練兵に倣う灰滅-13-
そうしてティムさんの実践訓練を毎日繰り返し、時折ルカさんの座学で新しい知識を取り入れながら目紛るしい成長を遂げて二十日が経過した頃、僕の身の熟しは初期と比べれば極めて熟達したものへと変貌していた。シャトルランの247段階目も無事達成。最高難易度に設定した大怪我不可避の
それでも未だにティムさんとの鬼事で勝利を掴み取ることはできなかったけれど。
「これなら実戦に出ても大丈夫ですかね!?」
肩で息をしながらも訓練の結果に手応えを感じていた僕は、息巻いてティムさんとルカさんに尋ねる。二人は首を縦には振らなかったが、「ここまで急成長したハチにスペシャルプレゼントだ」とティムさんが重々しく告げる。その表情はプレゼントという割には真剣な面持ちで、嬉しいお知らせのはずなのにどこか
「今日から第二部隊との合同任務の決行日までの間、俺が鬼役の鬼事をしてもらう。何、ティムと鬼事をしてきたから実力は付いてるはずだ。今回はその延長線と思えばいい。もちろんその
未だ
彼はポケットに手を突っ込んだ。たったそれだけの動作にも拘らず若干身構えるのは、きっと気後れしているからだろう。攻撃や陽動の類でも噛ましてくるのかと思いきや、そこから出てきたのはただの一枚の銅貨。
「このコインを投げて床に落ちたら手合わせの始まり、いいな?」
コクリと頷くと、レンさんの手に収まっていたコインがピンと弾かれた。
ベンチに座ったルカさんとティムさんに一瞬目を遣れば、真っ直ぐ逸らすことなくこちらを見ている。「己が学んできたことを全て活用して生き残れ」と、暗に伝えているように思えたが、内心「こんな歴戦の猛者相手に無茶なことを」と苦々しく笑わざるを得ない。
コインが落ちる。キンと高い金属音が室内に鳴り響いたと瞬きした矢先、レンさんの姿は既にそこにはなかった。刹那の出来事。焦燥感に駆られながらも、「彼はどこへ行った?」と四方八方に視線を巡らせる。相場として、上方・下方・後方から攻め込むというのが因習だと戦術学の一つとして学んでいるため、そこを重点的に細心の注意を払うが、しかしレンさんの姿はどこにもない。完全に視界から外れてしまった――開戦序盤からの失策。だが後悔などしている暇はない。残影や足音、人の匂い、そして触れられた一瞬の掠る感覚などをフルに運用して、捕獲者から身を躱していかなければならないのだ。
深く考えている暇はない。何せ周囲には際限なく襲い来る
すると、辺り周辺からランダムに足音が響き渡った。軍靴が鳴らす音は、こちらに居場所を特定させないように前後左右から反響する。恐らくは足音を殺した歩行と、態と音を立てた歩行を不規則に織り交ぜているのだろう。それも、僕の視野が捉えることが難しいほどの高速移動を為しながらの技巧である。こんな技法を駆使してくるとは予想外であったが、いつ強襲されるかも分からない状況下で小難しいことを考えても一切無駄であろうことは何となく想像できた。
「訓練開始二十日目の初心者相手との鬼事でマルカート歩行で混乱を誘うだなんて、隊長も意地の悪い。完全にハチは動揺してしまっている。ここからの攻撃なんて予測が付かない状態でしょうに」
「俺達でさえ隊長との試合でマルカート歩行を使われちゃ、その位置特定にはかなり感覚を研ぎ澄ませなきゃならんってのに、初心者がどうこれを切り抜けるっていうんだ。隊長は本当にハチを育てる気があるのか?」
これまでの実践訓練は、『考えて動く』ことで困難な状況を切り抜けられていた。戦況を把握して
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