第8話 十番隊

 シズハラ会長――隊長? の号令に従い、武術科生徒が次々つぎつぎと並び始める。


「敬礼! 休め!」


 声に合わせて機敏きびんに動き、靴音くつおとや服音をそろえながら、全く休まらなそうな休めの構えを取る。


「一番から十二番まで報告!」

「一番隊補佐ほさ官、報告します。現在、二番、三番、六番、七番、九番隊の者はこの場におりません。また、異常はありません。以上です」

「四番隊副隊長、報告します。現在、隊長がアシタカ隊員の見舞みまいに行っております。病院からは昼の報告以降は何も聞いておりません。報告は以上です」

「五番隊隊長、報告すべきことはありません」

「八番隊隊長、右に同じくありません」

「十番隊隊長、ヒヤマ生徒会長、並びにカンラギ副会長からの連名にて、新たな部下の打診だしんが来ております。報告は以上です」

「十一番、特になし」

「十二番隊タイチョ、同じく!」

了解りょうかいした! 各自、隊長の指示に従い持ち場につけ、一番隊は今後に向けての相談がある。先に別室にて待機」


「ハッ!」


「四番隊と十番隊にも話がある。残りなさい――以上、解散」


 ダッダッダッとはなれていき、そして弛緩しかんした雰囲気ふんいきもどると、各自持ち場につく……というよりきたえ始めたり、駄弁だべんっていたりと様々であった。


「シズハラ隊長――あいつはどうでしたか」


 一人の男が心配そうに声をかけてくる。

 先程いたのは、四番隊と呼ばれた人達が居たあたり――あいつと言うのは、入院したうで無しのことであろう。


「まだわからん。無事だとは思うが原隊復帰は難しいだろう」

「そうですか……彼らは?」


 ゾロゾロとやってきたラスター達――ラスター、ルーナ、ミレア、ユリウス、カンラギの五人は顔を見合わせる。


「見学?」


 なぜ来たかと言われても、どう答えたらいいのかわからないラスターは適当に答えた。


「十番隊に入る予定のラスター=ブレイズさんです」


 なんの役にも立たない雑な説明をしたラスターに代わって、カンラギ副会長が補足する。


「初めまして、十番隊隊長――リーフ=アルビデだ。よろしくたのむよ」

「どうも、ラスター=ブレイズだ」


 円滑えんかつに話が進みラスターは十番隊の隊長と固く握手あくしゅを交わす。

 鍛え上げられたガチガチの手に、ラスターより数センチ上の身長でありながらも、不思議と威圧いあつ感を感じさせない物腰ものごしやわらかさを備えた青年に仲良くなれそうな雰囲気を感じる。


「とりあえず、君の実力を見せてもらっていいかな?」

「よろしくお願いします――どうすれば?」

「まずはそうだね。案内するから付いてきてくれ。それに後ろの人たちもどうぞ」

「はーい」


 元気よく返事をする――ラスターではなくルーナが。

 

「これって……ゲームじゃ?」


 連れていかれた先でルーナが不思議そうな顔をした。

 目の前に並ぶ六台のかたみ体――三台は中にむタイプであり、使用中の看板がかっており中の様子は見えない。

 残り三台の内、使われているのは一台であり、せまり来る敵――ワームビーストと戦っているが、遊んでいるのか、訓練しているのかは意見が分かれそうであった。


「これで、ラスタァが遊べばいいの?」


 遊ぶという言葉に、十番隊隊長――リーフは苦笑をらすが、優しく教え始める。


「そうだね。これでなにが苦手でなにが得意かを知れるといいかな? まぁ、これでわかるのは、正直あんまりないんだけど――心構えというのもあるね」

「ほぇ~」


 結局のところ、あまり意味はないと言われたようなものだが、質問したルーナは大層満足している。


「がんばれ!」

「お、おう」


 電源を入れて、空いている台に乗り込む。

 基礎きそ訓練用の難易度低めのステージを選択せんたくすると、ラスターは椅子いすに座りベルトをめる。


「ラスター=ブレイズ出撃しゅつげきしますよっと」


 ゲーム開始の合図でしか見ない発射口からの出発を行うと、黒い画面――宇宙空間へと飛び立つ。

 設定ではコロニーを守るため、迫り来るワームビーストを撃ち落とせと言ったものになっており、ゲーム画面から『油断するなよ』などの掛け声が出てくるが……現状敵が出てこず、ダラダラと飛んでいる中で緊張きんちょうしていたら身がもたなそうであった。


