第38話 2射目

 ブラックホールランチャーをじゅうの形へと変えて、敵をたおす準備をする。


「これジャックテイルだったんだな」


 ブラックホール発生のデメリットとして、ワームビーストとの距離きょりが近づくこと――これはラスターにとってデメリットでもなんでも無いが、多大な消費電力もあげられていた。


 その弱点を補う方法として、このランチャーにはジャックテイルが――この武器の後ろ側についてあるプラグを引っ張り、解体したワームビーストのエネルギーコアに向けて投げてすことでエネルギーがうばえる。


「動かしたら、だめなんだっけか?」


 チャージを始めてから動かすと、中で生成したブラックホールによって自壊じかいするとかなんとか。

 意外と考えられているというべきか、ジャックテイルによる給電も、あまり動かしてはいけない――けてしまうので給電が出来なくなる。


 問題があるとすれば、エネルギーだんがバンバン飛んでくる状況じょうきょうで、動かしたらいけないというしばりは、クッソ激烈げきれつに厳しいということだが――


 そんな困難を気にせず、戦艦せんかん級に向けて照準を合わせると、引き金を引いてチャージを開始する。

 ワームビーストのエネルギー弾の命中精度は総じて6割ほど、しかし生まれたばかりであれば、5割を切り、さらにこれほど距離があれば3割を切る。


 逆に言えば百発てば二十発ぐらいは当てられるということである――そして、生まれたての雑魚ワームビーストであっても、それほどの量を無抵抗むていこうに食らえば、大損害間違まちがいなしであった。


「よっと」


 スレスレに飛んでくるエネルギー弾をほんの少し動くことで、紙一重で回避かいひしていく。


「チャージ60――早くたのむぞ」


 ひょいひょいとかわし続けきれるはずもなく、少しずつ被弾ひだんする。

 かたや、足といった丈夫じょうぶに出来ていたり、被害が支障をきたさない範囲はんいしぼって受けていく。


 ブラックホールランチャーに飛んでくる弾も、なんとかバレルの一部に当てつつ、衝撃しょうげきをブーストで中和しながら、姿勢制御せいぎょに専念し続ける。


 躱すことは得意だが、ラスターは受けることも得意であった。


 ひめが背後にいる状態で、攻撃こうげきを躱すわけにはいかないが、去りとて致命傷ちめいしょうを受けたのなら、守るなんてのが続行できない。

 命懸いのちがけで姫を守ることはないが、一生をかけて守り続けるために、受ける部分の取捨選択しゅしゃせんたくを行い、被害を最小限におさえながら、攻撃にえるすべは身に付けている。


「止まった!?」


 チャージが73%から動かない――というより、徐々じょじょに減っていく。

 エネルギーコアのエネルギー切れであろう。イキの良さそうなのを選んだ甲斐かいもあり、ここまでチャージできれば十分である。

 給電をジャックテイルからReXへと移行して、チャージを再開する。


「あぶないあぶない」


 飛んでくるエネルギー弾をくぐりつつ、発射準備が整ったブラックホールランチャーのトリガーを引く。


「くたばれ!」


 黒い靄が集まり――前回同様に飛んでいく黒い球の軌跡きせきが、太いやみへとなっていく。

 重力に引き寄せられたのか、敵の放つエネルギー弾の動きが無軌道に動き、そのうちの一つが、ランチャーに向かって飛んでくる。


「させるか!」


 ラスターは銃から手を離すと、バレル先にまで飛んでいき、エネルギー弾をり飛ばしてなんとか処理する。


「おー、引っ張られる~」


 まだこんなことを言うぐらいには余裕よゆうがあるが、このまま放置していれば自分で放ったブラックホールとやらにつぶされる羽目になる。

 定位置にもどり、銃をにぎりしめると、システムメッセージが表示されていることに気づく。


「姿勢制御の同期接続エラー?」


 警告を消し、意味を考える――といっても、そんな難解な話ではない。

 ようは、ブラックホール射出後の姿勢制御――ブラックホールにまれないように、機械が自動で態勢を保ってくれるはずだが、つい先ほど手を話したことにより、その接続が切れてしまいましたということだろう。


