第14話 書きかけの小説
書きかけの小説
市立図書館は数年前にリニューアルオープンし、全国的にも有名でまるで海外の名門大学の瀟洒な図書館のような内観で、常に多くの市民で平日から賑わっている。
元々はショッピングモールの跡地にあった吹き抜けのあるホールはエレベーターを擁する時計塔を前面に打ち出し、吹き抜け部分からは燦々と照らされる外光が零れ、ゆったりと充実した時間を過ごせる。
閉館時間も夜の九時まであるので私は市内で働くお母さんの帰りを待って、平日は夜遅くまでこの図書館で子守り替わりのように過ごしている。
夕方の四時からほぼ九時まで過ごせば、そりゃあ、まとまった時間もあるわけで勉強と読書くらいしか、邁進する日課がなければ、長編小説の一編くらい、文豪でもないくせに書いてやろうと思う野望なわけだった。
夜ご飯はコンビニで軽くおにぎりとサラダを買って、指定された場所で済ませ、今日も一心不乱にパソコン画面上と格闘する。書きかけの小説は百枚まであと一歩だった。
こんなに長く書いた経験は今まで一度もないからそれなりの達成感と感銘を受けた。とはいえ、初めて長丁場に執筆したからこそ、知り得た苦労も多かった。
正直、疲れるし、肩は凝るし、二時間くらい、辞書と格闘しながら書き進めているから集中力は持続する。
お父さんが昔、使っていたパソコンを譲り受けて許可を得て使用しているから経済的には損はないものの、時間を浪費していないか、霹靂されていないか、周囲の反応を伺ってばかりだった。
読むのはあっという間なのに一字一字文字を起こそうとすると思った以上に鈍く動く微細な神経を使うんだ、とぎこちなく書き進めながら手を痛め、心の底から酷く痛感してしょうがない。
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