第14話.やっぱ双剣でしょ?

ハヤトはロベルトと共に王宮騎士団に入ることを決め、それをロザリア報告した。ロザリアは最初猛反対したが、何度も何度も説得していくうちに渋々了承してくれた。騎士団の入団テスト自体はあらかじめしてやったストーンの訓練のおかげで合格することができたが、入隊後の訓練はとてつ厳しいものであった。入団前にストーンに教えてもらってた訓練の時には鎧をつけることなどなかったが実際の訓練時は鎧をつけてしなければならない。ただでさえ辛い訓練なのに、その上この鎧がとんでもなく重い。さすがのロベルトも重い鎧をつけての訓練はこたえるらしく、訓練終了時にはいつもハヤトと一緒に倒れ込んでいる。

「やべぇ、まじ死ぬ…」

「間違いない。俺はそれなりに鍛えていたつもりだが、鎧をつけてやると、これが全然違う。」

「それな…」

2人して倒れこむ、ハヤトとロベルトその姿見て喝を入れるストーン。

「こら、ハヤトにロベルト、そんなとこに寝転がってないで早く立ち上がれ!お前らは誇り高き王宮騎士団なんだ。そんなへばってる姿やすやすと人に見せるもんじゃない!」

「はい、すいませんでした。」

それにすかさず答えるハヤト達、ストーンは家にいる時とは全然違う。家にいる時は無口で存在感などないが、王宮内ではとても存在感があり、何よりよく喋る。訓練時には鼓舞を取り団員達の気持ちを高ぶせ、時には喝を入れる。しかもただ喝を入れるだけではなく、さりげなく団員達の体調の気遣いまでする。まだ王宮騎士団になって、そんなに日数は経っていないが、ストーンがどれだけ部下たちに好かれているのかが彼ら達の態度でわかる。


「ねぇ?ストーン?」

「んっ?なんだいハヤト?」

ハヤトの問いに対し、そう答えるロザリア。

「騎士団で訓練を受けているうち分かったんだけど、なんで、重装備の鎧をつけてる人と軽めの鎧をつけてる人がいるの?」

「えっそうなのかい?」

「うん。ハリーみたいに軽装備の人もいれば、ストーンやケビンのように重装備の人もいる。一体どんな違いがあるんだい。」

「少年はハリーが、何が得意だったか覚えているかい?」

「ハリーは弓が得意だった。」

「そうだ。ハリーは後方支援がメインになるんだ。だから、我々より彼らは動き回ることを前提にされている。」

「だからなのか…」

「そういうことだ。彼らは隙を突くために動き回らなければならない、でも我々のように重い鎧を来ていると素早く動くことができない。」

その他にもストーンは重い鎧のメリットやデメリットなどを教えてくれた。全身を覆う鎧は防具面を高くする反面、どうしても動きが鈍くなる。その上、動く時にガチャガチャという音がしてしまう為、後方支援で動き回る部隊にとってはその音で相手に居場所がバレてしまって、デメリットになってしまう。だから後方支援の者達は致命傷にならないように楔帷子や、胸当てなどをしているの事等を教えてくれた。

