27. 購入者と販売者の心理

27. 購入者と販売者の心理




 翌日。その日の営業を終えてから、オレはメルさんをギルド『フェアリーテイル』に呼び出す。そして、そこでオレは昨日考えたことをメルさんに伝える。


「メルさんのアイテム屋の売上の5割はポーションかマナポーションです。そして普通のポーションが銅貨5枚。ハイポーションが銀貨1枚で売られてます。マナポーション系も同じなので説明は省きます。間違いないですよね?」


「はい。それで合ってます」


「じゃあエドガーさん。エドガーさんならポーションとハイポーションどちらを買いますか?」


「そりゃ……ポーションだな。ポーションは2割、ハイポーションは6割ほど体力が回復するがそこまでの依頼じゃなきゃ必要ないからな」


「そうなの?ハイポーションのほうがいっぱい回復するからお得じゃない?アタシでも分かるわよ?まぁもったいない気はするけど……」


「アンナ正解だ。少ししか体力が減ってないのにハイポーションは『もったいない』。だからポーションを買うんだ」


 それは購入者の心理だからな。だからと言って値段を変えてはダメだ。オレはメルさんにそのまま売上アップの方法を話す。


「つまり。選択肢が2つしかないからダメ。もしそこに『銅貨8枚で体力を4割回復できるポーション』があったら?どうですか?エドガーさん?」


「確かにそれならそれを買うかもしれんな」


「これが『三択の心理』です。ポーションでは足りない、でもハイポーションまでは必要ない。だから大体の人はそのポーションを買いますし、もしかしたらアンナの言った通りで『もったいない』から銀貨1枚のハイポーションを購入してくれる可能性が上がる」


 オレの言葉にエドガーさんとアンナは驚いているが、そのまま続けていく。


「そしてそのポーションの近くに……銅貨2枚で買える解毒剤などを一緒に置いておく。するとハイポーション1つの値段でポーションと解毒剤が買えるから更にお得に感じます。これが『ついで買いの心理』です」


「なんかエミル……いつもと違って頼りになるじゃない!あ。でも。絶対買うわけじゃないわよね?そしたらどうするの?」


「どうもしないさ。もしそのまま普通のポーションを購入されてもメルさんには何のマイナスにもならない。でも、これが10人に1人、100人に1人でもそのポーションを購入してくれたなら……どうですか?ワクワクしてきませんか?」


「なるほどな。よく考えてるじゃないか。オレたちには思いつかなかったぞ。流石は元商人だな」


 オレの説明を聞きながら、3人とも感心したような表情をしている。するとメルさんが一番重要なことを聞いてくる。


「あの新しくポーションを作るってことですか?そんなこと……熟練の調合のスキルが必要ですし……そんな人がいなければ無理では……」


「そうです。それがこのギルド『フェアリーテイル』では出来ます。ウチには最強のギルド受付嬢がいますから」


「こらこらエミルくん。美人が抜けてますよ?頼まれた物持ってきましたよ?簡単に出来ました。効果は保証しますよ?」


 そこにリリスさんがやってきてオレが頼んでいた物を持ってくる。そうさっきオレが話していた例のポーションだ。色はポーションが青でマナポーションが赤。普通のものより少し濃くなっている。そして瓶にはかなりデフォルメされたリリスさんのシールが貼ってある。こんなシールいつの間に……。


「まさか……本当に調合できるなんて……」


「名付けて『リリスポーション』略してリリポですね。まぁ私にかかれば問題ないです。私は最強ですからねアンナちゃん?」


「なんでいちいちアタシに言うのよ!性格悪いわよリリス!」


 ドヤ顔するリリスさんと膨れるアンナ。本当におとなげないですよリリスさん……。オレは気を取り直して、メルさんに話す。


「メルさん本題です。売上を伸ばす方法を説明します。まずポーションとマナポーションを100個用意してください。そのうちリリスさんが調合して80個を納品します。20個はウチの取り分。するとメルさんは銅貨200枚損になって、80個を売ると1つで普通のポーションを販売する時より3枚の利益だから480枚の得になって結果銅貨280枚分の利益が出ます。そしてギルド『フェアリーテイル』はそのまま40個販売出来れば320枚の得です。」


【メルさんのアイテム屋】

 元 200個×銅貨5枚=1000銅貨

 戻り 160個 つまり-銅貨200枚

 販売 160個×銅貨3枚=480銅貨

 結果 480-200=+280銅貨


【ギルド:フェアリーテイル】

 元 無料

 取り分 40個

 販売 40個×銅貨8枚=320銅貨

 結果 +320銅貨


「これなら赤字にはならないはずです。そしてウチはメルさんのアイテム屋に誘導できるようにこのリリスポーションをカウンターで販売しながら『他のアイテムをお求めならこちらへ』と宣伝もできます。あとはこのリリスポーションを『新発売』とすることで更に購入意欲を高めることができます。まぁ取り分が銅貨40枚多いのは、リリスさんの人件費と宣伝費だと思って了承してください」


「すごいですね……こんな方法で売れるんですね……しかもギルドまで儲けることが出来るとは……驚きです」


「まぁあくまで理論値です。でもオレを信じてください!絶対にメルさんのアイテム屋の売上をアップさせますから。そしてこれが成功したらこれからもウチと取引してもらえませんか?お願いします」


 オレが頭を下げるとエドガーさんとリリスさんも頭を下げ、その様子を見てアンナも戸惑いながら頭を下げる。オレはその光景を見て嬉しくもある。このギルド『フェアリーテイル』のマスターだと改めて思わせてくれる。


「頭を上げてください。お願いするのは私の方です。こちらこそよろしくお願いします」


 そうメルさんは笑顔で答えてくれた。あとは実際にやってみて効果を確認するだけだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る