「500m先、敵影てきえい確認!」


 黄色にぼやぼやと光る敵の姿が見え始める。

 ぽけーっとしながら時に身を任せていると、300と数字が変わり、うっすらとワームビーストを象った敵に変化していく。

 周りに見えるお仲間もちらほら撃ち始め、ラスターもボタンをす。


「当たらんなー」


 ビームライフルを適当に撃ち続けながらラスターはぼやく。

 難易度が低いだけあって、敵の数は少なく、ひまなのはラスターだけでなく、見ている側も同様である。


じゅうじゃなくてけんでやるのはないの?」


 き始めてきたルーナがリーフに聞く。


普通ふつうは無いよ」「ありませんよ」


 リーフより早く、ラスターが画面からよそ見して答え、


「剣を使うような状況じょうきょうになった時点で生存率はガクッと下がるらしいからね~」


 当たらないビームライフルをまわして、笑いながら付け加える。


「でも、あの騎士きしは剣を使ってたような?」

「騎士?」「映画の話か」

「もうちょっと集中してやらんか!」


 リーフとルーナの雑談に混じろうとするラスターに、いつの間にかやってきたシズハラがしかり飛ばす。

 これ以上ラスターの集中が切れることを危惧きぐしたシズハラがリーフに目配せすると、ルーナに向き合って話し始める。


「戦いの基本はたまをいかに当てるかが全てだ。遠い敵も近い敵もね」

「近い敵も……なんです?」

「さっきの彼が言ったように剣を使うような状況はそれだけで生存率が下がるから、デブリ帯付近のワームビーストを相手にするやつらでも銃格戦技が主流だよ」

「銃格戦技?」

「こんなのだよー」


 リーフとルーナの会話に口をはさんだラスターは操縦桿をたおした、ワームビーストに向かって突進とっしんすると、手に持つ銃を振り下ろす。


「あれ? ……まじ?」


 振り下ろした銃は敵をすりけ、おどろいたラスターはあわてて距離きょりを取る。そして、敵のワームビーストに向けてビームを放つ。


「うわぁ」


 座席がガタンとれると、警告音や表示がチカチカと光り、対処する暇もなく電源が落ちたかのように真っ暗になった後、リザルト画面へと移る。


「あーあ、死んじゃったー」

「ふざけるからだな」


 どこかやる気の抜けたラスターにシズハラは侮蔑ぶべつかくさずいう。


「ふざけるって……いきなり後ろに現れるビーストワームは卑怯ひきょうでしょ」


 今回の敗北理由は銃格戦技が成功しないモードでの接近戦ではなく、機体の後ろをねらって追いかけるワームビーストに対して警戒けいかいおこたったことである。


「ふざけてるから、気づけないんだ!」


 シズハラの叱咤しったに、ラスターはかたをすくめるながら座席から降りていく。


「結局、銃格戦技って?」


 何一つわからなかった戦法であるが、リーフがやれやれと首を振りながら解説する。


「雑に言えば銃を使っての格闘技かくとうぎだね。基本的にワームビーストとの近接時における対処法として、射程圏内けんないに入れるために距離を取るための戦い方だな」


『たまに例外がいるけど』と小声で付け足して締めくくる。

 ワームビーストとの基本的な戦い方はビームライフルによる射撃で倒すこと。

 それでも、状況次第では前衛と後衛に別れなければならないときもあるため、前衛での戦い方として、そのような特殊とくしゅ技能を収めているものがいる。


「じゃあ剣ってのは使われないの?」

「作り話の中での出来事だ」


 シズハラにバッサリと切り捨てられて、悲しそうな顔をするルーナの頭を、ラスターは優しくでる。


「そんな顔するなよ。そもそも……別にないわけじゃないよ」

「ほんとに? 剣で戦う人もいる?」


 首を横に振り、そういう人は滅多めったにいないと前置きしてラスターが続ける。


「騎士のような、守ることを目的とした人なら銃よりも剣を使ったりするよ……結局の所は生存率が下がるのが問題なんだ。目的が本人の生死でない場合、案外剣で近くに来る敵をはらう事に専念するほうが良いって場合もあるんだよ」

「じゃあいるの?」

「いるよ――といっても、この手のゲームに剣の設定がされることはめずらしいけどね。結構作りもあらいし」


 悲しそうな表情をするルーナをはげましながら頭を撫でていると、シズハラが命令をしてくる。


「とりあえず次は体力を見る――走れ!」

「せめて場所ぐらい言えや」


 どこに向かうんだよ? 自宅か?

 シズハラ大隊長の雑すぎる説明の補足をリーフ隊長にしてもらいながら、ラスターの体力測定が始まった。

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