「へぇ~…そうなんだ…」

「人には不向き不向きがあるからな。少年もどの部隊に所属するかで装備が変わるようになるから覚えておくといい。」

「えっ、今の装備で終わりじゃないの?」

「何を言ってるんだ。今の装備は新人用の訓練装備だ。本物の装備はもっと重いぞ」

珍しく笑いながら答えるストーン。今ただでさえ重いのに、これ以上重い鎧を着なければいけないことを考えると、ハヤトはとても暗い気持ちになった…


その日の夜、ストーンとロザリアは話し合っていた。

「ねえ、あんた?」

「んっ、どうした?」

「ハヤトに何時あの事話してくれるんだい?」

「もう少しだけ待ってくれないか、せめて騎士団に慣れるまでは…」


「なぁ、ロベルト?」

「どうした、ハヤト?」

「昨日ストーンから聞いたんだけど、どうやら俺たちはまだ王宮騎士団に入ってただけでこれから先の所属はまだ決まってないらしいんだ。」

「えっ、どういうことだ?」

「いや、俺も詳しくはよく分からないんだけど、王宮騎士団内にも部隊というものがあって、その部隊によって装備などが変わるらしいんだ。」

「ふーん、役割によって変わるみたいな感じか?」

「そうそう、そう。人によって目指す場所は違うから、それによって、所属も変わるみたい。」

「ふ~ん…お前はどんな感じになりたいんだ?」

「どんな感じって言われてもなぁ、ロベルトはどんなの?」

「俺か?俺は皆を守りながら戦える騎士になりたいな」

「皆を守りながら戦う?」

「そうだ。俺はぶきっちょだからあんまり色々なことはできない。だから前に進む仲間をサポートしながら戦う、そんな感じになりたい。」

「サポートか…だったら、オレはロベルトのサポートを受けて前に出て戦うような騎士になりたい。」

「なんだよ。それ」

笑いながら答えるロベルト。それに対し、ハヤトが続きを話し出す。

「俺はさ、両手に剣を持ってズバズバと切り倒すような剣士になりたいんだ。」

「なんだ?ちゃんとあるんじゃないか目指すもの。」

「うん。紙芝居の話の剣士なんだけどそれに憧れてて、そんな人間になりたいと思ってたんだ」

「そっか。じゃあ俺が守ってお前が戦う、いいコンビじゃないか」

「そうだな、これからもよろしく。」

そう話ながら訓練に向かう2人。その姿はとても楽しそうでだった。


 

王宮騎士団に入って数ヶ月新人用の鎧を着ての訓練にも随分慣れてきた。そんなこともあり、ハヤトとロベルトの2人にも所属部隊の話をする事となった。

「急に呼び出してすまない。2人の訓練具合を見て、そろそろ正式に所属部隊を決めた方がいいんじゃないかなと思い声をかけさせてもらった。」

「所属部隊ですか?」

ストーンの問いに、ロベルトがそう答える。

「そうだ。ハヤトからある程度は聞いていると思うが、王宮騎士団にはいくつかの部隊がある。」

そう話ながらストーンは2人に今1度部隊の説明をし始めた。動き回りながら敵の隙をつき味方のサポートする後方支援隊、前に進む味方のを守りながら進む守備隊。そして、我が身を犠牲にしながらも敵を殲滅する特攻隊。各部隊のあり方、鍵になる行動を説明しながら2人達に聞かせる。

「今の話を聞いて、お2人はどの部隊に興味がある?」

「私は守備隊でお願いします。」

「俺は特攻隊で!」

2人とも以前話していた部隊を希望した。ハヤトが特攻隊を希望した時、僅かながらストーンの顔が濁った。しかし、それも一瞬の事で何事も無かったかのようにストーンはまた話を続けた。

「よし、では2人とも、各部隊の隊員達に改めて自己紹介しに行こう。」

そう言ってストーンは2人を連れだした。先に守備隊の方に向かいロベルト守備隊のメンバーに紹介する。守備隊のメンバーはロベルトの事を最初から目を付けていたらしく、ロベルトの加入を聞いてとても喜んでいた。それもそうだろう、体の大きいロベルトはまさに守備隊を向きの体格と言える。ロベルトと別れた後、ストーンと2人で特攻部隊宿舎に向かう。

