第15話.出せない答え

「んっ、ハヤトどうしたんだい?」

「いや、今日の訓練がきつくて…」

「頑張ってるんだね。どんな訓練をしているんだい?」

「今日は剣術の訓練をしたんだ。」

「うんうん。それで?…」

笑顔でハヤトの話を聞くロザリア、いつもの食卓の風景である。

「俺特攻隊に入って、今ケビンさんに剣を教えてもらってるんだけど、でもその剣がとても重くて腕がパンパンなんだよ…」

「特攻隊?あんた後方支援部隊じゃないのかい?」

一番危険度の高い特攻隊に所属したことに驚くロザリア、それと同時に反対をし始める。

「だめだよ。だめだめ、そんな部隊にあんたを入れられるわけないでしょ?」

「うん。でも、ロザリアおばちゃん。俺、どうせ王宮騎士団に入るならみんなの事を率先して守る特攻隊がいいんだ。」

「ダメだよ。あんた何言ってんだい。特攻隊って一番危険な部隊なんだよ?」

ロザリアの勢いが止まらない。予想以上の勢いにしどろもどろになるハヤト。それを見たストーンが助け船を出す。

「落ち着きなさいロザリア、確かに特攻隊は一番危険な部隊かもしれないが、特攻隊は唯一私と同じ部隊だ。何かあった時に私がすぐに駆け寄って守れる部隊でもあるんだ。」

「確かにそうかもしれないけど、あんたが確実に守れる保証なんかないじゃないか?」

「でも俺は特攻隊になるって決めたんだ。」

ロザリアの譲らない姿勢に気づけばハヤトまで熱くなり、口論はヒートアップする。

「少年、でもロザリアの心配もわかってくれ。」

「でも、だからって俺のやりたいことを止める理由なんかないだろ!」

「少年そのことについてなのだが…」

ストーンの重い表情にハヤトの言葉が止まる。

「実は前々から2人で話し合っていたのだが少年。君を私たちの子供に迎えたいと思っている。」

「えっ」

ストーンからの唐突の話に固まるハヤト。

「そうだいハヤト。あんたさえ良ければ、私達の本当の子供になってくれないかい?」

先程まであんなに熱くなっていたロザリアだが、ストーンが子供の話をしたとたんに、我を忘れたかのように子供の話に食いつき始めた。

「でも…俺、そんな事いきなり言われても…」

「なんだい?何がダメなんだい?あんたは私の事嫌いかい?」

「そんなことないよ。俺だってロザリアおばちゃんのこと大好きだし、母ちゃんの事ように思ってるよ。」

「だったらいいじゃないか?ほら、私のことお母ちゃんって言ってみな?」

「でも…でも…」

ロザリアは待ちに待った養子縁組の話がでた事もあり、自分の感情が抑えきれなくなりハヤトに詰め寄る。しかし、ロザリアのあまりの勢いに困惑するハヤト。そこ静かな声でストーンが制する。

