第7話 「炎」

「良かっ、た……おれ、カイに怖がられるかと、思って、た」


 カイの胸の中でひとしきり泣いた後、涙を拭いながら言いました。そんなウロを愛おしく思ったのか、カイはウロの頭を撫でながら笑います。


「そんな訳無いだろ。何を隠そう、俺はウロのことが好きだからな。嫌いになるわけないんだわ」


「良かった……本当に、良かっ……」


「ウロ!? あつっ!」


 ウロは突然倒れかかり、カイは慌てて彼を抱き寄せます。もしやと思いウロの額に手を当てると、まとわりつく汗と熱に侵されて苦しそうにしています。


「おい見てみろよ。あれ、『森の民』じゃね? あの男は知んないけどさ」


「うお、マジか。本物の『森の民』じゃん。隣にいる奴は依頼人にどっか似てるような……」


「! 誰だ!」


 カイが振り向くと、そこには街の人間であろう二人の青年がいました。一人の背の高い男は手ぶらで、もう一人の背の低い男はリュックを背負っています。


「俺ら? 俺らはただの売人だよ。ちょっとお偉い人に依頼されて『森の民』を探しに来たの。悪いことは言わないからさ、そのガキ……俺達に渡してくんね?」


「誰が渡すか。この子は何者にも縛られず、自由に生きるべきだ」


「ひゅーっ、言うねぇ。あ、ていうか思い出した」


 背の低い男は何か思い出すと、もう一人の男は苛立つように尋ねます。


「あ? なんだよ」


「こいつ、依頼人のクウヤ様にどことなく似てね? ほら、クウヤ様と同じ黒髪に青い瞳」


「うわ、ホントだ。っていうことはこいつ、もしかしなくても」


「――なぜそこで愚弟ぐていの名が出る」


「ひっ!?」


 カイから出たとは思えない恐ろしく低い声。それは支配して当然だと言わんばかりの圧力でした。


「……。あぁ、そうか。そういうことか。これで合点がいった。確かに俺の家族は『森の民』を狙っている。そこで愚弟は己の手を汚したくないからと、お前達のような輩に依頼したのか」


 そうしてカイは腹の底からため息をついた後、


「反吐が出る。不快だ。それに森の主であるウロを狙うなど以ての外。この罪は重いぞ、人間」


「ひっ、ひっ……!」


「お、お前だって人間だろ! 何の力も無いくせに、粋がってんじゃねぇ!」


「俺か? 言っておくが俺はただの人間じゃない。とある魔法使いの一族の者だ。俺はその中でもたちの悪い魔法使いでね。俺が大事にしているものを傷つけようとした者、もしくは傷つけた者は殺す決まりなんだ。出会った相手が悪かったな」


 カイは何か短く詠唱のようなものを呟くと、彼の背後には大きな魔法陣が浮かんでくるのです。


「あ、あ……」


篝火かがりびよ、絶え間なく燃えろ。灰になって朽ちてゆけ!」


「う、うわぁぁぁ!」


 その時、強大な炎が男達に襲いかかりました。男達は必死に逃げましたが、その一部が服に燃え移ったせいで一気に燃え広がったのです。

 男達は骨も残らずに消し炭になり、灰になって風と共に流れていきます。


「カ、イ?」


「行こう、ウロ。おんぶしてやるから、あいつらのことは忘れるんだ。な?」


 カイはニコリと笑顔で微笑んで、ウロをおんぶします。相変わらずウロの体温は高いですが、それでもカイはログハウスを目指して歩いていくのでした。

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