溶解!! 粘液男!!

 男の身体が走って迫ってくる。

「サム、落ち着いて攻撃しろ」

「分かった」

 男が走ってきていることを利用して、サムが真鍮線を男の前に張った。

「切れてしまえ!!」

 真鍮線は、男を切断した。

 しかし、男は何もなかったかのようにこちらに走り続ける。


 そして、男はサムに向かって飛びついた。

 その瞬間、男の体はスライムのような姿となって、サムの上半身を包んだ。

「ゴボボボボボ」

 サムが溺れている。

 この男の能力は『身体をスライムに変える能力』だ。

 切断されても元に戻ったのも身体の一部をスライムに変えていたから無事だった訳だ。

 しかし、僕も一緒に襲わないところや、サムの身体に侵入しないところを見ると、二手に別れるような器用な使い方は出来ないみたいだ。

 紫炎が居れば蒸発させることも出来ただろう。

 あの五月蠅い奴が居ないのが、ここまで寂しいとは思わなかった。

 スライムに上半身を包まれたサムだが、思ったより冷静だった。

 僕の背後から「シュルシュル」と音をたてて、馬の腸が飛んできた。

 そして、腸がそのままサムの口に突っ込んだ。

「紐状なら、そんな物でも操れるのか!」

「シュコーシュコー」

 サムが息ができるようになった。

 しかし、拮抗状態だ、何がないか周りを見渡す。

 畑の柵、肥料、土壌……

「ゴボバババ」」

 サムの方から声がした。

「まさか、水圧!?」

 僕は思わず叫んでしまった。

 ただの粘液じゃない、生きているんだ。

 押しつぶして殺す事だって出来る。

 生きている粘液?

「くっそぉ、一か八かだ!!」

 僕は思いっきり粘液をめがけて塩をぶちまけた。

 粘液は驚き、人間の姿に戻って苦しみ始めた。

「塩の致死量は、体重1キロに対して0.5~5グラム。 この袋には300グラムの塩が入っている。 効くか効かないかわからなかったがやってみるものだ」

 男は苦しみもがきながら、近くの川に落ちた。

「やったのか? 」

 サムが言う

「この男の能力がまだよくわからない。 もう少し様子を見た方が良いと思う」

 サムと僕は川の方をじっと見る。

「さっきあのスライムに包まれた時しょっぱかったか? 」

 僕は質問した。

「それがなんか、関係あるのか」

「めちゃくちゃある」

「しょっぱかった」

「なるほど、身体をスライムにするという事はそういう事か」

 僕の発言に何かを察したのか、サムが「ぺっぺ」と唾を吐く。

「おそらく、敵は川の水と身体の水の一部を入れ替えて、塩分濃度を下げているんだと思う。 それまでにサムにはある事を任せたい」

 僕はサムに耳打ちをした。

「うまくいくのか? 」

「いくと良いが……」

 サムが能力を発動させ糸を飛ばした瞬間、男が川から這いあがってきた。

「コイツ、不死身か? 」

 僕は眉をしかめた。

 そして、男は僕めがけて襲い掛かってくる。


 身体をスライムに包まれた瞬間、スポーツドリンクを薄めたような変なしょっぱさを少し感じる。

 僕は、ポケットから試験管と石を取り出し、手を伸ばし、出来るだけ身体から遠ざけて割った。

 その瞬間、手の先が一気に熱くなり、気泡と煙を上げる。

 それに反応したスライム男は、僕からスッと、逃げるように離れた。

 僕が目を擦って、スライムを見ると、人間の形なのかスライムなのかわからない状態で必死に体内に入った試験管の中身を取り除こうとしていた。

 煙と気泡がどんどん激しくなっていく。

 僕はサムと一緒に走って男から離れる。


「伏せろ!!」

 男の身体が破裂した!!

 僕は叫び、サムと一緒に伏せた。


「サム頼む!!」

「わかった」

 サムの能力で後方を布が覆い、水しぶきから身を守ってくれたことがわかる。


 顔を後ろに向けると、サムの貼ってくれた布を通して水滴が地面に落ちていった。 

「何で爆発するんだよ? 」

 サムが聞く。

「元素番号37番 ルビジウムだ」

「なんだそれ? 」

「紫炎の炎を紫にする元素だ」

「なるほど、そのルビなんとかっての特徴は? 」

「ルビジウムだ。 一番わかりやすいのは、カリウムやリチウムと同じ、アルカリ金属の一つって事。 水に入れると爆発する。 その際、しぶきを浴びると肌がただれるから、布で守ってもらう必要があったんだ」

「ほげ~」


 サムが頷いている。

 僕はもう少し、男の居た方向を眺めていたら。

 一番大きな水滴があちらこちらに移動しながら、小さな水滴を集めだした。

 そして、集まり、どんどん大きくなっていく。

 僕は息をとめながら、それを眺める事しか出来なかった。


「おい、嘘だろ……」

 サムが眉を大きくひそめる。


 男が復活を遂げた。


「サム、アレの準備は出来ているな」

 僕は叫ぶ。

「あぁ、さっきのが失敗した時の為のプランだな」

「そうだ」

 目の前の狂気的な光景に、恐怖と危機と戦慄を感じる。

 僕は男とにらみ合う。


 男がスライムになって襲い掛かる。

 目の前をスライムが囲み、太陽が透けて見えた。

 その瞬間、二本の線がそのスライムに刺さった。

「ブォオオオオオオン」と低い音が鳴った。

 大きな光と熱を感じ、僕は後ろに倒れながら伏せる。

「サム、ナイスだ」

 僕はサムの方を見た。

 サムはこちらにサムズアップする。


 サムにお願いしたこと。

 それは、柵に打ち付けられていた亜鉛釘とセプラテラ銅貨をあるだけレモンジュースに入れて、真鍮線で繋ぐという作業だった。

 亜鉛と銅をレモンジュースに入れると、ジュースの中でイオンが移動して電池が出来る。

 レモン一個分で1Vの電圧が出せるが、今回は何リットルもある中に大量の亜鉛釘と銅貨を繋いで出力した。

 そして、真鍮線が電気を通す。


 男の身体がスライムとなっているのも、都合がよかっただろう。

 イオンを大量に含んだスライムに電気はかなり効くだろう。

 

 スライムは男の姿となり、そのまま倒れていた。

「亜鉛釘は溶けてるだろうが、銅貨は変色しているだけのはずだ、回収しよう。 あと、レモンジュースを他の人が飲むと大変だから捨てとこうか」

 僕はサムと一緒にレモンジュースの入った樽を持ってきた。

「美味しそうでも、亜鉛が溶けだしてるから絶対に飲むなよ」

 僕はサムに釘を刺す。

 中身を捨てて、銅貨を取り出した。


「埋葬しよう」

 僕は男の遺体を見てつぶやいた。

「え? 」

「きっと、紫炎ならそう言うだろうなぁって思って」


 セプラテラの残りの転生者、残り2人

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