第37話 残された選択肢

「もしかして……死ぬまでの時間が少しびただけなのでは?」


 失態による罪のつぐない方に、ラスターは頭をかかえるのであった。

 ここからコロニーへともどるまでに必要なエネルギー量は、おおよそ40%――ラスターは30でも可能であると考えている。


 だが――そんなことが許されるのは、給電ができる状態のみ。


「ほんと、どうしよう……」


 飛んでくるエネルギーだんを難なく回避かいひしながら、ラスターは新たな問題になやむ。

 ここまでやれば、あとはコロニーの武術科に丸投げしても、戦艦せんかん級の打倒だとうは可能であると考える。


 ただし――被害ひがいは出るであろう。


『どうしてエネルギーが切れるか、戦艦級を倒すまで戦わなかった! そのせいでこちらの仲間が死ぬんだぞ』

 と言われれば、この正論になんと反論すればいいのか?


 もちろん給電できる状態であれば、給電からの再出撃しゅつげきを決行し、


『トータル的に見れば犠牲ぎせいはさらに減らせますが?』と言えば解決する。


 しかし――給電ができなければ?


 ラスターにとっては自分の命は大事だが、武術科にとっては、仲間の命こそが命であり、ぽっと出のよくわからないなんの価値もない命など、どうなろうと知ったことではない。

 他の機体に乗ろうにも、ヴォルフコルデーであれば、コロニーにいるだれよりも使いこなせる実力も、それ以外だとせいぜい……『回避が上手いねー君』ぐらいの実力である。


 つまり、エネルギー切れで戦うことこそが、彼らの仲間を助ける行為こういにほかならず、このまま戻れば、正論という名の暴力になんの抵抗ていこうもできない――暴力が正論だけですむとも思えない。

 もちろん、自分に落ち度がなければ『おれに死ねと? そっくりそのまま返しますが?』で、気兼きがねなくなぐいに移行できるが……そうはいかない。


 バッテリーが30%の段階で戻っていれば済む話。ただただコレにきるのであった。


 警告音がならなかったなど言い訳にもならず。当然、ジャックテイルがついていないことも同様である。

 千五百体のワームビーストを従えてやってきた戦艦級の周りには、未だ八百体ほど残っていた。


 ラスターが倒した数は二千体。


 戦艦級が次々つぎつぎと生み出すワームビーストのせいで、いくら倒しても減ってはいないが、最初に引き連れた千五百体に関して言えば、すでに百体と残ってはいない。

 残りの七百体程のワームビーストは、ビームライフル一撃で仕留められる雑魚ばかりであり、戦艦級もめるにあたって問題となる、大量のエネルギー弾を生み出せないため、比較的ひかくてき倒しやすい状態である。


 しかし、それでも全員が無傷で入れる保証はない。


 八百体もいれば、ビームをすりけて近づく敵もいるだろうし、取り巻きからのエネルギー弾による集中砲火ほうかを食らって倒される可能性だってある。


「せめて、誰にも正体がバレていなければ……」


 こんな間抜けな失態を犯すと思ってもいなかった。

 このまま帰投すれば、彼らの仲間に危害がおよび、そうなれば戦犯探しの槍玉やりだまとして捜索そうさくが開始されるであろう。


 そうして、正体を知っているカンラギに迷惑めいわくがかかるのはまず間違まちがいない。


 存外それは間違いで、こちらの葛藤かっとう馬鹿ばからしいほどあっさりと正体をバラす可能性もあるが、だとしても責めるのは筋違いであり、その場合は――容赦ようしゃなく自分へと迷惑が飛んでくる。


