第9章 男?特訓?疑惑の休暇届け?リリスさんの故郷ルイン村

49. 完全に否定はできない

49. 完全に否定はできない




 ギルド『フェアリーテイル』も順調に活動していき、この王都でも名前が馴染んできたある日のことだった。


 その日の営業が終わって片付けをして、自分の部屋でゆっくりしているとリリスさんがオレの部屋に入ってくる。


「エミルくん。今日もお疲れ様です」


「リリスさん。どうしました?何か用事でも?」


「はい。これを」


 そう言ってリリスさんはオレに紙を一枚手渡す。そこには『休暇届け』と書かれていた。


「えっと……これは?」


「すいません。明日から3日ほどお休みをいただきたいと思いまして。私の仕事はジェシカちゃんとレイアちゃんにお願いしてますから」


「それは全然構わないですけど……珍しいですね。リリスさんが休むだなんて」


「はい。実は実家に帰ろうと思っていまして」


 あーなるほど。リリスさんの故郷か。


「分かりました。楽しんできてくださいね」


「ありがとうございます。それでは失礼しますね」


 そう言うとリリスさんはオレの部屋から出ていく。そういえばリリスさんの実家ってどこなんだろう?そもそもリリスさんについてあまり知らないんだよな。


 そして翌日。受付カウンターの仕事はオレとレイアがジェシカさんのフォローをもらいながら何とかこなしていく。意外に受付カウンターの仕事は大変だ。


 特に冒険者の中にはガラの悪い奴も多いし、中にはジェシカさんやレイアをナンパしてくるような輩もいる。正直めんどくさいがこれも仕事のうちだし仕方がない。それにしてもジェシカさんってやっぱり凄いな。


 あんな風に声をかけられても全く動じることなく対応していくし、表情一つ変えずに淡々と仕事をこなせるのは尊敬する。


「どうかしたマスター?私の顔になんかついてる?」


「いや、なんでもないよ」


「ふーん。あっそうだマスター。リリスさんから渡してって頼まれてた地図渡しておくね。その地図の場所、リリスさんの故郷だって何かあれば連絡してって言われたから」


「ああ、ありがとうジェシカさん」


 ジェシカさんから渡された地図を見てみると、この国の端っこにある村の名前が記されていた。『ルイン村』か。ここからだと馬車で2、3時間くらいの距離かな。そんなことを考えているうちに夕方になり、今日の業務も終わりを迎える。オレがジェシカさんと後片付けをしているとアンナが声をかけてきた。


「ねぇエミル」


「あれ?まだ帰ってなかったのか?」


「うっさいわね!ちょっと聞きたいことがあるのよ。リリスはどうしたの?もしかしてサボり?」


「そんなわけないだろ。リリスさんなら今日から3日間休みだよ。実家に帰るらしい」


「はぁ!?そんなこと聞いてないわよ!」


 それを聞いたアンナが膨れ出し、騒ぎ出す。そう言えばアンナには何も言ってなかったな。まぁ言っても無駄そうと判断したのはオレだからオレが悪いんだけどな。


「……怪しい。男じゃないの?リリスに男が出来たとか」


「リリスさんに限ってそれはないと思うぞ……たぶん」


「なら絶対秘密の特訓をしてるのよ!ずるいずるいずるい!アタシをSランクの冒険者にしたくないから意地悪してるのね!」


「いや、それもないだろうな……」


 そもそもリリスさんはSランクの元冒険者だ。完全に否定はできないけど、特訓をする理由はない。意地悪はしそうだけどさ。


「もうこうなったら直接問い詰めないと気が済まないわ!」


「こら。リリスさんだって大人の女性なんだから別に何してたっていいでしょ?プライベートのことに詮索しない」


「そうだぞ。リリスさんのせっかくの休みなんだからそっとしておいてやろう」


「そんなこと言ってエミルはリリスのこと気にならないの?アタシの言ったこと完全に否定できるの?」


「いや……それは……」


「ほら見なさい!やっぱりエミルだって気になってるじゃない!それにマスターのくせに何も知らないのはどうかと思うわよ!?」


 確かにアンナの言う通りだ。オレがリリスさんのことを気にしていないと言えば嘘になるし、何も知らないのは事実。そんなのマスターとして失格だよな!


「……よし!明日はオレも休みだから一緒にルイン村に行くぞ!」


「え?ちょっとマスター?」


「最初からそうしていればいいのよ!まったく素直じゃないわねエミルは!」


「……なんでマスターはアンナに丸め込まれてるの……?」


 こうしてオレたちはリリスさんの実家に向かうことになった。リリスさんには悪いとは思うけど、別に浮気調査に行くわけではないし、もし本当にリリスさんが特訓していたとしても問題はない。そう、これはマスターとしての確認だ。ただの確認。決してやましい気持ちなんてない。

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