51. ギルド受付嬢なら
51. ギルド受付嬢なら
そしてしばらくして料理が出来上がりオレとアンナは美味しく頂く。そのあと、野営の準備はオレがやることになった。それを見ていたアンナから興味津々にテントの張り方を教えてくれと頼まれたので、一緒に野営の準備をすることにした。まぁ冒険者じゃなくてもこのくらいならオレでも問題はない。
アンナは魔法の練習で疲れたのか、もうテントの中で寝ている。見張りはリリスさんがやってくれるとのことなので安心だ。オレはそのままテントを出て、リリスさんの元に向かう。
「リリスさん。ちょっといいですか?」
「どうしましたエミルくん?私がいくら美人だからと言って夜這いはいけませんよ?そもそも私のほうが強いので簡単に殺しちゃいますけど?」
「違いますよ!真面目な話があるんですよ」
「話ですか?」
そしてオレはリリスさんの隣に座る。辺りはもうすっかり暗くなっていた。目の前にある焚き火がとても暖かい。そしてしばらく沈黙が続いた後、オレは口を開く。
「あの……リリスさんって昔はどんな人だったんですか?オレ、リリスさんの昔のこと何も知らなくて……」
「え?」
「休暇届けをもらった時にそう思ったんです。ギルド『フェアリーテイル』で働いている仲間として、マスターとして、リリスさんのこともっと知りたいなって……」
するとオレのその言葉を聞いてリリスさんはキョトンとしている。なんかダメだったかな……。
「ごめんなさい!変なこと聞いちゃいましたよね!忘れてください!」
「……あー。なるほど。男らしさが皆無のエミルくんの精一杯のムード作りですか。わざわざこんな廃村で誰もいない、夜空には輝く星、焚き火の炎の灯りがロマンチックな雰囲気を作って……ふむふむ。普通にダサいですね」
「いやそんなつもりじゃ……」
「普段から一緒の家で生活しているんだから遠慮なく聞いたらいいじゃないですか。それにそんな改まって言われると恥ずかしいですよ?」
いやまぁ……確かにそうなんだけどさ。今までは特に気にしてなかったオレが悪いんだけどな。
「まったく……エミルくんは乙女心が分かっていませんねぇ。そういうところですよ。私はジェシカちゃんじゃありませんよ?この程度のムード作りでドキドキするわけないですよ?『ロマンチックな雰囲気ならなんでも話してくれるかも』という妄想や理想は捨ててください。女性は案外ドライです」
クリティカルに毒を吐かれるオレ。そう言われて少し落ち込む。やっぱりオレって女心を理解出来てないのかな?
「まぁエミルくんにしてはよく頑張りましたね。では特別に私の昔話をしてあげましょうか。何が知りたいんですか?私の初恋とかですか?」
「初恋!?いや違います!そのどうして冒険者になったのかなって」
リリスさんの初恋……気にならないでもないが、今はそれよりも聞きたいことがある。そして、一呼吸おいてリリスさんは話し始めた。
「私はこのルイン村で生まれ育ちました。それこそ平凡な……美人で可愛い女の子でした。両親は共に冒険者とは縁のない一般人でした。とても幸せに平和に生きてました」
「そうだったんですね」
「でも突然そんな平和は失われます。魔物の蹂躙によって村は壊滅しました。私以外は全員亡くなり、そして私だけが生き残りました。それからは両親や村のみんなを殺した憎き魔物への復讐の為に生きていました。」
「リリスさん……」
「でも世間は冷たいものです。その時の冒険者の世界は男社会でした。幼い少女の私が何をしようとも認めてはくれない。すべてをねじ伏せるには力が必要だった。力があれば何を言われようとも認めさせることができる。それから私は血反吐を吐きながら努力して、修行して、魔法を習得して。すべてのジョブをマスターしてSランクの冒険者まで登り詰めたんです」
そんな壮絶な過去があったなんてな。知らなかった。
「でも……そんな時に出会ったんですよ。私の運命を変える存在に」
「運命を変える存在?」
「はい。それはギルド受付嬢のお姉さんです。そのお姉さんにはその時しか会っていないですけど、今でもハッキリ覚えています。その人が言った一言が今も忘れられません。」
そしてリリスさんはオレの顔を見て言う。
「『あなたがギルド受付嬢なら色々な冒険者といっぱい幸せを共有できるね!』と」
「えっ……」
リリスさんは優しく微笑む。その顔はとても幸せそうに見える。
「その言葉通り、私はギルド受付嬢になろうと思いました。私ならどんな依頼でも冒険者にアドバイスができる。そして依頼成功の喜びを分かち合えるんじゃないかって。もちろん私みたいに辛い思いをする人を一人でも少なくしたいですし、私みたいな人を救いたい。それが私にとっての幸せなんです」
「リリスさん……」
「だから私は今こうしてギルド受付嬢をしているんです。あの時のあの人の言葉で私は変われた、いえ。救われたんです。」
そう言ってリリスさんは立ち上がる。辺りを見渡すとすっかり夜になっていた。月明かりが廃村を照らしている。
「さてと……そろそろ寝たほうがいいですよエミルくん。君は魔物が現れても戦えないんだから。見張りは任せてゆっくり休んでください」
「リリスさん」
「どうしました?」
「ありがとうございます。話してくれて……」
「いえいえ。だからこれからもよろしくお願いしますよマスター?」
リリスさんはそう言って微笑む。オレはリリスさんのことを少しだけ知ることが出来た。リリスさんがどんな思いでギルド『フェアリーテイル』ギルド受付嬢として働いているのかを。
「はい。こちらこそ!」
そう力強く返事をして、オレはテントに戻るのであった。
【毒舌系転職ライフ!】『フェアリーテイル』へようこそ!~リリスさんのパーフェクトマニュアル~ギルド冒険者を指南します! 夕姫 @yu-ki0707
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