第11話 月痕


 君が夜の底を靡かせたような傷跡は、私の月痕のような孤独も掻き鳴らす。


 星の齢を背くように君は、夜な夜なその一炊の夢のような魂に傷を乞うのだね……。


 


 茜射す月夜にこんな曼珠沙華は君が流した血の涙となって、赤い彗星の雫のように降らすんだろうか。


 空火照りの皇子原公園に咲く、曼珠沙華の葉辺に青筋揚羽蝶や黒筋揚羽蝶が夕霞を背景にさらなる戯れ蝶として登壇するように棚引いていた。


 


 幻夢の箱庭のような皇子原公園はどことなく、爽籟の夕風を連れ、華胥の国で胡蝶の夢を見るように丹つらっていた。


 世界の最果てのような、ここでこうやって、文庫本を読み耽る日も早々はないかもしれない、と朧げに時津風を浴びながら私は不意に自覚した。


 


 秋が紅葉前線を連れ、冬に細雪が地上へパウダーのように舞い、霧島山が地表が一面、白銀に光ってから、灰色の如月で一旦停止したように思うと、永遠の春がやって来た。こうして、四季折々の詩を奏でながら私は高校生二年生になった。


 


 御池にはシジュウカラが鳴き、薄色の菫が道端のあちらこちらでその花の、かんばせのような蕾を咲かせ、きらきらしい、射干の花が水辺の茂みに秘匿するように夏めいて咲く。


 星彩のような躑躅が薄霞の春空に向かって果敢に咲くし、紫苑色の藤の花の木立が皇子原公園に咲く。


 初夏が過ぎたら長雨ばかり降るし、そんなじめじめした栗花落の雨情を託した青い時期も過ぎたら、また常夏が訪れた。


 


 そんな季節感を彩る、リフレインの波に身を委ねれば高校生活もあと一年しかなかった。


 土日はいつも部活動で予定が埋まっているわけでもないから何もないし、そろそろ予定進路を考えなくちゃいけない、と焦ったけれどもなかなか、思い付かない。


 

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