「まぁロザリアも落ち着きなさい。少年にも考える時間が必要だ。」

「そうだね…あたしもなんか気持ちが焦っちゃってごめんなハヤト?」

「うぅん、いいんだ。ロザリアおばちゃん。ロザリオおばちゃんの気持ちはとっても嬉しいよ。」

「そぉかい?じゃあ、いい返事を期待して待ってるよ。」


先日の養子縁組の話が頭から離れず剣術の修行に身が入らないハヤト。そこを見透かされてか、ケビンからの喝が飛ぶ。

「こらハヤト、お前が今持ってるものは何だ!!」

「?…剣です。」

ケビンの突然の喝に驚きながらも、質問の意味がわからず戸惑うハヤト

「そうだ剣だ。お前は気づいていないのかもしれないが、それは刃物だ。敵だけではなく、扱いを間違えれば、自分も傷つくんだぞ!」

「はっ!!」

ケビンに言われたことを理解して、ハヤトは冷や汗をかいた。確かにこれは刃物である。敵と戦うための道具ではあるが、扱い方を間違えれば自らの命を落とすことも考えうる。

「ちゃんと理解したか?」

「はい、ケビンさんありがとうございます。」

「そうか…しかし、何を悩んでいたのだお前は?」

「実は…」

「いいから言ってみろ?俺では役不足かもしれんが、アドバイスできることもあるかもしれん。」

ケビンにそう促され先日のストーン達の話をし始めるハヤト。

「それは意外だ…」

「やはりケビンさんもそう思いますか?」

「いや、俺が言っているのはもうすでにお前はストーンさんの義理の息子だと思っていたからだ。」

「えっ?!」

「何だ、お前は気づいていないのか?傍から見たらどう見てもお前達は親子だぞ?」

「俺とストーンが…本当に?」

「あぁ、ロザリアさんなんかどう見たって息子を溺愛してるようにしか見えない。」

「えぇ~!」

自分たちが親子のように見えていたことを初めて知り、驚くハヤト、それを見て笑いながらケビンは話を続ける。

「しかし、お前それのどこを悩んでいるんだ?2人のこと嫌いなのか?」

「そんなことないよ…」

「じゃあ、いいじゃないか?他に悩むことなんか何もないだろ?」

「えっ、でもだって俺オーダーだよ?」

「なんだ、お前そんなこと気にしてるのか?先代国王ならいざ知らず、今の国王はそんなこと気にするような人間じゃないぞ?」

「う~ん…」

「まぁどうするかは、ハヤトが決めることだからこれ以上俺は何も言わないが、民族の差なんて正直大した事ではないぞ。」

ケビンとの話し合いも終わり修行を開始したが、やは身が入らない。これ以上やったところで意味もないし、身の危険に陥る可能性もあることも考慮されケビンに今日は終了だと伝えられる。1人特攻宿舎に向かって歩いてるハヤトの目に倒れ込んでるロベルトが目に入る。

「どうしたんだ、ロベルト!」

倒れているロベルトに駆け寄るハヤト

「おお…ハヤトか…」

「ロベルトお前どうしたんだ、大丈夫か?!」

「あぁ、大丈夫大丈夫、訓練がきつくてさ。朝から晩まで重い鎧と重い盾を持って走らされてるもんだから…」

「うへぇ~…あの装備で走らされてんのか?…」

「そうそう、イザって時のために体力つけとけって、たまったもんじゃねーよ…ハヤトこそどうした?浮かない顔して」

「いや、実はさ…」

ケビンに相談したからだろうか、それとも、兄と慕うロベルトだからだろうか、ケビンに相談するより、すんなりと今の状態を相談することができた。

「何だって!」

ロベルトはとても驚いたらしく、珍しく大声を上げている。

「やったじゃないか!」

「やったって何が?」

「バカだな、お前ストーンさんの養子だぞ?こんなに光栄なことはないだろ?」

「でも、だって俺オーダーだぜ?」

「ハァ~…出た出た民族差別野郎が…」

フゥ~とため息をつき小馬鹿にしたような感じで言い返すロベルト。実際にハヤトはロベルトの事をギャンサーということだけで差別していただけに、何も言えない。

「嘘だよ。バァ~カ」

ハヤトの凹んだ顔を見てロベルトが言う。

「でも俺は本当にロベルトのことを差別してたから…」

「わかったよ、悪かった。まさかそんなにヘコむとは思わなかったんだ。」

「うん…」

「でも、いくらオーダーだからってそんなに悩むことか?ストーンさんとロザリアさんがいいって言ってるんだろ?悩むことなんか何もないじゃないか?」

「そうなのかなぁ?」

「お前の悪い癖だぞ?普段は後先考えず行動するくせに、思い切っていけばいい場面では躊躇するとこ」

自分でも気づいている欠点をロベルトに指摘され、さらに落ち込むハヤト。

「んまぁ、悩むだけ悩め、そしたら、そのうち答えが出るさ」

「うん、わかったよ。ロベルトありがとう。」

「オゥ、どうするか決まったらちゃんと言えよ。」

「わかってる。」

 

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