第27話 黎明
その嘆声に導かれるように私は双眸を閉じた。
「閉じ続ければ朝が来るから」
その震え声はとても滑らかで清らかであり、大地に叫喚するように噴煙をもたらすようなこの炎が憎しみの炎であっても、その烏有に帰す惨状を嘆く声はそっと触れるオルゴールの音色のように優しかった。
白煙が視界を遮るように蔓延し、吐く息も吸う息も途端に苦しくなる。壮絶な覚悟を押し付けるように灰燼も無慈悲に堂々巡りのように降ってくる。私は決死の覚悟で息を止めた。大丈夫だ、私は死なない。念じれば念じるほどに根拠のない自信が大地の根を張るように生まれた。
大丈夫だよ、きっと大丈夫。火柱の火竜のうねりのような勢力がようやく、糸が切れたように停止した。
細やかな粉塵が舞い、それは粉雪のように微熱を帯びて硬い床に降り積もっていくと、私は一安心したのか、強烈な睡魔に襲われた。
くらくらして、そのまま床へ雪崩落ちるように伏せると、このまま、茨の森で永遠に昏睡する眠り姫のように眠り続けたら彼に会えるだろうか、と念を唱えると数多の時空の亡霊を引き連れるような走馬灯を見かけたような気がした。
目を覚ましたとき、黎明だった。背中がアスファルトの路上に当たり、早暁の仄かに真珠色のような朝焼けで今が東雲だ、と理解した。今日は土曜日だったから良かった、と思った安穏も束の間だった。
私は一晩中、夜通し、野宿していたんだ、と突きつけられると、帰宅したらお父さんやお母さんが心配しているかもしれない、と冷や汗が止まらなかった。私はそのまま帰路へ向かおうと蒼然とした朝風を浴びながら歩き始めた。
十五夜奇譚 摩訶不思議な図書館での出来事。 詩歩子 @hotarubukuro
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