第8話「心の底から」

「ただいま」


 カイがウロをおんぶしつつ、なんとかログハウスに着くことが出来ました。カイは魔法使いですが、体力はある方なので子供一人抱えることくらいは平気なのです。


「あぁ、おかえ……ってなんでウロを背負っているんだ!? まさかとは思うが、オマエら……売人達に襲撃されたな!?」


「正解。それに加えてウロが熱を出したときた。あと売人達は文字通り俺が燃やしたから、しばらくこの森を脅かすことは無いだろう」


「そんなことより看病だ! オマエ、回復魔法は使えるか!?」


「あ、あぁ。使えるぞ」


「なら特別にウロの部屋に入ることを許可する。その都度回復魔法をかけてくれ。

 オレは風邪に効く木の実と薬草を採ってくる。日が暮れるまでには帰るから安心しろ」


「分かった。じゃあ約束のグータッチしようぜ」


「ぐー、たっち? なんだそれ?」


「人間の交流文化みたいなもんだよ。マブダチ……親しい友人に対してする通過儀礼と言ったところかな。

 ほら。手のひらをグーにして、お互いの手を突き合わせる」


「お互いの、手を……」


 最初は上手く飲み込めないルーでしたが、すぐに理解してカイとグータッチを交わしました。


「――あぁ、人間は気に食わないが、これは良い文化だ。親睦が深まった気がする」


「それは良かった。じゃあ、俺は君の友人になれたってことでいいのか?」


「……。そうなるな。だが! 自惚うぬぼれるなよ。もしウロに手を出したらお前の喉笛を掻っ切ってやる」


「相変わらず怖いなぁ君は。さすが狼と言うべきか……っと、ウロを部屋に運ばないとな」


「オレは森林へ向かう。くれぐれも! ウロに! 手を出すなよ!? じゃあな!」


 バタン、とドアが閉まる音がしたのを確認して、カイはウロの部屋を目指します。ウロの身体と吐息は小さく、少し不安になります。


「……よーし。ウロ、部屋に着いたぞ。今ベッドに寝かせるからな」


 返事はありません。呼吸はもちろん確認出来ます。ただ、高熱というものは人の意識を朦朧もうろうとさせるものです。


 優しくウロをベッドに寝かし、カイは部屋にある木造の椅子をベッドの近くに持ってきて座ります。


「心配しなくても俺は逃げないからな。なんたって俺は君の頼れる魔法使いなんだから。……性格が悪いのが難点だけど」


 カイは一呼吸吐いて、語りかけるように微笑みます。


「俺はさ、嬉しいんだ。第一印象は最悪だったけど、君に会えて良かったと心から思っている。俺は本当に悪い人間だからさ、このまま君達を支配してやろうとも考えていた。……その前に力尽きたけど、そこはご愛嬌。

 俺の本当の正体はまだ教えられないけど、まぁ追々分かるよ。その時に君は俺を嫌うことになるだろうけど」


 ウロは目覚めません。カイにとって、ウロがこの話を聞いていようが聞いてなかろうがどっちでもいいのです。

 だって、心底他人を好きになったのなんて初めてだから、どうでもいいのだと。

 彼はそう思うのです。

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森の夜明け、黎明の君。 吐 シロエ @siroe_sinon

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