第13話.共に

次の日、ハヤトは早速ロベルトに話をした。

「本当かハヤトありがとう!」

ロベルトには珍しくテンションの高い声だ

「何、どうしたのロベルト?」

いつもの取り巻き達がロベルトの周りに集まり始める。

「みんないい機会だから、ちょっと集まってくれ。」

「なになに?」

ロベルトから招集がかかり、辺りに散っていた仲間たちは皆ロベルトを中心に集まり始める。

「みんな実は俺はなりたいものがあって、それについてハヤトに相談していたんだ。」

「ロベルトのなりたいものって何?」

「なになに?何をやるのさ!」

あたりがザワザワし始める。

「実は俺は王宮騎士団に入ろうと思っている。そして、この国を守る騎士になりたいんだ。」

「マジでロベルト!」

「かっこいい!」

あたりの盛り上がりは最高潮に達している。皆がロベルトのことを褒め称え盛り上がりを見せている。

「ありがとう。だから俺はこの集まりから抜けようと思う。」

そう言葉を発した途端、周りの声を収まった。

「そっか。でもロベルトの夢だもんね、俺は応援するよ。」

「やだよ、ロベルトがいなくなっちゃったら僕達どうすればいいんだよ!」

「やめろ、ロベルトが夢に向かって向かおうとしてるんだ、みんなで祝福するのが友達だろ?」

「でもそれでロベルトに会えなくなんなら嫌だよ。」

辺り一面は先程と打って変わり、言い争いの声に包まれた。最年少のポルカに至っては泣き崩れている。

「みんな聞いてくれ。みんながそこまで俺のことを思ってくれているのはとても嬉しい。だが、俺はこのチャンスを逃したくないんだ。」

そう言いながら皆に話をするロベルト。ハヤトはロベルトのその姿見て、こういう人間が人の上に立つ人になるのだと思った。そして同時にそれが兄と慕うロベルトであることを心の底から誇りに思った。

「だから、みんなには申し訳ないが、俺は夢に向かって進もうと思う。」

ロベルトの話が終わった時、皆が泣いていた。しかし、誰もロベルトのことを反対する人間はいなかった。


「なぁ?」

「何?」

ロベルトをストーンに紹介しようと連れて行く時にロベルトがとあることを提案してきた。

「なぁ、もしよかったらだけど、お前も一緒に王宮騎士団に入らないか?」

「えっ俺が?」

そう言われるまでは考えたことはなかったが、ロベルトに言われて考えてみると確かにありな気がする。今の自分の復讐心がゼロになったかって言われると、正直自分自身ではわからない。だが少なくとも以前のような憎しみに囚われていることはない。そしてロベルトが自分のような人間を作りたくないと言った時、正直その考えに同調している自分もいたのだ。

「王宮騎士団か…」

「まぁ、無理にとは言わねぇけどよ。」

ハヤトはもう一度ストーンたちに相談してみようと思った。


「君がロベロト君だね。少年から話は聞いているよ。」

「はい、よろしくお願いします。」

ロベルトが礼儀正しく頭を下げる。傍から見てみれば、騎士団長と入団テストを受けに来た若者の当たり前の光景だが、ハヤトは衝撃が走った。あのロベルトが丁寧に頭を下げている。別にロベルトは皆に対して威張り散らしているわけではないが、普段はとても大人びていて落ち着いている。そのロベルトがこんなにハキハキと元気よく喋っている。それだけロベルトは本気なのだろう。

「うん、礼儀正しい子だね。騎士団員になるのであれば、その気持ちは捨てちゃいけないよ。我々の使命は王を守ることはもとより、この国の全国民を守ることになるんだからね。」

「はい!」

どうやらファーストコンタクトは大成功のようだ。ストーンは、それからロベルトに騎士団員とはどういうものかを説明し始めた。自分たちが日々やっていること、国の人々から食糧をいただけることがどれほど大切なことかを、そして、その国民達の気持ちをに報いるため、自分たちは命をかけて皆を守らなければいけないこと、ロベルトはそれら全ての話を真剣に聞いていた。そのロベルトの真剣な表情を見るうちに、ハヤトとも何時しかストーンの話を真剣に聞き始めた。よく考えればストーンが騎士団の心得を聞く機会など、めったにない。いい機会だからこの機会に、ストーンの事を知りたい。そうハヤトは思った。一通りの話が終わり今日はお開きという形になった。次回は騎士団員達が普段やっているトレーニング等を軽く教えてもらえることになる。ストーンにあった時点で騎士団員に入れると思っていたハヤトだかどうやら騎士団員になるためには、テストが必要らしく、そのテスト受ける前にそのテストに受かるための体作りをするということだ。ハヤトは心の中で面倒くさいと思っていたが、ロベルトは逆に感謝していた。

「えっ、何が嬉しいんだ?そのまま入団させてもらった方がありがたいじゃないか?」

「バカだなハヤト?もし今入団テストを受けた場合、もしかしたら受からない可能性があるじゃないか?お前の紹介だから受かる確率は高いかもしれない。でも、俺の目標はあくまで受かることではなく、騎士団員として立派な働きをすることだ。だから、ただ受かればいいわけではない。」