「あー、いやな感じする」


 メッセージだけでなく感覚までもが危機を告げる。この状況を放置していれば、ろくな目に合わないだろう。

 レバーを倒し、前に引き寄せられる力に対抗するように、後ろへと後退する。

 もっとも、本気で引き下がれば動かしすぎで、それはそれで大事故につながる。


「放したらダメだという説明ぐらい、先にしとけやコンチクショー」


 そもそもブラックホールランチャーの使用が想定されていないので、説明がされるはずもない。

 微動びどうする兵器の位置を動かないように神経を使い続けていると、さらなるわざわい災がおそいかかる。


「ひやぁっ!」


 ブラックホールの中にいるワームビーストはエネルギー弾を撃つ余裕なんてないのだが、距離をとっていた個体の中には、まだ敵対意思を見せるものがいた。


「やばい」


 よりにもよって、急増で生み出された雑魚ではなく、最初の段階からいたワームビーストからされるエネルギー弾が、バレルに向けて飛んでくる。

 ラスターはバレルを中心にその場での旋回せんかいを行う。五またに分かれた隙間すきまからエネルギー弾がすり抜けていき、なんとか事なきを得る。


「天才か?」


 現在起動中のバレルでは、エネルギー弾を受けるべきではないと判断しての回避であったが、冷静に考えるとできると思わなかった。


 自画自賛を思わずしてしまう天才の所業に自分でもおどろきである。

 エネルギー弾が無理矢理内部を通ってしまったことで、中の重量がうごめいたのが少し不安になるが、何事もなく終わっていく。


「とりあえず、討伐とうばつ完了かんりょうかね」


 ぎゅっぎゅと引き寄せられて、しつぶされていくワームビーストを見ながら一発で五百どころか、七百も可能であったことに感慨深かんがいぶかく驚く。


 当然その一部は、ここまで敵をけずり続けたことによるものだが――だからといって、この銃の有用性を示すには十分な強さである。


 ――まぁこの銃が主戦力となる日はまだまだ遠そうではあるが。


 全てを倒し切れるはずもなく、それでいて発生した重力力場――ブラックホールにヴォルフコルデーはぐんぐんと引き寄せられていく。


「とりあえずバッテリー残量は問題なしっと」


 残り45%の表記を見ながら、ブラックホールランチャーソードモードへとえていくのであった。

 

 宇宙に死骸しがいを素通りした後、こちらに撃ってきたワームビーストをついでとばかりにいていく。


「さっ、帰るか」


 ここまでやれば、後は残飯処理である。

 武術科に対して、一切合切の干渉かんしょう拒否きょひしていた時代ならいざ知らず、今は面倒事を丸投げしたって許されるはず――やるべき事はやっている。


 戦艦級を潰したので、あとはまどう雑魚をちょっとばかり揶揄やゆいながら帰ればいい――そう思っていたラスターが不思議な様子に気づく。


「逃げない?」


 現在進行形で戦艦級は潰れている最中だが、取り巻く雑魚達が死期をさとれないわけでもあるまい。

 重力にとらわれて逃げられないだけではなく、逃げる意思すら見せないのは、意外ではある。


「うげぇ」


 面倒な状況に気付いたラスターは嫌そうな声をあげる。

 潰れていく戦艦級のエネルギーコア内で蠢く3つのかげ


 ラスターの推測道理、ワームビーストたちは死期を悟っていたのだが、そこからの行動は予想から外れていた。


「共食い……」


 めずらしい出来事に、ラスターは顔をしかめる。

 ワームビーストはおそろしいほどの雑食性をほこるわけだが、その中で唯一ゆいいつ、自身より上位の存在の存在は食べない。

 単純に、リーダー格がやられると逃げるのが自然なだけだが、重力力場による拘束こうそくによって、逃げづらいのが良くなかったのだろう。


 3体のワームビーストが人間を捕食ほしょくした時以上の力を手に入れる。

 窮鼠きゅうそねこむ――鼠はこの世にもういないが、手負いのししは恐ろしいと、ラスターは知識として知っている。


 あくまで知識として――所詮しょせん一般いっぱん論。


 常識が現実を超越ちょうえつする世界なら、ラスターの力量は常識の名の下に存在しない。

 

 つまるところ――

 

「はぁ~、めんどくせ。うそだろ? やめろや」

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