さすがにプライドがあるのか、昨日の文句を僕に言いにくることはないようだ。



――――――



「おぃ、みんな座れ座れ、授業始めるぞ」


「起立、礼、着席」


 先生が来て授業が始まる。


 授業では有紗に言われたことに気をつけて、板書した。先生の強調した箇所にはピンクのマーカー。ここはポイントと思われる箇所には青。あまり重要でないところは黄色の線を引く。先生の言葉も重要なら青のボールペンで補足した。


 この作業を意識的にやると頭に残りやすい。先生の一言一句聞き逃さないように気をつけた。ここで手を抜くと有紗に無駄な負担をかけてしまう。


 集中をしていると時間の経つのが驚くほど早く、気がつくと昼休みになっていた。


「行ってくるね」


 隣に座る田中さんに声をかけて、教室を出て行ってしまう有紗。


 太一も有紗の後を追うように出て行ってしまった。


「何なの、もしかして本当に有紗と太一って付き合ってるの」


 田中さんは昨日と同じくふたりの出て行った方向を見ながら、昨日よりも遥かに強く睨んでいた。


「ほら、ふたり、屋上に行くよ」


 田中さんが昨日と同じく僕の席にやってきて、僕と慎吾は、屋上に上がる。今日も僕と田中さんは弁当。慎吾は焼きそばパンとミルクコーヒーだった。


「朝倉だっけ?」


「うわっ、田中さん僕のこと覚えてくれたんですね」


「名前くらい覚えないとやりにくいでしょ」


「ありがとうございます」


 慎吾が思い切り頭を下げた。


「いいよ、いいよ。それよかさ。朝倉って毎日菓子パンなの?」


「今日は焼きそばパンですよ」


「いやさ、そうじゃなくてさ。栄養偏るんじゃない。サッカーやってるんだし、ちゃんと食べないとさ」


「そうなんですけどね。うち母親も仕事してるから弁当なんて頼めなくてね。購買で弁当買えとは言われてるんですけどね」


「購買の弁当だって、栄養なんてないわよ」


 田中さんの顔が僅かに赤くなってるような気がするのは気のせいか。


「あのさ、明日から弁当作ろうか?」


「えっ、誰が?」


「わたしがよ。勘違いしないでよ。弁当一食作るのも、二食作るのもたいして変わらないからさ」


 目の前の慎吾を見ると放心状態だった。話の内容は理解してるが、あまりにも非現実な提案に頭がついて行ってないのだろう。それにしても、田中さんも優しいとこあるじゃないか。


「えええええっ」


 数分後、慎吾の大きな声が響き渡る。こいつもそこそこイケメンなんだから、こんな展開あってもいいだろう。俺は少し慎吾が羨ましく感じた。


「弁当代はもらうよ」


「もちろん、いくらですか。500円までなら大丈夫ですよ」


「そんなにいらないわよ。そうね材料代の100円でいいよ」


 きっとこれは、田中さんなりの照れ隠しだ。もしかしたら田中さんは慎吾のことが好きなのかも。


「まあ、それは良いとして本題行くよ」


 田中さんは姿勢を正して、僕と慎吾を見た。


「やっぱり我慢の限界。太一に聞くわ」


 弁当を口に運びながら田中さんは僕と慎吾にそう伝える。ここで無理に止めたら、何か知っているのかと問い詰められそうだ。


 僕が言うのは駄目だろうが、田中さんが言う分には仕方がないとも言える。


 僕もふたりの関係は相当気になっていた。


 中間テストで30番以内を取るのは当然だが、今の現状は知っておきたい。


「さすが、田中さん。勇気ありますねぇ」


 隣の慎吾がパンをかじりつきながら、嬉しそうに田中さんを見た。


 僕は弁当を食べ終わり、田中さんと慎吾を眺めていた。結構お似合いのカップルじゃないか、と思う。


 きっと有紗と太一も周りから見たらお似合いのカップルに見えるのだろう。太一が声をかけても、僕と違って周りからの反発した視線を感じない。きっと、みんなお似合いだと思ってるのだ。


―――――――


 弁当を食べて、教室に戻ると有紗が席に戻っていた。太一が隣にいて一方的に話しかけている。有紗はいつものように浮かない顔をしていた。


「ちょっといい!」


 田中さんは有紗と太一に割って入るように後ろの空いてる席に座った。


「久美ぃ……」


 田中さんの表情を見た有紗は、言われることが分かったのか、節目がちに田中さんを見る。その顔は言わないでと言ってるように見えた。


「有紗は黙ってていい、わたしは近藤くんに話がある」


「なんだよ」


 隣に座る太一が明らかに苛立った表情で、田中さんを見た。


「近藤は、有紗と付き合ってるの?」


 開口一番に言ってしまえるところはさすがだ。


「久美ぃ、ちょっとぉ」


 泣きそうな表情で有紗は田中さんを見た。


「そうだけど、それがどうした?」


 当たり前のように田中さんを見る太一。


「はぁっ、何よそれ、どう言うことなのよ」


「聞かれたから答えただけだよ。俺と有紗は交際してる、それだけだ」


 太一はそれだけ言うと鬱陶しそうに席を立ち、教室を出て行った。


 まじか……。


 予想していたことだ。ただ、有紗の表情から、そうじゃないことを期待していた。


 田中さんは有紗を問い詰めていた。凄く罰が悪そうに顔を伏せる有紗。


 先生が来るまでの10分程度の時間、有紗はふたりの関係について一言も語ることはなかった。


――――


ふたりの間に何があるのでしょう。

付き合ってるのならば、もっと楽しそうにするはずです。


有紗が言い返せないこと、30番以内、全てが繋がる理由がありそうです。


読んでいただきありがとうございます。

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