第10話 夜長月、曼珠沙華 皇子原


 始業式の夜長月の朝、近藤君の席は二学期から浮いたように空っぽだった。学校でも突然の転校が話題になったものの、すぐさま話題は関係のない興味関心へと変わったのは彼岸花が咲き乱れる、野分後の秋湿の日だった。


 中学から知り合いだった人が誰もいなくなった、と私は何となくではあるものの、寂寥感を引き摺っていた。


 


 農業クラブでもそれなりには友達とは話すけれども、ぽっかりと開いた空虚感を満たせるようには、上手くいかず、何か、物足りなかった。


 暑気盛る、真夏は子供が雀色時、帰路に向かってかけっこするように立ち去っていく。暮れかけた朱夏は玄冬を越さないと流転するようには会えないのだ。



 夏色を祓ったような、色無き風が吹く彼岸の頃、私は曼珠沙華が咲き乱れる禁断の花野のような皇子原公園で文庫本を読んでいた。


 莉紗とラインしなくなったし、莉紗は莉紗で新しい人間関係ができて忙しいんだろう、と思うと遣る瀬無い感覚に胸が押しつぶされそうだった。


 受験までラストスパートだからだろう、お兄ちゃんは塾に籠って、ほとんど家に帰ってきていない。


 


 彼岸花。曼珠沙華。狐花。死人花。天蓋花。捨子花。想思花。


 


 同じ赤い花なのにその異名は方言も含まれば、ゆうに百種類も越えているのだという。


 覚えきれない、赤い花のような君は。


 君が自ら象嵌したような、天が紅のような腕の傷を私は思い起こす。


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