「なぁ少年?」

「なんだい、ストーン?」

王宮騎士団のメンバーの見てる前では敬語を喋るハヤトだがストーンがいつも通り話しかけてくるので、同じように話し返す。

「いや、なんというか…」

「ロザリオおばちゃんのことかい?」

「…」

「大丈夫、ロザリアおばちゃんは俺が説得するよ。ロザリアおばちゃんだって一生懸命説得すればわかってくれるよ。」

言葉を濁すストーンに対し、ハヤトはその濁しをロザリアが反対することだと思いそう返答する。

「むぅ…」

「大丈夫だって、ストーンには迷惑かけないから俺に任せて!」

特攻隊宿舎につき自己紹介をし始めるハヤト。弓に興味を持っていたハヤトの事を誰もが後方支援部隊に興味を示すと思っていたのだろう。特攻部隊の面々は驚き目を丸くしていた。

「まさかハヤトが特攻部隊に来るなんて」

「ケビンさん、これからよろしくお願いします。」

ハヤトが礼儀正しく頭を下げる。昔のハヤトを知っているケビンからすると礼儀正しく頭を下げるハヤトの成長を見て懐かしくもあり嬉しくもあった。ストーンに関しては特攻宿舎に来てから先程のような態度ではなく、いつもの騎士団長の顔に戻っていた。

「して、少年はどのような騎士を目指したいんだい?」

「えっ、どのような騎士?って特攻して敵を倒す騎士さ。」

「いや、説明が悪かったな、剣術の話のことだ。特攻部隊である以上、敵を殲滅することに命をかけ、特攻することになるのだが、その時の剣術のスタイルの事だ。」

「剣術?」

「あぁ、特攻部隊だから大きな盾を持つことなどはないが、小さな盾を持つ片手剣スタイル、あとは盾の代わりに、小さい剣を持つ双剣スタイル、そして、私のように全ての者を薙ぎ払う大剣スタイル、主な感じで言えば大体この三つに分かれる。」

「ああ、それなら双剣がいい。」

「双剣?」

少なからず自分に憧れて、特攻部隊に来たと思っていたストーンは拍子抜けをした。

「俺、昔聞いた紙芝居の剣士に憧れてた時期があるんだよ。だから、どうせ剣術をやるのであれば、その時聞いた剣士のように双剣使いになりたい。」

「そうか…」

ストーンは少し寂しい気持ちもあったが、ハヤトの輝く顔を見てそんな気持ちは薄れていった。

「では、ストーン様もしよろしければ私が…」

そんな中、ケビンがストーンに声をかける。特攻部隊でも双剣使いは稀で、しかもケビンはこの特攻隊で一番の双肩使いである。

「ケビンさん、双剣使いなの?」

「そうだよハヤト。」

ケビンは隼人のことも知っている、その辺を踏まえてもベストなチョイスだと言える。

「よし、ではケビン、君に任せよう。」

「はい、ストーン様おまかせください。」

ケビンとの修行が始まった。ケビンはまず双剣の基本を教えてくれた。双剣の場合は利き手でない方の手で持つ剣を短めにし、その件で相手の剣を捌きつつ攻撃をするスタイルが基本だという。だからといって、左手の剣は防御用というわけでもなく、状況に応じては突き等の威嚇攻撃をしながらアクティブで攻め続ける。左と右で違う作業を同時にしなきゃいけない形になる為に、かなりの器用さと瞬間的な判断力が必要になるらしい。ハヤトのサイズに合う剣を見つけてもらい、早速基本動作を練習する。試しに素振りをしてみるが初めて持つ剣はとても重く、持つことだけで精一杯で上手く振ることもできない。

「まぁ、ハヤトの場合は普通の人よりかなり若めで騎士団入ってるからかなりきついと思うけど、まずはそれに慣れることが大切。いざ、戦闘となった場合、その剣をずっと振り続けなきゃいけないんだから、まずはその重さに慣れ、自由自在に振れるようにならないとね。」

「はい!」

「いい返事だ。あの頃のハヤトと比べたら、ずいぶん大人になったんだね?」

「ケビンさん、勘弁してよ…」

ケビンにそう言われ恥ずかしそうに言い返すハヤト。昔の自分を知っているだけに、距離は近いのだが、その分だけ過去の自分を知られている恥ずかしさもある。

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