ロベルトの話を聞き自分とそんなに歳が離れているわけでもないのに、これだけ先のことを考えられるロベルトを心底すごいと思った。


「ねぇ、ストーンちょっと相談があるんだ?」

「どうしたのハヤト、最近はストーンにべったりじゃないのさ?」

ストーンに話しかけているはずなのだが、ロザリアが返答してくる。ハヤトに取ってはもう慣れたもんだ。ストーンに関しても何事も無かったかのようにしている。

「いや、こればっかりはストーンにしかお願いできないっていうか…」

「なになに、なんだい?言ってみな?」

「今日さストーンに会いに行く前にロベルトと喋ってたんだけど、俺も騎士団に入ってみようかなーってちょっと思ってるんだ。」

「何言ってるんだい、そんなのダメに決まってるだろ?そんな危ないことあんたはしなくていいんだよ!!」

有無も言わさず反対をするロザリア。

「なんだ、少年も騎士になりたいのか?」

「うん、元々剣士にはなりたいと思っていたんだけど、村があんなことになってからはその夢すら忘れてた。」

「そうか、ではなぜ忘れてたその夢を思い出したんだい?」

「いや、あんたもそんなこと聞かないで止めておくれよ。」

ストーンの質問にロザリアが口を出す。

「まぁ、ロザリオ落ち着きなさい。反対は後ででも出来る、まず少年の話を聞こう。」

「…話だけだよ?でも、私は認めないからね。」

ハヤトはロベルトの騎士になりたいっていう意気込みを見るうちに、どことなく惹かれていったことを伝えた。そして今日のロベルトに対して話すストーンの話を聞いて、その気持ちがますます深まった。だが、自分は以前復讐心に囚われ暴走したことがある。だから、こんな自分が騎士を目指してもいいものなのかの判断がつかなくて、ストーンの意見をききたいらしい。

「そうか…では、お前も明日から、ロベルトと一緒に訓練を受けてみたらどうだ?」

「あんた!」

「落ち着きなさいロザリア」

慌て止めに入るロザリアを制するストーン。

「騎士の訓練は半端ではない。常人であればすぐにねをあげる位過酷なものだ。もちろん2人に行ってもらう課題は私達の普段の訓練とは別物だ。しかし、素人の少年2人にとってはとても過酷なものになるであろう。」

「過酷…」

「そうだ少年。その過酷な訓練を受けてみて、それに耐え抜き、それでもまだ騎士団になりたいというのであれば、もう一度その時話をしようではないか、ロザリアもこれならどうだい?」

過酷という言葉を聞きた黙ってしまうハヤト。しかし、その目には力がみなぎっていた。その姿を見て、ロザリヤは小さく頷いた。

「よし、ではロザリアからの許可も出たから明日から少年もロベルトと一緒に訓練をやってみなさい。」

「うん。」

「少年、家の中では構わないが、外ではちゃんとしっかりとした礼儀を持って接しなさい。それが騎士団の心得の1つだ。」

「はい!」

「いい返事だ。」


次の日から訓練は始まった。筋トレ、ランニング、剣術の稽古、そして、乗馬等の様々な訓練をやった。どれも過酷なトレーニングだったが、ロベルトはそつなくこなしていた。しかし、乗馬に関してだけはどうしても長時間乗っているとお尻が痛くなるらしく、その話を聞いた時ハヤトは思わず笑ってしまった。どうやら最初に聞いた話は本当のようだ。1人ではなく2人でやっていたことが功を奏したのであろう。数ヶ月たった頃にはハヤトもなんだかんだでこの訓練をこなせるようになり、ストーンに合格点をもらえる用にはなった。


その日ストーンは王宮に来ていた。

「おや、兄さんどうしたんだい?」

「王、いくら2人きりとはいえ誰に見られるかはわかりません。なので、そういった言い方お控えください。」

うやむやしく頭を下げるストーン。

「まったく、兄さんは頭が固いな。そんなこと言わず2人っきりだから昔のように話そうよ。」

「ふぅ…わかったよ。ネメシス」

「で、今日は兄さんは何の用でこちらに?」

「実は少年が友達と一緒に騎士団に入ることになってな…」

「少年っていうと、こないだのハヤトくんのことかい?」

「あぁ…」

「でも、ハヤトくんが騎士団員になるからといって、わざわざ僕に報告にくる必要はないと思うんだけど…」

そう言いながらストーンの顔を見るネメシス。ネメシスは普段はボーとしていて何も考えてないように見えるが実は鋭い。騎士団員昇格の話以外に本音がある所をもう既に感じ取っているようだ。ストーンもそういうネメシスの性格を分かっている。だがこの件を実行してもいいものか、未だに答えが出ない状況である。

「それだけ言葉に詰まるってことは、それだけ重要なことなんだろ?2人っきりなんだから、もっと気軽に話してくれよ。」

ネメシスの質問に答えるかのようにゆっくりと話をし始めるストーン。

「実はロザリアと話したのだが、少年を正式な子供にしたいと思っている。もちろん少年の意思があればの話だが…」

「ハヤトくんを?いいじゃないか!」

「いいのか?俺は腐っても王族だ。その俺がオーダーの子供を持つなんて事を許してくれるのか?」

「何を言ってるんだよ兄さん。僕が民族差別を嫌ってる事を、兄さんが一番知っているだろ?王族の子供がオーダー?いいじゃないか!そういうことが続いて初めて民族差別が無くなるんだよ。」

ストーンは反対されると思っていた。ネメシスは民族差別を唱えてはいるが、国王である。このバルサニア王国は代々バルサの民が王族を継ぐことにより、歴史を作ってきた。それなのに、そのバルサの王族の血を持つ者の子供がオーダーなんてこればっかりは賛成して貰えないと思っていたし、何より自分自身がその第1人者になるとは思ってもみなかった。

「そうか、ネメシスありがとう。」

「ハヤトくんから答えをもらえたら、ぜひまた聞かせてくれよ兄さん。」

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