50. 見れば分かります

50. 見れば分かります




 次の日の朝、オレとアンナはリリスさんの故郷へと向かうための準備をしていた。地図を見れば王都から馬車を走らせて2時間ほどの距離。朝早くから出れば昼前には着くだろうと思っていたのだが……。


「ルイン村?そんな村とっくに廃村に決まってるだろ?」


「えっ?でもここに書いてありますよ?」


「その地図はだいぶ古いやつだ。確か20年前に魔物の大群に襲われて壊滅してるはずだぜ?」


 そう言って馬車のおじさんは馬車を出してくれそうにもない。まさかこんなことになるなんて思わなかった。リリスさんの故郷が既に無くなっていたなんて……じゃあリリスさんは何のためにルイン村に?


「どうする?別の道で行ってみるか?」


「仕方がないわね。それしかないみたいだし。ほらアイス買ってさっさと行くわよ!」


「なんでアイスを買うんだよ……」


 そうしてアイスを買ってオレとアンナは徒歩でルイン村へと向かっていく。一応王都の外なので魔物が出てきたらアンナに任せることにしよう。


「ねぇエミル」


「なんだ?」


「エミルって前はリリスとパーティー組んでたんでしょ?どんな感じだったの?」


「どんなって言われてもなぁ。いつもニコニコしていて優しくて強かったって印象かな。完璧超人って感じだな」


「ふーん。なんかリリスって本当に強いのか分からないのよね?アタシ見たことないし」


 そう言えば、リリスさんが戦っているところをアンナは見たことないのか……。まぁそもそも最初の『適性試験』の時、ゴブリンロードから助けてくれたのはおそらくリリスさんなんだけどな。


 そんな会話をしながら歩いていく。そして休憩しながら歩くこと4、5時間ほど経った頃だろうか。ようやく村の跡地が見えてきた。辺り一面焼け野原になっていて、建物も原型すら留めていない。


「これが……リリスさんの生まれた村なのか……」


「リリスはここで何してるのかしら?やっぱり秘密の特訓してるのよ!アタシも負けていられないわね!」


「だから違うって。とりあえずリリスさんを探そう」


 オレとアンナは村の中を散策していく。やはりというべきか人の気配は全くない。もしかしたらリリスさんもいないかもしれないと思ったその時、アンナがいきなりオレを押し倒す。


「おっおい!どうしたんだ?」


「伏せてエミル!」


 すると、オレとアンナの頭上を何かが通り過ぎる。そしてそれは地面に突き刺さった。それは矢だった。オレがその矢が飛んできた方向を見ると複数体のリザードマンの姿があった。


「エミル下がって!くらいなさいファイアボール!」


 アンナはリザードマンに火球を放つ。だが、リザードマンはアンナの魔法を軽く避けていく。


「ちょっと!なんで当たらないのよ!」


「おいおい!アンナ!落ち着け!まずは冷静になれ!」


「分かってるわよ!もう!ムカつくわね!」


 その時、一瞬で一匹のリザードマンの首が飛ぶ。そしてそのまま残りのリザードマンの首を次々に斬り裂いていき、リザードマンの群れは全滅してしまった。オレとアンナはその光景を見て呆然としていた。


「……あれあれアンナちゃんとデートって犯罪じゃありませんか?ついにここまで落ちぶれましたかエミルくん。それに合わせて私のストーカーとは感心しませんね?」


「リリスさん。いやそんなつもりは!これには事情があって……」


「冗談です。来ると思ってました。ついてきてください」


 そう言ってリリスさんは歩き出す。オレはアンナに手を貸して起き上がる。アンナの顔は真っ赤になっていた。


「アンナ大丈夫か?」


「べ、別に大丈夫よ!あんなトカゲなんて余裕なんだから!」


「ならいいけど……無理すんなよ?」


「……うるさいわね」


 こうしてオレとアンナはリリスさんの後を追っていく。そして着いた先は1軒の家……いや、家があった場所だった。


「ここは……?」


「私の家でした。今は誰も住んでいませんがね。」


「それにしてもさっきの魔物はなんなの?」


「ここは廃村してから20年はたってますからね……私は定期的にこうやってお掃除に来ているんです」


 そう少し寂しそうな顔で言うリリスさん。20年前に廃村になった村。だとしても、ここはリリスさんの故郷だから。


「エミルくん、アンナちゃん。良かったらお手伝いしてもらえませんか?村のみんなへの挨拶がまだでしたから」


 そう言うリリスさんの表情はとても穏やかだった。そしてそのまま村の外れにある場所にたどり着く。そこは墓地。たくさんの墓石が並んでいる。


「ただいま帰りました。今、綺麗にしますからね」


 そう言ってリリスさんは花束を置き手を合わせる。オレとアンナもその隣で同じように手を合わせた。それからオレたちは黙々と作業を続けた。全てを終えた頃には夕方になっていた。


「さてエミルくん、アンナちゃん。ありがとうございました。今から王都へ戻るのは危険なので、今日はここで野営しましょう。ご馳走作りますからね」


「えっ?でも食材とかあるんですか?」


「もちろんですよ?たくさん持ってきていますから。まぁ残したらさっきのリザードマンみたいに首をはね飛ばしますけどね?」


 怖すぎ。マジギレしたら本当にやりそうだもんなこの人。


「それじゃあ待っていてくださいね。あっそうだアンナちゃん。さっきのはなんですか?天才魔法少女が呆れます。私が言ったファイアボールの練習をサボってますね?そんなんじゃ最強になんかなれませんよ?」


「なっ!なんで分かったの!?あ。」


「私は最強で美人のギルド受付嬢ですから。見れば分かります。まったく、2度とアイスを食べたくなくなるように氷魔法で氷漬けになりますか?罰として私が夕飯を作るまで練習しておいてください」


「うるさいわね!いつか絶対アンタを超えてやるんだから!やるわよ!やればいいんでしょ!」


 氷漬けはヤバすぎだろ……。そうしてオレは近くの木陰に腰掛ける。アンナは頬を膨らませてファイアボールの練習をしている。なんだかんだ言っても素直だよなアンナは。ふと空を見上げると、夕日が沈みかけていた。


 リリスさんの故郷……か。リリスさんの過去についてオレは何も知らない。せっかくだしリリスさんのことを色々聞いてみるかな。

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