第26話 榊の葉


「出口は? 出口は!」


 書庫の焦げ茶色の分厚い扉を叩いた。開かない。


「誰か、ここから出して! お願い、出して!」


 火柱は天井近くまで到達し、一酸化炭素中毒というのか、咽喉が締め付けられるように息が苦しくなってきた。下火してもなお、熱い。紅炎の痛みが飛び火するようにすごく熱い。


 赤い波状攻撃が無慈悲に背中を押した。焼き焦げる。私の身体が丸焦げの炭のように焼き焦げたらどうなるのだろう。


「榊の葉だよ」


 天井から助人のような天使の声が耳に入った。


「真君なの? そこにいるのは」


 返事はない。とにかく榊の葉を天井に向かって投げよう、と私は一縷の望みを託して、私は火炎の嵐に向かって思い切り投げた。


 猛炎はすぐさま、跡形もなく消え去り、爾後が嘘のように消失した。


「僕は今、ここにはいない。君を忘れかけているんだ。ここにいる僕は僕じゃない誰かなんだ」


「真君の仕業なの? これは」


 涙声が聞こえない。どうして、私の信念は知ろうとしないし、その心の声さえも聞こえないの? 


 私は本当に可笑しくなってしまったんだろうか。ああ、嫌だ。私はこんな冥土の底のような静寂の最果てでは死にたくない。


「目を閉じ続けて」

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