「ぐぬぬ」


 自分の失態を命で償えば、彼らとて文句は言わないだろう。

 そもそもこの機体に乗らずに最初のおもちゃで出撃した場合は、前方でおとりになることで、戦艦級の発射ビーム量を減らし、射撃部隊のサポートをするつもりでいた。


 最終的に、機体性能の低さからワームビーストと武術科にサンドイッチにされたラスターは確実に死んでいたであろう。


 しかし、悲しいかなラスターとて別に死にたくはないのだ。


「どうすれば?」


 このまま戦えば死ぬだろう。

 しかし、引き下がった所で許されない。


「いや、でもあいつらは――あいつら"は"俺に死んで欲しいわけではないよな?」


 トリヴァスの軍上層部と違い、『役目をまっとうしろ! 生死は問わない』と考えているだけで、ついでに死んでくれたら上々と、思う理由があるとは思えない。


 ラスターはリトルナイトでえがかれているような存在とは全く違う。


 素直ではなく生意気で、真面目ではなく不真面目――というほどでもないが、決して真面目ではない。

 命懸いのちがけでひめを守ったこともなければ、大人顔負けのReXの操縦技術なんてのも間違いである。


 ラスターは――そこまでなまっちょろい実力ではなく、その道に生きるプロの面目丸つぶしにする圧倒的実力を持っていた。


 普通ふつうは武術科で学んで軍に入り、ワームビーストと戦う。

 そんな過程を丸々すっぽかして、ワームビースト相手に戦果を上げ続けた結果、軍の面子めんつを潰し、彼らの肩身かたみは少なからずせまくなった。


 自分より年下が評価されていることを気に食わなく思う――そんな幼稚ようちな感情を表に出す恥知はじしらずは軍にいないが、武術科の人間はラスター相手にちゃんと聞こえるように陰口かげぐちはたき、理不尽な因縁いんねんをつけてからんだりと、絶えずいざこざを起こした。


 そして、そんな迷惑な存在に、ラスターが大人の対応をできるはずもなく、売られた喧嘩けんかを買いに買ってめに揉めて――たがいのみぞはどこまでも深くなっていった。


 軍にとっては武術科の人間は、大切な人材である。


 態度にわかりやすく出さないだけで、ラスターに対する嫌悪けんお感は、揉め事を起こせば起こすほど強まっていき、なまじに死ととなわせの生活によって、他者を死に追いやるという選択肢せんたくし考慮こうりょしてしまう。


 そのため、ワームビーストが占領せんりょうしたコロニーへ、ラスターが出撃の決意を固めた事は、わたしに船であった。


 姫の願い――専門家の見解では、すでに死んでいる友達を助けて欲しいというお願いと、普段なら馬鹿な我儘わがままで人を死に追いやる判断を止める立場である軍上層部も、死んでくれたら幸いとばかりに……


 途中とちゅうかえっても、くそ餓騎士の評価は失墜しっついするという思惑が絡み、友達の救出――夜明けが決行された。


 結果は、誰も望まない形に終わったわけであったが……


「ふー」


 息をき、ゆっくりと思考していく。


「死にたくはない」


 それなら戻るか、それとも倒すか。


 この状況じょうきょうでも容赦なくエネルギー弾が飛んでくるが、バッテリー切れが近いならいざしらず、バッテリー残量60%――危機から程遠い。

 戻ればカンラギに――そこから正体まで暴かれたら、ルーナやユリウス、ミレアにまで迷惑がかかる。


 ReXの腕前うでまえが天才的で、判断力だの瞬発しゅんぱつ力だのがいくら優れていようとも、不可能を可能にすることは出来ない。

 せいぜい、可能とは思えないことが可能なだけである。


 シュバルツクロスであれば――ギャランレイズであれば――

 無意味な無い物ねだりをしたところで意味がない。


 このヴォルフコルデーで――そしてこのビームソードで勝つしかないのだ。

 

 そしてそれは不可能――

 

「あれ?」

 

 そしてそれは不可能――ではない。

 

 ここまで悩み続けながら、百をえるエネルギー弾を――といっても、放置していた所で当たりそうであったのは半分にも満たないが、そんな弾をかわしていたラスターに解決策がひらめく。


「残り百体ほどだよな? よしよし、ちゃんとまだいるな」


 電池を見つけたラスターは舌なめずりをする。


「あいにく俺は、まだ死にたくないんでな!」


 目的の物を見つけると、ラスターはそこに向けてけていく。


「おらよ!」


 道中のワームビーストをり飛ばして、お目当ての敵へと近づくと、そのままバラバラに解体する。


「戦艦級だけでも倒しておけば、まぁ文句は出ないよな?」


 ギャランレイズ――夜明けの騎士きし時代に使っていたビームソードであれば、相手を斬り飛ばすことが出来たが、今持っているけんではそれは不可能。

 ワームビーストは、体内に抱えるエネルギーによって、ビームに対する耐性たいせいがある。


 実体剣といえども、肉体が剣を通さない――普通は通らずどんまりを起こすので、倒すのは難しい。

 ラスターはスパスパと切り捨てているが、あくまで切れる場所をねらって切っているだけである。

 戦艦級は現在、ビームに対する耐性が大量のワームビーストを生み出すことによって、かなり減っている状態であるが、それでもおまけとして作られたビームソードでかっさばくには、少し出力が足りていない。

 

 だが――本命に関してなら別である。

 

「同じワードで大丈夫だいじょうぶだよな?」


 ラスターはキーボードを取り出すと、コマンドを入力していく。

 剣の持ち手がガチャリと音を立てながら曲がり、剣身が分裂ぶんれつすると、下側から前にた持ち手の一部をふくめた五またのロングバレルへと変貌へんぼうする。


「これならいける!」

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