第21話 青い図書館


 汗牛充棟の本棚が一寸の隙もなく、隈なく並べられている知的な光景はまるで、西洋童話に登場する古書街の中にある、歴史と風格のある青い図書館のようだった。


 漆喰で出来たタイルの内壁が館内を重厚に覆い、漆塗りの門扉には金色の取手が付いてあった。


「誰かいますか?」


 内観と雰囲気から察するにいくら、都城市立図書館の内装が全国的にも有名で、都会的なスタイルで立派とはいえ、どう見ても、ここが都城市立図書館ではないのは確かだったように感じた。スッポトライトが照らした大きな大理石の机上には、多くの本が無造作に並べられてある。


 ただ一度たりとも、見た機会がないような内容の本だった。おかしいな。週に三回は図書館に行くからだいたいの本は知っているのにここにある本は面識もなければ、異国の言語で書かれてあるのかも見当がつかない。



「ここはどこなんだろう」


 つい、独り言が漏れると、鉄製の釣鐘草のアーチのオブジェが付いた飾り窓からは月明りが見えた。


「あなたを助けた代わりに探してもらいたいものがあるのです」


 私は首を傾げた。そこにいたのは有ろうとことか、私の行く先を封止させた小夜里さん、張本人だったからだ。


 こんなにところになぜ? と私がまばたきを繰り返していると、小夜里さんは見透かしたように不敵に笑む。


「あなたはここには来られないんじゃなかったの?」


「私は砕かれた鏡の片割れを探しているのです。片方は私の手元にあるのですが、もう片方はどこへ行ったのか分からなくなっているのです」


 孤影を託した鏡とは何を指すのだろうか。


「どこでなくなったのかもわからないの?」


「そうですよ。片割れの鏡がこちらです」


 その月夜の陰影を纏った鏡の片割れはいかにも古く、分かりやすく的確に初対面の人に伝えられるとしたら、水から水へ流れる、古代の祭祀で使われていたような鏡だった。


 博物館でも見かけた青銅製の鏡。鏡の表には唐草柄の文様が微細に彫られてあった。


「この鏡はなぜ、二つに割れてしまったの?」


「その前に私の話を聞いてください」


 小夜里さんは机上の前にあった太く黒いチョークのような椅子に腰掛けた。


「言い伝えがあるのです。この地に伝わる古の語りが」


 小夜里さんは息を止めたように長い昔語りを始めた。


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