アルミ王

 馬車を走らせ、セプラテラからノーズウェルの国境へ向かう。

「ウヘェ…… どうも、ありがとな」

 馬車の御者が、変色した銅貨に顔を引きつらせながらお礼を言う。


 国境で一旦、両替を行う。

「あぁ…… えぇ…… セプラテラの硬貨をノーズウェル硬化に両替させていただきます」

 両替商が、変色した銅貨に顔を引きつらせながら対応した。


 そこから、二日かけてノーズウェルの兵舎にたどり着く。

「マコトちゃん、生きてたんだ!!」

「まだ、死ぬ訳にはいかないからね」

 抱きついてくる紫炎をスッとかわしてアトラクの方をみる。

「無事でよかった」

「あぁ、死ぬかと思ったよ」

 アトラクに一言かわして、女王様の方を見る。

「時間停止の転生者は捕獲できましたか? 」

「いえ、捕虜自体に嘘の情報を吹き込まれていたみたいです。 おかげで僕とサムは殺されかけました」

「それは、申し訳ない事をしましたね」

「女王様があやある事ではございませんよ。 僕は無事生きていますので」

 僕は複雑な心境で女王陛下に頭を下げた

「これから、各領主と連携を行いセプラテラに侵攻します。 しかし、セプラテラにもまだ転生者が居ます。 そして、そのうちの一人は『アルミ王』と呼ばれている人物です」

 その称号を聞いた時、体中がしびれる感覚になった。


 次に戦う転生者については、セプラテラだけでなく大陸全土に噂が届いていた。

 この世界に転生した後、一代にして莫大な富を得て、領主まで上り詰めた人物。

 工業と商業の天才『アルミ王』と呼ばれる人物だ。


 その者の発明には大変お世話になった。

 ある時には、オチデンターリスを亡命する前に戦った際に利用したアルミ。

 ある時には、印刷技術を使って魔法少女を流行らせた。

 そんな人物だ。


「兵は兵と。 転生者は転生者どうしで戦えという認識でよろしいでしょうか」

「そうです。 貴方たちには『アルミ王』を無力化していただきたいのです」




 国境には既に、セプラテラの兵が並んでいた。

 こちらも対抗して、兵が並ぶ。


 僕と紫炎達は、それを見守っていた。


「ノーズウェルの者よ、話がある!!」


 セプラテラの方から女性の声が聞こえた。

 声の方を見ると、白衣を纏い、ショートカットの髪にメガネをかけて、片手をポケットに入れて、もう片方の手にコーヒーを持った、如何にも研究者と言う見た目の女性が立っていた。

「私は、ノヴァ!! 『アルミ王』と呼ばれたものだ」


「はじめまして、ノヴァさん。 僕はマコトだ、話を聞こうか!!」

 僕は、その声に答える。

 そして、兵の前に出るとノヴァも同様に前に出てきてくれた。


「セプラテラ側としてはノーズウェルが攻め込んでくることは予想が出来ていた。 私は領主として防衛に参戦しろと命令を出された。 しかし、戦いは金を消費するし、人も死ぬ。 『あぁそうですか』と簡単に従いたくは無かった」

 ノヴァは手に持ったマグカップを兵士に渡して、煙草の箱を取り出した。

「不満そうな私を見たセプラテラの役人は『成功すれば金を出す』と言ってきた。 しかし、ここまで消耗した国に大金を払えるわけがない。 そして、ふと、私はノーズウェルに観光に行った時のことを思い出したんだ。 転生者が女王になった記念の式典に魔法少女メニナが居た事をね。 そして、国から出る金よりも大きなビジネスを思いついた。」

 ノヴァは、癖のある白髪を片手でいた。

「そのビジネスが成功すれば、金が手に入る。 領主として多くの人を救う事が出来る。 この交渉に載ってくれるというのであれば、私たちは武器を捨て、君たちに降伏しよう」


「その交渉って? 」

 僕は腕を組みながら聞くことにした。


「順番に説明する」

 ノヴァが指を鳴らすと、兵の一人が台車に三つの瓶を乗せて運んできた。


「右からゼラチン、これは動物の皮から抽出した。 真ん中のは臭化カリウム、これは水酸化カリウムと臭化水素の中和反応で生成する。 そして最後に硝酸銀、これは銀を硝酸に溶かすことで得られる。 この材料で私が何を考えてるか、わかるかな? 」


「まさか……」


 僕は驚き、つぶやく。


 これから、戦いが起こることを忘れ、期待で胸が高鳴るのを感じた。

 ノヴァがもう一度指を鳴らすと、兵士の大きな機械を運んでくる。


 僕は、それを兵器と勘違いするノーズウェルの兵に対して「あれは兵器じゃない、落ち着け」と咎めた。


 そこにはカメラがあった。


 『アルミ王』は、この異世界でカメラを発明した。


「カメラを作って売るという事か? 確かにこの世界なら繁盛しそうだ……」

 僕は顎に手を当てて、カメラを指さした。


「不正解。 君、商売の才能がないね。 第一、それならここで話す必要がないだろ? 」


 ノヴァは僕に対して、冷ややかな目を向けた。


「じゃあ、そのカメラはどう使うんだ? 」


 僕は、答えは既に分かっていた。

 わかっていて、あえて聞いた。

 しかし、これが現実であってほしくないと願っていた。

 僕は自分の予想が外れていてほしい、そして、この場から逃げ出したいという気持ちでいっぱいになった。


「コスプレROMを作ります」

 ノヴァが、真っ黒なクマのある瞳を鋭くする。

「だから、気に入った」

 紫炎が大きな声を上げて反応した。


 嫌な予感が的中した。

 僕が、魔法少女メニナのコスプレをして撮影する事が降伏の条件みたいだ。


 しかし、僕のコスプレ写真が印刷されて、大陸全土に向けて売られる。

 これは、大きな問題だ。


「私、賛成だよ!!」

 紫炎は目を輝かせる。

「うっせぇ、お前は黙ってろ!!」

 僕は紫炎に対して怒鳴りつけた。


 背筋が震える謎の感覚と緊張による吐き気がし始めた。

「出来るわけがない…… 出来るわけがないよ」


「無理か? メニナに頼むだけでいいんだ。 それだけでここに居る全ての兵士が命を無駄にしなくても済む」

 ノヴァが眉をハの字にさせる。


 ノヴァの言葉を聞いた、全ての兵が僕に注目した。


 四方八方から来る視線。

 僕を見る、目、目、目。

 十二指腸の全てを強く握られた様な緊張を感じ、全身から嫌な汗が一気に吹き出る。


 そして、紫炎とノヴァのニターと視線を感じ、自分の中で何かが切れた感覚がした。


「やってやろうじゃねぇか、この野郎!!!!!!!」

 気が付くと僕は大声で叫んでいた。

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